つづら棚田(福岡県うきは市) ※写真と本文は無関係です |
【ダイヤモンドの記事】
だが、こうした投資が花開き、本格的に収益に大きく貢献するようになったのは90年代後半以降のこと。それまで30年以上も冬の時代を過ごした。それでも投資を継続できたのは彼らに「勝利の法則」があったからだ。
それが徹底した長期戦略だ。陳腐に聞こえるが、ネスレはこの原則を1866年の創業来150年にわたり愚直に守り続けてきた。08年からCEOを務めるポール・ブルケは本誌の取材に対し「ネスレが今これだけの企業になったのは、長期的視点で経営を行ってきたからだ」と断言する。
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これを読むと、ネスレは長い「冬の時代」があっても諦めずに「投資を継続」する企業だと思える。「徹底した長期戦略」を「創業来150年にわたり愚直に守り続けてきた」のだから。ところが、同じ「Part 1」の「売却候補はこうして仕分ける 独自ツール『アトラス』の全貌」を読むと、話が違ってくる。
【ダイヤモンドの記事】
ところが2012年以降、ネスレは4年間で総額約26億スイスフラン、現在の為替で約2600億円分の事業を売りまくった。とりわけ13年にCEO(最高経営責任者)のポール・ブルケが、成功している事業へ資源を集中させるために低調な事業の売却を加速すると公言してからは、売却の嵐。約20件が処分された。
中略)グリーンゾーンに分布されたセルは、魅力があって競争力を持つものが多く、それらは成長を加速させるために資源を投入すべきビジネスに位置付けられる。
魅力が少ないレッドゾーンに仕分けられると、ビジネスの修正を迫られる。結果として売却されたのが表「ネスレが売却した事業」にあるビジネスだ。また、日本では15年に缶コーヒー事業から撤退した。
資金や人材などのリソースは、基本的にレッドゾーンのビジネスからグリーンゾーンのビジネスへと振り向けられる。
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上記の説明を信じるならば、「低調な事業」に「資金や人材などのリソース」を投入しないでさっさと売却するのがネスレの方針だと言える。だったら今は、「冬の時代」が続く不採算事業に「投資を継続」したりしないはずだ。なのに「30年以上も冬の時代を過ごした」事業に投資を続けたことを例に挙げて「徹底した長期戦略」と言われても困る。
「“21世紀の石油”で覇権握る 水から約1兆円稼ぐ勝者の理」という記事から、もう1つ奇妙な記述を取り上げてみたい。
【ダイヤモンドの記事】
ネスレは長期戦略を貫き続けるために、短期利益を求める株主に対してヘッジを行っている。
時価総額世界13位の超巨大企業でありながら、金融資本主義の本丸で、短期利益の追求に敏感な米ニューヨーク証券取引所には上場していない。加えて英ロンドンや東京の株式市場からも撤退し、上場先を四半期決算の開示義務のないスイスに絞っている。この時点で、短期志向の株主をスクリーニングしている。
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まず「短期利益を求める株主に対してヘッジを行っている」が分かりにくい。「ヘッジを行う」と日本語で言う場合、「損失回避のための取引をしておく」といった意味になる。だが、それでは「株主に対してヘッジを行っている」が何を言いたいのか理解できない。英単語の「hedge」には「垣根を作る」という意味があるので、そう解釈すれば成り立つ。ただ、日本語の中に組み込む場合、「ヘッジする=垣根を作る」と考える人は稀有だろう。
やや話が逸れるが、この特集には余計な横文字が目立つ。「ヘッジを行っている」は「壁を作っている」とでもすれば、かなり分かりやすくなる。「スクリーニングしている」も「選別している」で事足りる。別のインタビュー記事の中には「なぜネスレ日本はターンアラウンドできたのですか」との質問も出てくる。これも「方向転換できたのですか」で十分だ。
本題に戻ると、ニューヨーク、ロンドン、東京の各市場に株式を上場しないことで「短期志向の株主をスクリーニングしている」との説明にも疑問が残った。スイスには「短期志向の株主」がほとんどいないというなら分かる。だが、そうしたデータは記事には出てこない。「上場先を四半期決算の開示義務のないスイスに絞っている」と書いているだけだ。
「四半期決算の開示義務がないのだから、短期志向の株主もほぼいない」と筆者が考えているのであれば甘すぎる。日本も以前は四半期決算の開示義務がなかったが、その当時も短期志向の株主は珍しくなかった。
今回の特集は基本的に「ヨイショ系」だ。個人的には好みではないが、「ヨイショ系だからダメ」とは言わない。ただ、この特集はヨイショに無理が多すぎる。
※特集全体の評価はD(問題あり)。「Prologue~なぜネスレは凄いのか」については「『Prologue』から苦しい週刊ダイヤモンド特集『凄いネスレ』」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/09/prologue.html)を参照してほしい。特集を担当した臼井真粧美副編集長、泉秀一記者、土本匡孝記者への評価もそこに記している。
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