2021年12月14日火曜日

MMTは「財政支出の中身を気にしない」? 小幡績 慶大准教授が東洋経済オンラインで見せた誤解

慶応大学大学院准教授の小幡績氏はまだ自らの間違いに気付けていないようだ。 13日付の東洋経済オンラインの「日本では絶対に危険な『MMT』をやってはいけない~MMTの『4つの誤り』と『3つの害悪』とは何か」という記事で「MMT」を批判している。しかし、中身は相変わらず苦しい。

夕暮れ時の筑後川

11月27日には、やはり東洋経済オンラインで「このまま行けば日本の財政破綻は避けられない~『MMT理論』『自国通貨持つ国は安心』は大間違い」という記事を書いていた。この記事に関しては、以前の投稿で小幡氏の誤りを指摘している。同様の指摘を多く受けたのか、今回の記事では「このまま行けば日本の財政破綻は避けられない」との主張は引っ込めたようだ。だが「MMT」の否定を諦めてはいない。

小幡氏が挙げた「3つの害悪」のうちの1つ「財政支出の中身がどうであっても、気にしない」について見ていこう。

MMT」の主張については、代表的な提唱者であるステファニー・ケルトン氏の著作「財政赤字の神話~MMTと国民のための経済の誕生」を基に考える。ここでケルトン氏は以下のように述べている。


本の引用】

MMTは万能薬ではない。それを理解しておくことが重要だ。MMTはアメリカの歪んだ政治を正すことはできないし、政治家に国家の資金を国民の利益を最大化するために投資するよう強制することもできない。アメリカの連邦議会に限らず、日本の国会、イギリスの議会などどんな国の統治機関も、本来は国民のために予算を編成すべきなのに、たいていはそうしない議員であふれている。就業保証は部分的な解決策でしかない。確かにそれは経済環境の変化に応じて、予算を自動的に調整する。また本当に必要とする人々に恩恵をもたらすことのまずない減税と異なり、失業によって最も打撃を被るコミュニティを対象とする。最も必要としている人々の手に直接お金が渡るのだ。

だからといって自動運転モードをオンにして、あとは義務的支出が勝手に変化して道路状況に対応してくれるだろう、と放置してよいわけではない。裁量的支出も必要だ。軍事、気候変動、教育、インフラ、医療の研究など裁量的事業にいくら支出するかについても真剣に検討する必要がある


◎本当に「財政支出の中身がどうであっても、気にしない」?

MMT」は本当に「財政支出の中身がどうであっても、気にしない」のだろうか。「どんな国の統治機関も、本来は国民のために予算を編成すべき」だと見ているのに「財政支出の中身」は「気にしない」考えだと評価すべきなのか。「軍事、気候変動、教育、インフラ、医療の研究など裁量的事業にいくら支出するかについても真剣に検討する必要がある」と訴えているのに「財政支出の中身」を「気にしない」主張だと見なすべきなのか。

減税」より「就業保証」プログラムの方が「本当に必要とする人々に恩恵をもたらすこと」ができると提案していても「財政支出の中身」に無関心な理論なのか。

小幡氏は以下のように批判を展開している。


【東洋経済オンラインの記事】

第1の害悪である「財政支出の中身の議論を行っていない」点に対しては、ワイズスペンディング(賢い支出)が必要であるという、単純だが重要な問題がまずある

経済にとって必須であり、破滅しそうな社会を救うような財政出動は、もちろん行うべきである。しかし、失業率が歴史的に最低水準にあるような場合に、景気対策をするための財政出動はするべきでないことも明白である。

にもかかわらず、MMTでは、その議論には立ち入らずに「財政支出を拡大する余地がある」とだけ説く。前提として、財政支出が不足しているという認識があるのだろうが、そうであったとしても、役に立つ支出と無駄な支出と、害悪の支出とがある。その区別は財政支出という政策を議論する際には、何にもまして重要である。それを無視した政策提言は害である。

