2021年12月21日火曜日

iPhone「高いと感じるのは日本人だけ」に無理がある日経ビジネス特集「貧しいニッポン」

「安い日本ではダメだ」的な記事を最近よく目にするが、なるほどとは感じない。日経ビジネス12月20日号の特集「貧しいニッポン~安売り経済から脱却せよ」も説得力に欠ける。「 Part2 iPhoneが高根の花に~物価の上がらない国 モノもヒトも『買い負け』」という記事を材料に問題点を見ていこう。「『高い』と感じるのは日本人だけ」との小見出しを付けた上で「iPhone」について以下のように説明している。

有明海

【日経ビジネスの記事】

日本人が最新iPhoneを購入する時に感じる「高い」という気持ち。海外の消費者たちも同様の感覚なのだろうか。上の図はiPhoneを手に入れるために何日働けばいいのかを示した「iPhone指数」と呼ばれるものだ。iPhone端末の現地価格をその国の平均月収などからはじいた1日当たりの賃金で割って算出される。

これを主要国と比較すると、驚くべき傾向が浮かび上がる。海外では機種が新しくなるごとに指数の値が低くなる一方、日本の値は上向いている。18年のiPhone XSでは8.8日だった労働日数は、最新モデルの一つ、iPhone 13 Proで10日を超えるまでになった。

なぜか。世界の他の先進国ではこの間にも、経済成長やインフレで物価や賃金が上昇した。だが、日本の物価や賃金はほとんど変わっていない。そのため、インフレを前提にグローバル基準で価格が決まる商品の場合、物価も賃金も上がっていない国・地域ではその価格を高く感じてしまう現象が起こる。iPhoneはその典型といえよう。


◎「海外の消費者たちも同様の感覚なのだろうか」の答えは?

日本人が最新iPhoneを購入する時に感じる『高い』という気持ち。海外の消費者たちも同様の感覚なのだろうか」と問題提起してみたものの、記事中に答えは見当たらない。なのに「『高い』と感じるのは日本人だけ」という断定的な小見出しを入れていいのか。

答えを出さない代わりに「iPhoneを手に入れるために何日働けばいいのかを示した『iPhone指数』」を持ち出してくる。「これを主要国と比較すると、驚くべき傾向が浮かび上がる」と大きく出たものの大した「傾向」ではない。「海外では機種が新しくなるごとに指数の値が低くなる一方、日本の値は上向いている」というだけだ。

グラフを見ると米国は2019年と2020年の比較で「指数の値」が「上向いている」。なので説明は正確さに欠けるが、とりあえず良しとしよう。では「指数の値」から「『高い』と感じるのは日本人だけ」との推測が成り立つだろうか。

グラフでは英国、フランス、日本、ドイツ、シンガポール、豪州、米国、スイスの8カ国を比較している。そして日本(10.2日)は英国(10.8日)、フランス(10.3日)に次ぐ3位。「iPhone指数」からは「英仏の消費者も『高い』と感じているのでは」との推測が成り立つ。なのに「『高い』と感じるのは日本人だけ」なのか。

グラフには「主要国のiPhone指数」との表記もあるが「主要国」がなぜこの8カ国なのかもよく分からない。シンガポールやスイスが「主要国」で、イタリアや中国は非「主要国」と見るのか。

ついでに言うと「インフレを前提にグローバル基準で価格が決まる商品の場合、物価も賃金も上がっていない国・地域ではその価格を高く感じてしまう現象が起こる」との説明には同意できない。基本的には為替で相殺される問題だ。

例えば米国のA社が自社製品の価格を10ドルとし、海外の事情は考えずドル建て10ドルで売るとしよう。米国のインフレ率は10%で、翌年の価格は連動して11ドルになると仮定する。

1ドル=100円の場合、日本での価格は1000円だ。日本のインフレ率は0%。そこで「インフレ」に対応してA社が11ドルに値上げすると日本での価格は1100円になる。日本では「物価も賃金も上がっていない」ので、前年より100円高くなって手が届きにくくなるーー。筆者らはそう考えたのだろう。

しかしインフレ率の差は為替相場によって調整されると考えるべきだ。その前提で言えば「物価も賃金も上がっていない」日本がダメで「インフレ」が進む海外が好ましいとは言えない。米国の最近の動きを見ても分かるように「インフレ」は基本的には抑え込むべきものだ。

最近の為替市場では「物価上昇率の低い日本円が高くなる」という流れになっていない。なので記事のような説明になったのだろうが、あくまで例外的な動きと見るべきだ。そこを考慮しないで考えるから「インフレ=好ましいこと」的な発想に行き着くのではないか。


※今回取り上げた記事「 Part2 iPhoneが高根の花に~物価の上がらない国 モノもヒトも『買い負け』

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00974/


※記事の評価はD(問題あり)

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