2016年9月11日日曜日

資源高は良いこと? 日経「商品市況が回復傾向」への疑問

例えば、新聞をめくっていて「失業率が上昇 10%台を回復」との見出しを目にしたら、どう感じるだろうか。「失業率が上がるって望ましいこと?」と疑問を抱く人も多いはずだ。「回復」とは「悪い状態になったものが、もとの状態に戻ること」(デジタル大辞泉)なので、この言葉はある種の価値判断を伴ってしまう。その点を念頭に置いて、10日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面の「商品市況が回復傾向 日経・東商取指数、3週ぶり高水準 」という記事を読んでほしい。
佐賀城本丸歴史館(佐賀市) ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

商品市況が回復傾向だ。東京商品取引所の上場商品で構成する日経・東商取商品指数は9日、217.39となり3週間ぶりの高水準になった。ロイター・コアコモディティーCRB指数も8日、185.63と2週間ぶり水準になった。在庫減少などを受け原油相場が大幅高となったのが波及。資源関連株の押し上げ要因にもなっている。

原油の国際指標であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は同日、1バレル47ドル台の2週間ぶり高値を付けた。米エネルギー情報局(EIA)が8日発表した米国内の原油在庫が1999年以来となる大幅な減少となった。中国が同日発表した8月の貿易統計で原油輸入量が前年比24%増えたこともあり、需給が締まるとの見方が広がった。

銅や石炭など他の資源も在庫の減少やドル安を受け値上がり傾向となっている。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの芥田知至主任研究員は「米国の早期利上げが遠のいたとの見方から、投資家が若干リスクオンの姿勢に傾いている」と指摘する。

----------------------------------------

商品相場は高い方が好ましいとは限らない。立場による。記事では「商品市況の回復傾向」をもたらしたのが原油、銅、石炭などの資源価格の上昇だと説明している。資源国ではない日本にとって、資源高は全体で見ればマイナス要因だ。もちろん資源関連の権益を持っている商社、資源価格の上昇に賭けている投資家などにとっては歓迎できない事態ではある。ただ、日経としてはそちら側に回る理由はないはずだ。なのに、「資源価格の上昇=好ましいこと」との前提で記事を書くのは頂けない。

ついでに記事の後半部分にも注文を付けておきたい。

【日経の記事】

資源価格の上昇を受け、9日の株式市場では恩恵を受ける企業が相次いで年初来高値を更新した。日立建機が9カ月ぶり、三菱商事が10カ月ぶりの高値をつけたほか、コマツも13カ月ぶりの高値まで買われた。

中国景気に対する過度な不安が後退していることも投資家心理の改善につながった。東洋証券の大塚竜太ストラテジストは「売られすぎていた株を中立に買い戻す投資家の動きも株価を下支えしている」と話す。

ただ、先行きは不透明だ。米国の原油在庫の減少はハリケーン襲来による一時的なものとの見方が多く「原油相場がさらに上がる感じではない」(石油天然ガス・金属鉱物資源機構の野神隆之氏)という。原油との相関関係が高い資源関連株についても「ここから更に買い進む動きにはなりづらい」(楽天証券の窪田真之チーフ・ストラテジスト)との指摘が出ていた。

----------------------------------------

売られすぎていた株を中立に買い戻す投資家の動きも株価を下支えしている」というコメントの意味が理解できなかった。「売られすぎていた株を中立に買い戻す」とは、具体的にどういうことだろう。長年にわたって市場関連記事を読んできたが、「中立に買い戻す」との表現に触れたのは初めてだと思う。

株価に「中立水準」のようなものがあって、それを下回った銘柄をその価格水準にまで引き上げると理解すればいいのか。それとも投資家にとって本来保有すべき金額が「中立水準」としてあって、その金額になるように買いを入れるという話だろうか。

だが、どちらも考えにくい。前者については、単独の投資家の買いで「中立」を回復できるなら話は別だが、現実的ではない。後者の場合、例えば本来はポートフォリオの中で10%の比率を占める状況を「中立」としていたのに、株価が下がって5%になってしまったので買いを入れて調整するのなら分かる。ただ、記事では「買い戻す」と書いている。これは一般的には「空売りの手じまい買い」だ。だとすると、いくら買い戻しても保有金額の引き上げにはつながらない。

結局、何が言いたいのか解読できなかった。おそらく、東洋証券の大塚竜太ストラテジストが何となく発した言葉を、記者があまり考えずにそのままコメントとして使ってしまったのだろう。


※記事の評価はD(問題あり)。

0 件のコメント:

コメントを投稿