2021年12月24日金曜日

「日米同盟」に関する思考停止が透けて見える日経の社説

日本経済新聞は安全保障問題で一貫して「日米同盟の強化」を訴えてきた。しかし台湾有事が現実となれば、日本が攻撃を受けていないのに日米同盟の存在ゆえに中国との戦争に巻き込まれる恐れが強い。そこで「中国との戦争をためらうな」とも「米国との協力には一線を引くべき」とも言えず思考停止に陥っているのが、今の日経だと思える。24日の朝刊総合1面に載った「駐留費負担増は国民の理解を」という社説にも、その傾向が見える。

有明海

社説を見ながら気になった点を指摘したい。

【日経の社説】

日米両政府が2022年度から5年間の在日米軍駐留経費の日本側負担(思いやり予算)を、総額1兆551億円とする措置で合意した。年度平均は現行水準より100億円近く増え、約2110億円にのぼる。これを日米同盟の深化に生かしてほしい。

駐留経費は日本に支払う義務がないが、1978年度から一部を肩代わりしている。米国の政権交代を受け、今後5年間の水準を決める交渉を持ち越していた。

新合意は、負担への批判が強い基地の光熱水費を最終的に4割強減らす。代わりに、日本は新たに米軍と自衛隊の訓練で共同使用できる仮想戦闘の最新システムなどの「訓練資機材調達費」を負担し、5年間の総額で最大200億円を計上する。

政府は中国の台頭を前に在日米軍の即応性を高め、同盟の抑止力や対処力を強化する「同盟強靱(きょうじん)化予算」と銘打つ。日本の防衛に役立つ分野を手厚くした試みは妥当といえる

米政権は世界の駐留米軍の戦力配置で対中シフトを鮮明にしており、日本の役割が増えるのはやむを得ない部分がある


◎「在日米軍駐留」は誰のため

日経に考えてほしいのは「在日米軍駐留」を望んでいるのは日米どちらなのかという問題だ。両方だとすれば、より強く望んでいるのはどちらなのか。

米政権は世界の駐留米軍の戦力配置で対中シフトを鮮明にして」いると日経自身が書いている。つまり米国は戦略上「在日米軍」を手放せない。ならば日本が「駐留経費」を負担する必要はない。基地を置かせてあげているのだから賃料を取ってもいいぐらいだ。

なのに、なぜ「駐留経費」を負担するのか。日本側が「駐留」を望んでいるとしても「経費を負担しないなら日本から出ていくぞ」と米国が言い出すとは考えにくい。しかし日経は「日本の役割が増えるのはやむを得ない部分がある」などと負担増加に理解を示している。ここが解せない。

そもそも米国が「戦力配置で対中シフトを鮮明にして」いるのならば「日本の役割」は減るのが自然だ。「対中シフトを鮮明」にするのだから米国の軍事費も「対中」分野に手厚くなるのだろう。だったら「駐留経費」はそこで何とかしてもらえばいい。

米国がアジア軽視になり日本から出ていきたがっている状況で引き留めを狙うならば「日本の役割が増えるのはやむを得ない部分がある」。しかし状況は逆だ。

米国は「在日米軍」を必要としているし、日本は日米同盟の存在ゆえに対中戦争のリスクが増す状況にある。なのに「駐留経費」の負担を増やす意味が分からない。日経には分かると言うのなら、そこを説明してほしい。

しかし、日経の姿勢はかなり漠然としている。社説の後半も見ていこう。


【日経の社説】

一方、防衛省の試算によると、日本側の負担割合は2015年度に86%に達し、韓国やドイツなど他の駐留国に比べて突出している。この点は折に触れて米国に理解を求め、思いやり予算が一方的に膨らまぬようにすべきだ

日本では安全保障関連法を通じて米艦防護など自衛隊の任務や活動が広がり、防衛装備品の購入も積み増している。米軍にとっても前方展開の重要な拠点である日本の適正な負担水準は同盟の全体像の中で議論する必要がある

米軍三沢基地所属のF16戦闘機が飛行中に燃料タンク2個を投棄し、住宅地の近くなどに落ちたのは記憶に新しい。沖縄では米軍基地内からの新型コロナウイルス感染拡大への懸念も深まっている。

同盟の重要性が高まっているだけに、政府は米軍にきちんと主張し国民の支持を得てもらいたい


◎結局は政府任せ?

負担割合」が「他の駐留国に比べて突出している」のならば、少なくとも「他の駐留国」並みには引き下げていい。しかし日経はそこさえも主張せず「米国に理解を求め、思いやり予算が一方的に膨らまぬようにすべきだ」と書くにとどめている。なぜそんなに遠慮するのか。何か弱みでも握られているのか。

そして「日本の適正な負担水準は同盟の全体像の中で議論する必要がある」と自らが考える「適正な負担水準」を示すことから逃げてしまう。日経が社説で多用する「しっかり議論を」型の展開だ。

そして「同盟の重要性が高まっているだけに、政府は米軍にきちんと主張し国民の支持を得てもらいたい」と最後は「政府がしっかりやってね」とお願いする形で締めている。

同盟の重要性が高まっている」と考えるのならば、自らがベストだと考える案を示して政府に採用を迫るべきだ。あるべき安全保障政策の実現を目指して自らの考えを示す場を有している新聞社が、なぜそこを有効活用せず「しっかり議論を」型の社説で逃げるのか。

その思考停止的な姿勢が残念だ。


※今回取り上げた社説「駐留費負担増は国民の理解を」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211224&ng=DGKKZO78726000T21C21A2EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

0 件のコメント:

コメントを投稿