2016年7月4日月曜日

「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解

書くことがなくて苦し紛れに捻り出しているのだとは思う。だとしても、この完成度では苦しい。4日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「経営の視点~ルールが変える競争の姿 車・IT、技術のみにあらず」という記事で、筆者の西條都夫編集委員は日本の自動車メーカーに関して「まじめにコツコツだけで十分か」と心配してあげている。しかし、本当に日本メーカーは「まじめにコツコツだけ」なのだろうか。
震災で被害を受けた熊本城(熊本市) ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

当たり前のことだが日本は島国であり、国内の動向だけに気を取られていると、世界で起きている重大な潮流変化を見逃してしまうことがある。

例えば、日本人の多くはエコカーといえば、エンジンとモーターを併用するハイブリッド車を思い浮かべるだろう。昨年末にモデルチェンジしたトヨタ自動車の「プリウス(4代目)」は販売ランキングの首位を快走し、国内新車販売の2割強をハイブリッド車が占めている。

ところが、世界に目を広げると、少なくとも2015年はハイブリッドが足踏みした年だった。ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹代表によると、世界市場におけるハイブリッド車の販売が昨年は145万台前後にとどまり、前年比で約1割減ったという。

最大の理由は原油価格の下落でガソリンが安くなり、米消費者の燃費志向が後退したことだ。ハイブリッド車の代名詞である「プリウス」の3代目がモデル末期に差し掛かった事情もある。これらはいずれも一時的な要因で、仮に油価が反転すれば、ハイブリッド車が再び脚光を浴びるのは間違いない。トヨタをはじめとする日本メーカーの、技術をまじめに磨き上げる姿勢は何物にも代えがたい競争優位の源泉である。

ただ「まじめにコツコツだけで十分か」という心配も一方で頭をもたげる。世界各国はそれぞれ独自の燃費、環境規制を持つが、米欧と中国という世界三大市場で「従来型ハイブリッド車に冷たい」といって言い過ぎなら、それ以外のエコカーを重視するような規制が導入されつつある。

「それ以外のエコカー」の中には、電気自動車や燃料電池車などの排ガスゼロ車のほか、外部電源から充電できるプラグイン型ハイブリッド車も含まれる。欧州連合(EU)はプラグイン車がかなり有利になる燃費算定方式を採用しており、それもあって欧州勢はプラグイン車の品ぞろえで日本車に先行している。

中国も電池だけで走れる距離の長いプラグイン車重視の姿勢を示し、米国ではカリフォルニアなどの有力州が排ガスゼロ車の普及を強力に促す規制の導入を決めた。こうした動きを「日本車包囲網」と騒ぎ立てるのは被害妄想の感を免れないが、規制のあり方が競争の有利不利や各社の戦略を大きく左右するのは事実であり、各メーカーや日本政府は世界にアンテナを高く張る必要がある

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「欧米や中国では従来型ハイブリッド車以外のエコカーを重視する規制が導入されつつあるのに、日本メーカーはそれを認識していない。海外の規制に関心を示さず、まじめにコツコツ技術を磨くだけで大丈夫なのか」と西條編集委員は心配しているようだ。

世界中で幅広く事業展開するトヨタなどの自動車メーカーが、海外でのルール変更に無知だとは考えにくい。「実は何にも知らないんだよ」と西條編集委員が確信しているのならば、その根拠を記事中で示すべきだ。

ちなみに6月16日の日経の記事(筆者は不明)では、トヨタについて以下のように述べている。

【日経の記事(6月16日)】

世界各国で環境車に対する政策変化が起こっている。対応次第によっては、将来の自動車メーカーの勢力地図を塗り替えかねない。

米国では歴史的に先進的な環境規制を導入してきたカリフォルニア州が18年に、環境車の規制を厳しくする。メーカーに一定数量の販売を義務付ける環境車の対象からトヨタが強いHVを除外し、EVや燃料電池車(FCV)に狭める。

トヨタはFCVに力を入れており、14年に国内で発売。米国でも15年10月に発売した。ただ、本格普及には水素ステーションの整備が前提。一部の工程もネックとなり16年の生産台数は2000台と限られている。

一方、中国ではEVとPHVを「新エネルギー車」と定め、購入者には1台当たり最大100万円程度の補助金を支給して普及を後押ししている。こうした流れを受け、小型車「カローラ」「レビン」にPHVを設定し、18年に現地生産を始める。

トヨタはFCVを環境車の本命としているが、世界の潮流に合わせてPHVも押さえる全方位戦略を進める

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この記事が正しいのならば、トヨタは環境規制に関して「世界にアンテナを高く」張っているはずだ。「燃料電池車(FCV)を環境車の本命としているが、世界の潮流に合わせてプラグインハイブリッド車(PHV)も押さえる全方位戦略を進める」のだから、「従来型ハイブリッド車」に固執しているわけでもない。「環境車の本命」にさえしていない。「まじめにコツコツだけで十分か」と日本メーカーを心配する西條編集委員の認識は間違っている公算が大きい。

あくまで推測だが、西條編集委員は日本メーカーが「まじめにコツコツだけ」の存在ではないと知っているのだろう。しかし、それだと記事としては苦しい。「日本メーカーは海外での規制変更の重要性をきちんと認識し、それに合わせて戦略を定めている」とすると、西條編集委員が何か言ってあげる余地は乏しくなる。だから、多少の無理は承知で「まじめにコツコツだけ」の存在に仕立て上げたのではないか。

ついでに、もう1つ指摘しておこう。「仮に油価が反転すれば、ハイブリッド車が再び脚光を浴びるのは間違いない」と西條編集委員は書いているが、「油価」は2月を底に「反転」している。西條編集委員は原油相場の動きをきちんと理解していないような…。


※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。
西條編集委員に関しては「春秋航空日本は第三極にあらず?」「何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説」「日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事」「日経『一目均衡』で 西條都夫編集委員が忘れていること」も参照してほしい。F評価については「タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り」で理由を述べている。

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