2016年7月21日木曜日

週刊ダイヤモンド「美酒に酔う者なきビール業界」への疑問

週刊ダイヤモンド7月23日号に載った「Inside キリン苦杯でサッポロ復調も 美酒に酔う者なきビール業界」という記事では、「ゼロサムゲーム」という言葉の使い方が気になった。「参加者全員の得点の合計が常にゼロである得点方式のゲーム」(デジタル大辞泉)がゼロサムゲームだ。これを市場縮小が続く「ビール類」市場に当てはめるのは無理がある。どちらかと言えば「マイナスサムゲーム」だろう。
福岡県立修猷館高校(福岡市早良区) ※写真と本文は無関係です

この記事には他にも引っかかるところが多かった。順に見ていこう。

◎シェア10%が必須条件?

【ダイヤモンドの記事】

7月12日、ビール、発泡酒、第三のビールを合わせた「ビール類」の上半期課税出荷数量(1~6月)が発表された。大手4社のシェアを見ると、業界2位のキリンビールは前年同期比1.9%減の32.1%で過去最低。アサヒビール(39.2%)、サントリービール(16.0%)、サッポロビール(11.9%)の3社がシェアを伸ばした。

数字上はキリンの独り負け。だが、残りの3社がたっぷりと勝利の美酒に酔えるわけではない。

ビール回帰──。年初の事業戦略発表会で、各社は今年の方針をこう掲げた。その点では、美酒を手にしたのはサッポロだけだ。

ビールカテゴリーでシェアを伸ばしたのはサッポロとサントリーの2社。だが、サントリーは昨年9月に発売した大型商品の「ザ・モルツ」の増分がある。

つまり、既存ブランドだけでビール回帰を遂行できたのはサッポロだけで、同社は「黒ラベル」の好調により、ビールでのシェアを0.7%増やした。黒ラベルは基盤の弱かった西日本で販売増を果たし、4月発売のブランド初の派生商品「黒ラベルエクストラブリュー」が寄与した格好。

だが、そんなサッポロも決して安泰とはいえない。ビール類は巨額の設備投資が掛かる装置産業で、「10%のシェアを割ると採算が合わなくなる」(アサヒ幹部)といわれる。サッポロは、昨年のビール類のシェアが11.5%で危険水域。今上半期のシェア回復で「何とか一命を取り留めた」(業界関係者)にすぎない

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サッポロは、昨年のビール類のシェアが11.5%で危険水域。今上半期のシェア回復で『何とか一命を取り留めた』(業界関係者)にすぎない」と筆者の泉秀一記者は言う。「10%のシェアを割ると採算が合わなくなる」とすれば、シェア1%前後のオリオンビールはなぜ存在しているのか。

ついでに言うと「設備投資が掛かる装置産業」という表現には違和感がある。「カネが掛かる」ならば分かるが「投資が掛かる」とはあまり言わない気がする。「巨額の設備投資が必要な装置産業」「設備投資に巨額の資金が掛かる装置産業」などであれば問題は感じない。


◎これまでは「営業活動だけで年間数量を増加」?

【ダイヤモンドの記事】

キリンが独り負けになった最大の要因は、「年間数量の増加」を目指して昨年末に数字を作りにいったことによる、極度の在庫の押し込み、つまり需要の先食いにある。

そもそも、もはやビール業界では、営業活動だけで年間数量を増加させ続けることに限界があるビール類市場全体の今上半期の出荷数量は、前年同期の98.5%で昨年に続いて過去最低を更新

最も数量の大きかった1994年と比較すれば「サッポロ1社分が丸ごと消えている」(ビールメーカー首脳)のが現実なのだ。もはや前年比の“呪縛”に取り付かれたゼロサムゲームの先に、明るい未来がないことは明白だろう。

あるキリン幹部は「もはやビールの製造技術は業界の競争領域ではない」と主張する。製造技術に勝敗を分けるだけの差がない今、中長期の利益創出には「共同生産などの協調は必須」である。協調路線で国内の効率化を図り、その原資で海外を攻めるほか成長の道はない

目先の年間数量やシェアに拘泥せず、自社製造のプライドを捨てる決断に踏み切る者は現れるのか。勝者なき戦いの末に、全社が苦杯をなめるのか。ビールのおいしい季節にあっても、業界に酔いしれる余裕はない。

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1994年と比較すればサッポロ1社分が丸ごと消えている」のであれば「前年比の“呪縛”に取り付かれたゼロサムゲーム」とは言い難いのは既に述べた通りだ。

そもそも、もはやビール業界では、営業活動だけで年間数量を増加させ続けることに限界がある」との説明も引っかかる。「これまで営業活動だけで年間数量を増加させ続けてきた」のなら分かる。しかし、「ビール類市場全体の今上半期の出荷数量は、前年同期の98.5%で昨年に続いて過去最低を更新」しているのであれば、「増加させ続けることに限界がある」も何もないだろう。

それにビール業界は販売拡大の手段として「営業活動だけ」に頼ってきたとも考えにくい。発泡酒や第三のビールを開発したのは「営業活動だけ」に頼っていない証拠だ。そう考えると、泉記者の解説は前提から間違っていると思える。

付け加えると、注釈なしに「今上半期の出荷数量」について「過去最低」と書くのは感心しない。「統計を開始した平成4年以降で1~6月期の過去最低を更新した」(産経)という話だろう。単に「過去最低」と言われると「終戦直後よりも今の方が出荷数量は少ないんだな」と思われても仕方がない。読者に親切な書き方を心がけてほしい。

泉記者にもう1つ教えておきたい。「協調路線で国内の効率化を図り、その原資で海外を攻めるほか成長の道はない」というのは誤りだ。「国内市場は伸びないが、協調路線は採らない」との前提でも「成長の道」はある。

10%のシェアを割ると採算が合わなくなる」「サッポロは、昨年のビール類のシェアが11.5%で危険水域」との条件設定が正しいのならば、まずはサッポロ以外の3社がサッポロをシェア10%割れに追い込めばいい。サッポロの撤退による残存者利益を得て国内市場での成長が可能となる。サッポロが撤退時に工場を売却するのであれば、それを買ってもいいだろう。

「そんなの不可能だ。協調路線しかない」と泉記者は反論できるだろうか。


※記事の評価はD(問題あり)。泉秀一記者への評価もDを維持する。

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