2019年8月2日金曜日

「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員

今に始まった話ではないが、日本経済新聞の中村直文編集委員が書く記事は問題が多い。2日の朝刊企業1面に載った「ヒットのクスリ~蔦屋、『令和のイオン』になる 地域性・体験型 生命線に」という記事もその1つ。どこが問題なのか指摘してみたい。
鮎川港(宮城県石巻市)のカモメ ※写真と本文は無関係

【日経の記事】

北海道江別市に蔦屋書店の新型店が2018年11月に開業し、今も平日からにぎわう。3年間札幌に勤務していたが、隣の江別市に対する印象は薄い。実際に運営するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の事前調査では住民も「何もないところ」と控えめ。なぜ江別なのか


◎持ち上げるなら…

今回の記事では「江別市」にある「蔦屋書店の新型店」を持ち上げている。この店が非常に好調ならば「ヒットのクスリ」というテーマに合致するかもしれない。だが「2018年11月に開業」した後の販売状況については「今も平日からにぎわう」と書いているだけだ。

これなら、ほとんどの店を成功例として取り上げられる。今回の記事のように全面肯定で取り上げる場合、「確かに凄いヒットだな」と思える数字が欲しい。例えば「新型店の1平方メートル当たりの売上高は蔦屋書店の平均的な店舗の3倍」となっていれば納得できる。

そうしたデータなしにヨイショに走られると「中村編集委員の悪い癖がまた出ているのでは…」と勘繰りたくなる。

次は「なぜ江別なのか」を考えながら記事を読んでいこう。

【日経の記事】

約4万4500平方メートルという広大な敷地があったことも大きいが、CCC側は潜在価値を見つけた。近年の札幌は地価が上昇し、マンション価格も80平方メートルで4000万円台と首都圏並みに上昇。このため江別はそのベッドタウンとしての価値が上がっている

そして市の中心部にも緑が生い茂った自然が残る。「江別なら田園都市でのスローライフの提案ができる」と判断し、新たな店づくりに乗りだした。



◎「スローライフ」と関係ある?

まず、どんな「潜在価値を見つけた」のか謎だ。「ベッドタウンとしての価値が上がっている」「市の中心部にも緑が生い茂った自然が残る」というのは誰でも分かる話だろう。そうした事実から、どんな「潜在価値を見つけた」のか説明がない。

また「ベッドタウンとしての価値が上がっている」「市の中心部にも緑が生い茂った自然が残る」という事実から「江別なら田園都市でのスローライフの提案ができる」と判断するのも謎だ。

ベッドタウンとしての価値が上がっている」ことと「スローライフ」は無関係だと思える。「市の中心部にも緑が生い茂った自然が残る」のは、少し関連があるかもしれないが、そんな場所はいくらもある。例えば、東京都心でも皇居には「緑が生い茂った自然」が残っている。結局「なぜ江別なのか」に説得力のある答えは見当たらない。

さらに続きを見ていこう。

【日経の記事】

昭和は駅前中心の再開発、平成は郊外型ショッピングセンターの建設ラッシュが目立った。

令和はどうか。少子高齢化・人口減が進み、モノは余る。買い物は米アマゾンを中心としたネットやコンビニエンスストア、ドラッグストアが中心になる。リアル店舗の役割は食、地域コミュニティー、知的な刺激など体験型が生命線だ。

江別の蔦屋書店は東京・代官山、銀座以上に一段と脱・本屋が進んでいる。いうならばコトを重視したミニSCで、令和型「イオン」か。江別の蔦屋は3棟建てで食、知、暮らしのゾーンに区分けされる。コアは書籍が中心の約1500平方メートルの知だが、食のゾーンでは同じ規模でフードコートを展開している。

フードコートは地元や北海道で知る人ぞ知る名店だけを集めた。カレー、イタリアン、おはぎなどなど。函館で人気の回転ずしが運営する「おにぎり」店、薫製専門店など全国チェーンのSCでは味わえない店舗を誘致した。