これに対してMMT論者は「細かい政策の是非については、個別に議論すればよい。われわれが言っているのは、マクロ政策として、財政支出の規模を増やすべきだと言っているのだ」と主張するだろう。そして、なぜ財政支出の規模を拡大するのが望ましいかと言えば、実際に困っている人々が社会にいる以上、その人たちを支援するための財政支出をするべきだ、ということを第1の理由として挙げる。

しかし、「すべての人を理想的な状態まで助けることができればそれは良いが、支出にも限度があり、コストとベネフィットの見合いで、妥当な水準があるはずだ。闇雲に支出を増やすのはおかしい」と普通の人々が言えば、彼らは「いや、財政支出は、インフレ率が高くなりすぎなければ、どんどん拡大していい」と主張し、「歯止めはインフレだ」という。あるいは「現在、インフレが起きていないことが財政支出が足りないことの何よりの証左である」と主張する。


◎色々と間違いが…

財政支出の中身の議論を行っていない」との認識が誤りであるのはケルトン氏の主張を見れば小幡氏も分かるはずだ。「ワイズスペンディング(賢い支出)が必要」との見方はケルトン氏とも一致する。

私たちは今、準備を始めなければならない。インフレを引き起こさず目標を達成するのに十分な生産能力を確保するため、必要な投資をしなければならない。そのための行動、たとえばオートメーション、インフラの強化、教育機会の拡充、研究開発、公衆衛生の改善は、すべて未来に向けた賢い投資」とケルトン氏は述べている。

なのに「役に立つ支出と無駄な支出と、害悪の支出とがある。その区別は財政支出という政策を議論する際には、何にもまして重要である。それを無視した政策提言は害である」と小幡氏は書いてしまう。「未来に向けた賢い投資」をすべきだと訴えているのに「支出」の中身を「無視した政策提言」として批判するのは、どう考えてもおかしい。

MMT」は「『財政支出を拡大する余地がある』とだけ説く」理論ではない。「『政府による就業保証プログラム』という新たな自動安定化装置」(ケルトン氏)を提案している。小幡氏は知らないのか。

MMT」を批判したいが上手くできないので「MMT」の主張を勝手に捻じ曲げて批判しやすい形に変えてみたーー。

今回の記事には、そんな小幡氏の意図が透けて見える。単に「MMT」を誤解しているだけかもしれないが…。

ただ自らの「MMT」批判に苦しさは感じているようだ。「理論的な4つの誤りのほうも、ここに明確になっただろう。したがって、これ以上、MMT理論を批判する必要はない。もうたくさんだ」と小幡氏は記事を締めている。「もうたくさんだ」との言葉に小幡氏の疲弊を感じる。

MMT理論を批判する必要はない」との見方には同意する(ちなみに「MMT(現代貨幣理論)」を「MMT理論」と表記すると「現代貨幣理論理論」になってしまう)。もう批判はやめた方がいい。さらに続けても、自らの不明を世に晒すだけだろう。


※今回取り上げた記事「日本では絶対に危険な『MMT』をやってはいけない~MMTの『4つの誤り』と『3つの害悪』とは何か

https://toyokeizai.net/articles/-/473925


※記事の評価はE(大いに問題あり)。小幡績氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

東洋経済オンラインで「MMTは大間違い」と断言した小幡績 慶大准教授の大間違いhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2021/11/mmt.html

小幡績 慶大准教授の市場理解度に不安を感じる東洋経済オンラインの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_18.html

「確実に財政破綻は起きる」との主張に無理がある小幡績 慶大准教授の「アフターバブル」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post.html

やはり市場理解度に問題あり 小幡績 慶大准教授「アフターバブル」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/blog-post_4.html

週刊ダイヤモンド「激突座談会」での小幡績 慶大准教授のおかしな発言https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/blog-post_25.html

東洋経済オンラインでのインフレに関する説明に矛盾がある小幡績 慶大准教授https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/06/blog-post_14.html

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