2021年12月8日水曜日

「ダイビルTOB、2200円は妥当か」に答えを出さない日経 森国司記者

8日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に企業財務エディターの森国司記者が書いた「Ticker ダイビルTOB、2200円は妥当か~含み益考慮の一株純資産2948円」という記事は残念な内容だった。「ダイビルTOB、2200円は妥当か」と見出しで問うならば、森記者なりに「妥当か」どうかの判断を示してほしかった。



記事の後半を見てみよう。

【日経の記事】

ダイビルは不動産の含み益とその含み益を考慮した1株当たり純資産(BPS)を開示している。含み益を考慮した純資産は、不動産を時価評価した場合に株主に帰属する資産を示す。21年3月末の含み益は3年前から4割近く増え、BPSは2948円だった。

今回のTOB価格決定にあたり、商船三井は9月30日に2000円を提案した。ダイビルは価格が不十分として複数回にわたり再検討を要請した。11月に最終的には2200円をダイビルが逆提案し商船三井側が受け入れた。ダイビルはTOBに賛同し、株主に応募を推奨している。2200円は直前の株価に対して5割高い水準だが、含み益を考慮したBPSからは2割超低い水準だ。

ダイビルは「2948円はあくまで会社をたたんで不動産を売り払った場合の理論値。ビルの賃貸など現在の事業を続ける観点でみれば2200円は適切だ」(多賀秀和執行役員)と応募を推奨した理由を説明する。TOBへの賛同手続きでも、取締役6人のうちかつて商船三井に在籍していた3人を除いて全員一致で決議しており、一般株主の利益は守られているとの認識だ。

今回のTOBは22年1月18日まで。株主の判断機会を確保することや第三者が対抗的な買い付けなどに踏み切る機会を妨げないよう、「比較的長期間である30営業日とした」(商船三井)。ダイビル株の7日終値は2209円。含み益をあくまで含みとみるか実現可能とみるか、株主の判断を左右しそうだ


◎そういう問題?

含み益をあくまで含みとみるか実現可能とみるか、株主の判断を左右しそうだ」と記事を締めており、「妥当」性について森記者がどう考えているのか結局分からない。明確に答えを出せとは言わない。しかし、どちら寄りかぐらいは書くべきだ。そこを嫌がるならば「ダイビルTOB、2200円は妥当か」と問うのを諦めてほしい。

含み益をあくまで含みとみるか実現可能とみるか、株主の判断を左右しそうだ」との結論には、さらに疑問が残る。記事の前半で触れているが、今回は「スクイーズアウト(強制買い取り)で100%子会社にする計画」だ。だとしたら少数株主が株を売らない選択肢は基本的にないのではないか。

含み益をあくまで含みとみるか実現可能とみるか」という話もよく分からない。「含み益をあくまで含みとみる」場合、「実現」は不可能と森記者は見ているのだろう。これには同意はできない。

売却益を実現させていないという意味で「含み益」は「あくまで含み」だ。しかし、それは将来の「実現可能」性を否定しない。「含み益」算出の基準とした時価評価が適切との前提で言えば「実現可能」性は十分にある。

記事で引っかかった部分は他にもある。

まず「2948円はあくまで会社をたたんで不動産を売り払った場合の理論値。ビルの賃貸など現在の事業を続ける観点でみれば2200円は適切だ」というダイビル役員のコメント。「理論値」が「2948円」なのに「ビルの賃貸など現在の事業を続ける観点でみれば2200円」にディスカウントされるのが、よく分からない。

ビルの賃貸など現在の事業を(誰かが)続ける観点」で市場価格が形成され、それに基づいて「理論値」を算出しているのではないか。

付け加えると「妥当か」どうかに関して「含み益」に偏って論じているのも引っかかる。「2200円は直前の株価に対して5割高い水準」ならば、「直前の株価」との比較ではそれなりのプレミアムが付いている。そこをどう見るべきかにも踏み込んでほしかった。

個人的には「2200円」は株主にとって悪くないと思える。株式市場で付いた価格にプレミアムが乗っているからだ。「含み益」を考慮した「理論値」が「2948円」だとしても、現実の株価がそれを大きく下回っているとすれば、何らかの理由があると見たい。それが何かは分からないが、市場はそう評価してきた。そこがやはり出発点だ。

TOBがなければ「直前の株価に対して5割高い水準」で売るのは容易ではない。「ダイビルTOB、2200円」は少なくとも低過ぎではない。

こんな感じで森記者にも答えを出してほしかった。これまでの経緯を説明して、成り行き注目型の結論で逃げるのならば、何のための「企業財務エディター」なのか。そこを考えてほしい。


※今回取り上げた記事「Ticker ダイビルTOB、2200円は妥当か~含み益考慮の一株純資産2948円

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211208&ng=DGKKZO78244120X01C21A2DTA000

※記事の評価はD(問題あり)。森国司記者への評価も暫定でDとする。

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