暮らしのゾーンではカフェ併設のグリーンショップ、家具のセレクトショップやアウトドア用品などで構成。子供の遊びフロアも備え、ガラス張りの壁からは実物の電車が見える。

地域密着型を掲げる江別・蔦屋の売り場以外の特徴はイベントだ。これも著名なタレントなどを呼ぶのではなく、料理や手芸など地元の住民が主催する内容が多く、月に100回以上開催しているという。



◎大して「コトを重視」してないような…

江別の蔦屋書店」は「コトを重視したミニSC」らしいが、「コトを重視」している感じがあまりない。「コアは書籍が中心の約1500平方メートルの知」に関しては「コトを重視」とは言い難い。「暮らしのゾーンではカフェ併設のグリーンショップ、家具のセレクトショップやアウトドア用品などで構成」しているので、これまた「コトを重視」していない。
長崎新地中華街(長崎市)※写真と本文は無関係です

結局、「コトを重視」したエリアとしては「フードコート」があるくらいだ。しかし、大抵の「SC」には「フードコート」がある。「子供の遊びフロア」や「イベント」も珍しくない。結局、「江別の蔦屋書店」を「コトを重視したミニSC」と見なす理由は見当たらない。

さらに言えば、どんな「スローライフの提案」をしているのかも分からない。「全国チェーンのSCでは味わえない店舗」で食事をして、「料理や手芸など地元の住民が主催する」イベントに参加すると「スローライフ」が実現できるのか。その辺りは説明が欲しい。

記事を最後まで見ていく。

【日経の記事】

これまでSCと言えば、全国ブランドの専門チェーンを柱で構成していた。それでは飽きられるし、他地域から人を呼ぶこともできない。地域性の強いテナント構成にすることで"外貨"も集められる。外食企業のバルニバービの佐藤裕久社長も「そこにしかないものをつくらないと町の再生はできない」と指摘している。

CCCは今後、こうした地域型蔦屋書店を積極的に出店していく方針。北海道プロジェクトを推進してきた蔦屋書店の梅谷知宏社長は「アマゾンとは逆のベクトルの空間を創造したい」と話す。何もない制約条件こそ他にないものをつくるチャンスかもしれない


◎「そこにしかないもの」と言うなら…

コトを重視」して「スローライフ」を提案したことが成功につながったのかと思ったら、結局は「地域性の強いテナント構成」が強味という話になってしまった。だったら「蔦屋書店」にしない方がいいだろう。

東京・代官山、銀座」などにもある「蔦屋書店」が「江別」にできても、個人的には「そこにしかないもの」ができたとは感じない。

何もない制約条件」という説明も引っかかった。「制約条件が何もない」とも取れるが、おそらく「『江別=何もない』という制約条件」との趣旨だろう。冒頭に「何もないところ」という住民のコメントもある。

しかし「約4万4500平方メートルという広大な敷地」があり、「市の中心部にも緑が生い茂った自然が残る」上に「ベッドタウンとしての価値が上がっている」のならば、「江別=何もない」とは言い難い。

最後に記事の書き方で注文を1つ。記事の最初の方で「(江別の蔦屋書店を)実際に運営するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)」という説明があった。そして最後の段落に「CCCは今後、こうした地域型蔦屋書店を積極的に出店していく方針。北海道プロジェクトを推進してきた蔦屋書店の梅谷知宏社長は~」と出てくる。この場合「CCC」と「蔦屋書店」の関係を記事中で説明すべきだ。親子関係だとは思うが…

店舗の「運営」は「CCC」で、「蔦屋書店」が「北海道プロジェクトを推進してきた」のか。役割分担も分かりにくい。

中村編集委員は「江別の蔦屋書店」を「令和はどうか」が垣間見える「他にない」商業施設の成功例として紹介したかったのだろう。だが、成功していると言える根拠は見当たらないし、新規性もそれほど感じられなかった。


※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~蔦屋、『令和のイオン』になる 地域性・体験型 生命線に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190802&ng=DGKKZO48002320R30C19A7TJ1000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価もDを維持する。中村直文編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html

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