2016年9月2日金曜日

松下村塾は下関? 日経「点検・安倍外交(下)」の説明下手

日米同盟」をテーマにした(中)ほどではないものの、1日の「点検・安倍外交(下)」も説明下手が目立っており、褒められる内容ではない。例えば見出しは「北方領土で問われる真価 経済協力の具体化、壁高く」となっているが、なぜ「壁高く」と言えるのか記事にまともな説明はない。
震災後の熊本城(熊本市) ※写真と本文は無関係です

記事の問題点を列挙してみたい。

【日経の記事】

来日する際には下関にお連れしようと思っている」。8月13日、夏休みで帰郷した安倍晋三首相は下関市の自宅で開いた後援者の会合でロシアのプーチン大統領を招待する考えを示した。

温泉でくつろげる旅館にも宿泊。信頼を深めるには格好の場で「プーチン氏の宿舎として事前視察だろう」(政府関係者)とみられている。松下村塾や松陰神社など訪問先の選定に入った

ウシャコフ大統領補佐官(外交担当)は30日、プーチン氏の12月訪日を発表。首相は31日に会談した鈴木宗男元衆院議員に「ありがたい」と語った。ただロシア側の一方的な発表に外務省内には不快感も漂う。

ロシア側の要求は東京も含めた公式訪問だが、首相は「第2次政権の発足時からプーチン氏に山口に来てほしいと言っている」とこだわる。ウクライナ問題でロシアと対立する米国への配慮もある。対ロ外交は日米関係とも密接に絡む。

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◎松下村塾や松陰神社は「下関」にある?

記事の書き方だと「松下村塾や松陰神社」が下関にあると受け取れる。しかし、実際には山口県萩市にあり、下関とはかなり離れている。読者の多くは松陰神社が下関にあるのか萩にあるのか知らないのだから、誤解を招くような書き方は避けるべきだ。


◎「ありがたい」の意味は?

プーチン氏の12月訪日を発表」を受けて「首相は31日に会談した鈴木宗男元衆院議員に『ありがたい』と語った」と記事では述べている。これは訪日に向けて尽力した鈴木氏に感謝したものか。それとも訪日の発表があったことに関して「喜ばしい」という気持ちを述べただけなのか。そこは明確にしてほしい(他の記事からは後者だと思えるが…)。

記事には、鈴木氏が首相にロシア問題で助言する話も出てくる。読者の中には鈴木氏とロシアの関係を知らない人も多いので、なぜ鈴木氏が出てくるのかの説明も入れるべきだろう。


◎なぜ「逆接」?

ロシア側の要求は東京も含めた公式訪問だが、首相は『第2次政権の発足時からプーチン氏に山口に来てほしいと言っている』とこだわる」とのくだりは、なぜ逆接なのか。この書き方だと「東京も含めた公式訪問=山口には行けない」と感じる。しかし、東京と山口の両方を訪れれば、双方の希望が叶うはずだ。首相の「こだわり」が「東京ではなく山口」ならば、その点を明示すべきだ。

記事の後半部分にも問題は残る。

【日経の記事】

首相が北方領土問題を巡り提示したのは「新しいアプローチ」。領土問題の試金石となるのが5月の首脳会談で自身が示した8項目の経済協力の具体化だ。日ロ関係筋は「幅広い協力から北方4島の帰属の解決案を導き出す」と解説する。

7月、鈴木氏が首相に「9月のウラジオストクでの首脳会談で経済協力を具体化すればプーチン氏の胸にストンと落ちる」と助言すると、首相は「できる限りのことはやりたい」と意欲を示した

「早く白黒はっきりさせてほしい」。8月中旬、モスクワを訪れた国際協力銀行(JBIC)の幹部と会ったガルシカ極東発展相は極東ロシアから海底ケーブルを通じ北海道に電力供給する構想への期待をあらわにした

首相は安全保障協力にも取り組む。今秋に谷内正太郎国家安全保障局長が訪ロし、プーチン氏側近のパトルシェフ安全保障会議書記と協議する案もくすぶる。首相が対ロ外交にこだわるのは中国とロシアの連携にくさびを入れたい思惑もある。

対ロ外交は父・安倍晋太郎元外相が晩年、心血を注いだ。秘書としてその背中を見ていた首相にとってロシアへの思い入れは強い。単なる米国追従とは一線を画すのが外交哲学でもある。

4島一括返還か、妥協を認めるか。戦後の対ロ外交は原則論と譲歩論がぶつかりあってきた。首相が探る柔軟なアプローチは一定の譲歩を意味する。歩み寄りは国内世論の反発を招くリスクを抱える。だからこそ世論に信を問う衆院解散論もくすぶる。領土問題の解決を政権のレガシー(遺産)にできるか。安倍外交の真価が問われる。

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◎「経済協力の具体化、壁高く」?

これで記事は終わりだ。「経済協力の具体化、壁高く」と感じただろうか。「領土問題の試金石となるのが5月の首脳会談で自身が示した8項目の経済協力の具体化」であり、「首相は『できる限りのことはやりたい』と意欲を示した」らしい。そして「(ロシアの)ガルシカ極東発展相は極東ロシアから海底ケーブルを通じ北海道に電力供給する構想への期待をあらわにした」という。

ウクライナ問題でロシアと対立する米国への配慮もある」のだろうが、記事から「経済協力の具体化、壁高く」と判断するのはかなり無理がある。「経済協力、具体化へ機運高まる」とでも言われた方がしっくり来る。


※記事の評価はD(問題あり)。今回は3回の連載を通して完成度の低さが目立った。連載を担当した政治部では「なぜこうなってしまったのか」を真摯に検討してほしい。

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