2016年7月30日土曜日

米グラウカスの伊藤忠リポートに関して日経に求めるもの

29日の日本経済新聞 朝刊投資情報3面に「伊藤忠株急落で対応も 日本取引所CEO、金融庁も関心」という気になる記事が載っていた。「米運用会社のグラウカス・リサーチ・グループが伊藤忠商事の会計処理に疑問があるとのリポートを出し、それで27日に同社株が急落した件」について、日本取引所グループの清田瞭グループ最高経営責任者(CEO)のコメントを紹介したものだ。
靖国神社(東京都千代田区) ※写真と本文は無関係です

コメントを記事にするのは悪くない。ただ、グラウカスのリポートの内容は日経の記者も分かっているはずだ。まずは自分たちでグラウカスの手法が「合理的な根拠のない風評などを流す行為」に当たるかどうか分析してほしかった。

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

日本取引所グループの清田瞭グループ最高経営責任者(CEO)は28日、米運用会社のグラウカス・リサーチ・グループが伊藤忠商事の会計処理に疑問があるとのリポートを出し、それで27日に同社株が急落した件について「不自然な取引があったかどうか調べることも可能」と述べた。株取引に問題があれば、必要に応じて対応をとる考えを示唆した。

米グラウカスは企業の財務情報などを調べ、当該企業の株を空売りしたうえで、グラウカスが問題と考える項目を指摘したリポートを出す。リポートを受けて株価が下がれば買い戻して利益を確定する。清田CEOは「(伊藤忠株を空売りした後にリポートを出したのなら)倫理的に若干疑問がある」と述べた。

金融庁や証券取引等監視委員会も今回の件には関心を寄せており、慎重に対応を検討するとみられる。金融商品取引法は株式などを売買する目的で、合理的な根拠のない風評などを流す行為を禁じている

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この記事だけを読むと、グラウカスの行為には「風説の流布」が疑われているとの印象を受ける。ただ、日経QUICKニュース(NQN)の片野哲也記者が27日に書いた「伊藤忠、米社が不正会計指摘 議論の焦点は連結の範囲」という記事の内容からは、「風説の流布」の可能性は非常に低そうに思える。記事の一部を見てみよう。

【NQNの記事】

グラウカスが「不適切な区分変更」として疑義を示したのは大きく分けて3点ある。1つ目は伊藤忠が2011年に米資源大手ドラモンド・カンパニーの持つ権益の20%を取得したコロンビアの石炭鉱山の会計処理だ。取得後に石炭価格が下落し、ストライキの発生もあって採算が悪化した。伊藤忠は15年3月期に同鉱山への出資分を「関連会社投資」から「その他の投資」に変更したが、グラウカスはこの処理で1531億円相当の損失の認識を回避したと指摘する。

2つ目は中国最大の国有複合企業、中国中信集団(CITIC)への投資を巡るものだ。伊藤忠は15年にタイ最大財閥チャロン・ポカパン(CP)と1兆2000億円を折半出資し、CITIC株の10%を持つ。前期は404億円だったCITICからの持ち分法投資利益や配当などは17年3月期は700億円を見込む。これに対しグラウカスは、CITICは大株主である中国政府の支配下にあるため伊藤忠は重要な影響力を持たず、持ち分法は適用できないと主張する。

3つ目は、持ち分法適用会社である中国食品・流通大手の頂新グループの持ち株会社、頂新(ケイマン)ホールディングについて伊藤忠が15年3月期に連結対象から外した会計処理だ。この結果、15年3月期には約600億円の再評価益を計上した。グラウカスは「会計上の利益は発生したが、経済実態的にも伊藤忠と頂新の関係上も変化は生まれていない」と指摘する。

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伊藤忠の会計処理が「不正会計」に当たるかについては「伊藤忠が採用する国際会計基準(IFRS)では連結対象の範囲は実質的な関係が重視されており判断は難しい」と片野記者も述べており、微妙だろう。だが、リポートの公表は「合理的な根拠のない風評などを流す行為」かと言われると違う気がする。

もちろん日経の記者が「合理的な根拠のない風評などを流す行為」に該当する可能性も十分にあると判断しているのであれば、それを頭から否定はしない。ただ、リポートの中身を日経自身が分析して、それを紙面に載せてほしい。上記のNQNの記事は紙の新聞では読めないはずだし、NQNの片野記者も「風説の流布」の可能性は論じていない。

個人的にはグラウカスの取り組みに高い関心を持っている。仮に伊藤忠の会計処理に問題があり、それが公開情報から読み取れるのであれば、日経がそれを指摘してもよかったはずだ。グラウカスの発信する情報への注目が高まるにつれて、経済メディアとしての日経の存在意義も問われてくるだろう。日経にとっては面白くない展開だろうが、読者としては歓迎すべき動きと言える。

※日経の記事の評価はC(平均的)。

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