2022年1月28日金曜日

「日本はMMTの成功例なのか?」に答えを出さないフォーブス・ジャパン「伊藤隆敏の格言致知」

27日付のフォーブス・ジャパンに載った「伊藤隆敏の格言致知~日本はMMTの成功例なのか?」という記事は問題が多かった。そもそも、この記事では「日本はMMTの成功例なのか?」という問題提起しながら、結局は答えを出していない。そこは後で触れるとして、まずは「MMT」に関する伊藤氏の解説から見ていこう。

夕暮れ時の筑後川


【フォーブス・ジャパンの記事】

国債が自国通貨建てで発行できる先進国では、債務不履行はありえないので、いくらでも国債を発行することができると主張する、MMT(Modern Monetary Theory、現代貨幣理論)信奉者だ。

自国通貨建て国債をいくら発行しても、債務不履行にはならない、というMMTの主張は正しい。しかし、債務不履行にはならなくても、経済には大きな打撃になるシナリオはある。


◎MMTをちゃんと理解してる?

まず「MMT」では「国債が自国通貨建てで発行できる先進国では、債務不履行はありえないので、いくらでも国債を発行することができると主張」しているだろうか。通貨主権を持つ国が能力面で「いくらでも国債を発行することができる」と見ているのは確かだが「MMT」ではインフレを制約条件としている。なので「インフレを抑え込めていれば、いくらでも国債を発行することができると主張」しているなどと説明すべきだ。

それは「先進国」に限った話ではない。「MMT」の主唱者であるステファニー・ケルトン氏は著書の中で「(MMTは)高いレベルの通貨主権を持つあらゆる国において、政策の選択肢を理解し、改善するのに役立つ」と述べている。「MMT」の考えでは、通貨主権さえあれば途上国でも「債務不履行はありえない」と言える(政府が債務不履行を容認する場合は別)。

伊藤氏は「MMT」をきちんと理解しているのか。そこが引っかかった。

記事の続きを見ていこう。


【フォーブス・ジャパンの記事】

将来、国債の償還可能性に少しでも疑問が生じると国債の買い手がいなくなる。買い手を引き留めるには、国債金利を引き上げるか、財政収支を黒字化しなくてはならない。国債金利の急騰は、国債を保有する金融機関に巨額の評価損をもたらし銀行危機に発展する。財政緊縮は、将来世代に増税を課すことになる。

金利高騰も、増税も避けるには、中央銀行が無制限に国債を買い取るしかない。自国通貨建て国債の場合これが可能だが、それはハイパーインフレにつながり、経済活動に大きな混乱を招く。


◎色々とおかしな点が…

将来、国債の償還可能性に少しでも疑問が生じると国債の買い手がいなくなる」という前提が成立するだろうか。「国債の償還可能性に少しでも疑問が生じる」状況は既にある。その象徴とも言えるのが、いわゆる矢野論文だ。

文藝春秋2021年11月号で「あえて今の日本の状況を喩えれば、タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなものです。氷山(債務)はすでに巨大なのに、この山をさらに大きくしながら航海を続けているのです」と財務事務次官の矢野康治氏が認めている。

少し」どころか「国債の償還可能性」に多大な「疑問が生じる」事態だ。矢野論文の発表後には「国債の買い手がいなくなる」事態に発展しただろうか。「国債金利の急騰」が起きただろうか。財務事務次官が「タイタニック号」を引き合いに出して財政の危機的状況を訴えているのに、国債の利回りが0%近辺に張り付いたままなのは、なぜか。

伊藤氏はそこを検討しなかったのか。

ついでに言うと「財政緊縮は、将来世代に増税を課すことになる」という説明が理解できなかった。「財政緊縮」策として増税に踏み切った場合、税金を納めるのは現役世代のはずだ。しかし、なぜか「将来世代に増税を課すことになる」と伊藤氏は解説する。だとすると積極財政策は「将来世代」への減税なのか。こちらの理解力に問題があるのかもしれないが、話が見えてこない。

さらに続きを見ていく。


【フォーブス・ジャパンの記事】

実質成長率が実質金利を上回っていれば、債務は維持可能だ、という考え方もある。これは、この条件が成り立っていれば、毎年の(基礎的)財政収支を均衡させることで、長期的に債務・GDP比率を低くしていくことができるからだ。しかし、現在、成長率が金利を上回っていたとしても、それが未来永劫続く保証はない。

公的債務が積み上がると、国債金利が上昇して、予算に占める金利負担が上昇してマイナスの効果をもたらす。だが、1990年以降、先進国では名目国債金利が長期的に低落傾向にあり、長期的に維持可能な(均衡)実質金利も低下してきたと考えると、より高い債務水準を維持できる。彼らは、日本がMMTの正当性を証明している、という。

しかし、現在の日本には、財政保守派の人たちも、MMT派の人たちも見逃している問題がある。それは日本の人口減少である。20〜64歳の働き手の人口は、1998年をピークに減少を続けている。


◎で「日本はMMTの成功例」?

日本はMMTの成功例なのか?」という話に最も近づいたのが上記のくだりだ。しかし「彼らは、日本がMMTの正当性を証明している、という」と述べた後、本当に「証明している」のかを論じないまま「現在の日本には、財政保守派の人たちも、MMT派の人たちも見逃している問題がある。それは日本の人口減少である」と話を逸らしてしまう。

そもそも日本に「人口減少」という「問題がある」ことぐらい「財政保守派の人たちも、MMT派の人たちも」知っているのではないか。

記事からは「MMTを否定したいけど否定できる論理展開はできそうもない。だから話を逸らせて記事をまとめてみた」という印象を受けた。「日本はMMTの成功例なのか?」という見出しに釣られて記事を読んだ身としては、ガッカリと言うほかない。


※今回取り上げた記事「伊藤隆敏の格言致知~日本はMMTの成功例なのか?」https://forbesjapan.com/articles/detail/45529/2/1/1


※記事の評価はD(問題あり)

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