2019年11月17日日曜日

「みんなのタクシー」は本当に「順調」? 日経ビジネス佐伯真也記者に問う

日経ビジネスの佐伯真也記者は素直な性格なのだろう。一般的には長所だが、経済記事の書き手としては好ましくない。疑い深いぐらいで丁度いい。
のこのしまアイランドパーク(福岡市)のコスモス
            ※写真と本文は無関係です

11月18日号の「時事深層 COMPANY~タクシー配車連合が協業加速も 足りないソニー『らしさ』」という記事の序盤で佐伯記者は以下のように記している。

【日経ビジネスの記事】

ソニーとタクシー大手が出資するみんなのタクシーが、配車サービスを開始して半年が経過した。滑り出しは順調。KDDIやNTTドコモなどからの出資を受け入れ、事業拡大を急ぐ。一方でタクシー大手への配慮も垣間見える。自らが旗振り役となるかつてのソニー「らしさ」が求められる。

「新たな第一歩を踏み出せた。パートナー各社のノウハウを活用して事業の幅を広げていく」。ソニーやタクシー大手が出資し、配車アプリを手掛けるみんなのタクシー(東京・台東)。サービス開始から半年がたった11月5日に開催した事業説明会で、西浦賢治社長はこう意気込んだ。

滑り出しは順調のようだ。今年4月に東京都内で配車アプリ「S.RIDE(エスライド)」の提供を始めた、みんなのタクシーの9月における平均利用単価は約2755円。ジャパンタクシー(東京・千代田)やディー・エヌ・エー(DeNA)の「MOV(モブ)」といったライバルがひしめく中、最後発で参入したが、「(単価は)相当高いと感じている」と西浦社長は手応えを語る。


◎なぜ「平均利用単価」?

滑り出しは順調のようだ」と思ってしまったのが不思議だ。

取材の経緯は分からないが、「滑り出し」についての質問に対して「9月における平均利用単価は約2755円」という数字が「みんなのタクシー」から出てきて、「西浦社長」が「(単価は)相当高いと感じている」とコメントしたとしよう。

自分が記者だったら「滑り出し」は厳しいのかなと感じる。本当に「順調」ならば売上高や取扱件数などを当初目標と比較するのではないか。「半年間の売上高はどうなっていますか。目標と比べてどうかも具体的に教えてください」などと質問したいところだ。

そこで「売上高や取扱件数は非公表です」などと返ってきたら「かなり厳しい状況なんだろうな」と推測してしまう。

しかし佐伯記者は「平均利用単価は約2755円」で、それを「相当高いと感じている」と社長がコメントしたことを根拠に「滑り出しは順調のようだ」と書いてしまう。

百歩譲って「平均利用単価」で好不調を測るのが適切だとしても、「相当高いと感じている」というコメントだけでは納得できない。他社と比べてどの程度「高い」のかは読者に見せるべきだ。

ついでに記事の後半についても注文を付けておきたい。

【日経ビジネスの記事】

5日の事業説明会で打ち出したのがパートナーとの連携強化だ。KDDIとNTTドコモ、地図関連サービスのゼンリンデータコム(東京・港)、タクシー大手の帝都自動車交通(東京・中央)の4社とそれぞれ資本業務提携を発表した。

KDDIとは次世代移動サービス「MaaS(マース)」のプラットフォームの共同構築やタクシーの新たなサービスの開発、ドコモとは決済や需要予測などで利便性向上を目指す考え。ゼンリンデータコムとはタクシー走行データを活用した3次元のリアルタイム地図などの共同開発を進める。

西浦社長の出身母体であるソニーとの協業も加速する。5日には、ソニーのAI(人工知能)技術を使ったタクシーの需要予測サービスを始めた。タクシーから取得した走行データと天気などの外部情報を分析し、10分後~半日先のタクシー需要を予測する。複数のセンサーを使って、タクシーの運転支援技術を開発していくことも明らかにした。

出資企業との協業でユーザーの利便性を高めて、さらなる事業拡大を目指すみんなのタクシー。先行するライバル各社が「無料キャンペーン」など大規模なマーケティングで顧客の囲い込みを急ぐ戦略とは距離を置く。西浦社長は、「バラマキは考えていない」と言い切る。

一方で、みんなのタクシーの成長戦略には「プラットフォームを握るための強引さが足りない」(電機関連のアナリスト)との指摘もある。今回、KDDIなどから追加出資を受けることに対して、西浦社長は「出資額は非公開だが、タクシー会社が5割超を出資する構図は変わらない。業界を発展させるのが責務だ」とタクシー会社へ配慮する姿勢をのぞかせた。出資企業が増えた結果、利害関係の調整に追われれば、大胆な一手が打てなくなる可能性もある。

ソニーが1990年代にゲーム事業に参入した際は、販売店への直販など自らが旗振り役となり業界の常識を崩していった。今年4月のサービス開始時点で西浦社長は、「数年以内に最大手のジャパンタクシーにキャッチアップしていく」と話していた。有言実行するためには、多少強引でも事業を引っ張っていく、かつてのソニー「らしさ」を参考にしてもいいのではないだろうか。


◎具体性が…

見出しで「足りないソニー『らしさ』」と打ち出したのに、具体的にどうしてほしいのか見えてこない。「みんなのタクシー」に「足りないソニー『らしさ』」とは「業界の常識」を崩すような「大胆な一手」なのだろう。それは例えばどんな「一手」で、なぜ必要なのか。佐伯記者は教えてくれない。本当に「滑り出しは順調」ならば、今のままの「成長戦略」でもいいのではないか。

他社のサービスより優れているのならば「強引」に「事業を引っ張って」いかなくても「プラットフォームを握る」ことは十分にできるはずだ。それとも「強引」にやらないと勝ち目がないほど劣ったサービスなのか。その辺りが曖昧なままだ。

個人的には「みんなのタクシー」の未来は暗いと感じる。まず「出資額は非公開」というのがダメだ。記者を集めて「事業説明会」を開き「資本業務提携を発表した」のに「出資額は非公開」とは…。「だったら発表しなくていいよ」と言いたくなる。

みんなのタクシー」としては「出資額」でさえ公表したくないが、色んな会社が支えてくれているというアピールはしたいのだろう。それは会社の自由ではある。ただ、うまく乗せられて宣伝の片棒を担ぐような記事を書くのは避けたい。

今回はヨイショ記事ではないが「滑り出しは順調のようだ」と書くなど「みんなのタクシー」への甘さも見える。

「自分はお人よしが過ぎるのではないか」。そう疑う習慣を佐伯記者には身に付けてほしい。


※今回取り上げた記事「時事深層 COMPANY~タクシー配車連合が協業加速も 足りないソニー『らしさ』
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00410/


※記事の評価はD(問題あり)。佐伯真也記者への評価もDを据え置く。佐伯記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス「見えてきたクルマの未来」で見えなかったこと
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_10.html

33%出資の三菱製紙は「連結対象外」? 日経ビジネスに問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/33.html

「33%出資は連結対象外」に関する日経ビジネスの回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/33_21.html

日経ビジネスに問う「知的障害者は家庭では必要とされない?」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_17.html

「知的障害者は家庭では必要とされない?」に日経ビジネスが回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_21.html

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