2019年8月6日火曜日

合格点には遠い日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」

日本経済新聞の藤田和明編集委員が6日の朝刊マーケット総合面に「スクランブル~市場『通貨冷戦』を懸念 米に余力、日本株には不利か」という記事を書いている。独自性を出そうとする姿勢は見えるが、藤田編集委員の記事にはやはり問題が多い。
石ノ森萬画館(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係です

具体的に指摘していく。

【日経の記事】

米中の貿易戦争と10年半ぶりの米利下げは、市場の風景をどう変えるのか。世界的に景気の減速感が強まり、主要中銀が再び金融緩和に傾いてきた。各国が通貨安を望む姿勢も強く、5日には人民元が1ドル=7元台と11年ぶりの元安水準に下落した。「どの株式市場が選ばれるか」という競争では、日本株は不利な戦いを強いられそうだ



◎最後に答えを出せる?

日本株には不利か」と見出しにも立てている。「日本株は不利な戦いを強いられそうだ」という見立てに説得力を持たせられるかが、この記事のポイントだ。そこに注目していこう。

【日経の記事】

「通貨冷戦」の第3ラウンドだ――。米資産運用大手ピムコは今回の米連邦準備理事会(FRB)の利下げをこう呼んだ。踏み込んだ金融緩和策は自国通貨を弱める効果を生む。そこにあるのは他国との需要の取り合いを優位に進める争いといっていい。

米中貿易摩擦と並び、市場でささやかれるもう一つの"戦争"だ。しかも為替への直接介入で激しくぶつかるのではなく、「長短金利操作や量的緩和のほか、大統領らの要人がツイートや発言を強めていく」(同社のグローバル経済アドバイザー、ヨアヒム・フェルズ氏)。

ピムコによれば、その通貨冷戦の第1ラウンドで、まず攻勢をかけたのは日銀だ。2013年、黒田東彦総裁の「異次元緩和」で一気に円安が進み、輸出企業に追い風になった。世界的にみても、日経平均株価の上昇ぶりは当時突出した。

追って14年には、欧州中央銀行(ECB)がマイナス金利政策に踏み出す。中国も人民元を徐々に切り下げた。第1ラウンドは日欧中の攻勢という構図だ



◎「冷戦」と言える?

記事では「通貨冷戦」がキーワードになっている。なぜ「冷戦」かと言えば「為替への直接介入」を伴わないかららしい。しかし「14年」には「中国も人民元を徐々に切り下げた。第1ラウンドは日欧中の攻勢という構図だ」と書いている。

日経は14年12月31日付の「人民元、5年ぶり下落 14年対ドルで2.42%」という記事で「人民元は14年1月14日に過去最高値を更新した後、中国人民銀行(中央銀行)の自国通貨売り介入で下落に転じた」と報じている。だとすれば「冷戦」とは言えないはずだ。

続きを見ていく。

【日経の記事】

この間に通貨高を受け入れてきた米国だが、トランプ氏が新大統領になると「ドル安」をにおわす口先介入が始まる。17年の第2ラウンドだ。ただFRBはこの間も利上げを進め、出口政策を先に目指してきた。

18年こそ休戦状態だったが、ここにきてFRBが利下げカードを切ったことで第3ラウンドの号砲がなった。トランプ氏は引き続き執拗な緩和要求を繰り返す。対外的にも、ECBのドラギ総裁による追加刺激策の示唆でユーロ安が進んだ6月にはすかさず、「米国との競争を不当に簡単にしている」と攻撃した



◎「号砲」が鳴る前なのに…

藤田編集委員に言わせれば「ここにきてFRBが利下げカードを切ったことで第3ラウンドの号砲がなった」はずだ。だとすれば「休戦状態」が終わったのは今年8月になる。
伊達政宗騎馬像(仙台市)※写真と本文は無関係

しかし「ECBのドラギ総裁による追加刺激策の示唆でユーロ安が進んだ6月にはすかさず、『米国との競争を不当に簡単にしている』と攻撃した」とトランプ氏の「発言」に触れている。

こちらを重視すると「休戦状態」は今年6月には終わっていたと取れる。「第3ラウンドの号砲」はいつ鳴ったのか。「FRBが利下げカードを切った」瞬間だとすれば「6月」の「攻撃」はどう理解すればいいのか。

少し本筋からそれた。ここから本題に入ろう。

【日経の記事】

米国は先に強い通貨を受け入れた分、いよいよ景気が厳しくなったときの緩和余地を持っている。政策余力の乏しいECBや日銀との決定的な違いだろう。

つまり景気が悪くなるときに、自国通貨高を避けるゲームで考えれば、米国側に多くのカードがある。08年の金融危機や11~12年の円高で日本は他国以上に厳しい戦いを強いられた。

先読みするように、今年は日本株の出遅れが顕著だ。先週末までの日経平均は5%高にとどまり、米ダウ工業株30種平均(14%高)の後じんを拝する。

さらに5日には人民元が11年ぶり安値となった。呼応して日経平均が一時500円超安となったのも、通貨冷戦の戦線が広がる気配をかぎ取ったからだろう。

もちろん日本株の苦戦は自国経済の地力を映す。日米相対株価の動きは、日本の消費者心理の下向き具合と重なるし、日米の企業業績の勢いの差でもある


◎米国限定での比較?

残りは2段落しかない。ここまで読んで、「『どの株式市場が選ばれるか』という競争では、日本株は不利な戦いを強いられそうだ」という見立てに納得できただろうか。

自国通貨高を避けるゲームで考えれば、米国側に多くのカードがある」から米国に比べて「不利」との材料は提示しているかもしれない。だが、藤田編集委員は「米国との比較をする」とは宣言していない。最初の段落からは「世界の株式市場の中で『日本株は不利』」と取れる。しかし、なぜ欧州株に比べて「日本株は不利」なのかは教えてくれない。

日米相対株価の動きは、日本の消費者心理の下向き具合と重なるし、日米の企業業績の勢いの差でもある」という材料も示してはいる。これも「日米」の比較だ。しかも過去の動向の分析なので、これから「不利な戦いを強いられそう」かどうかを判断する材料にはなりにくい。

できれば世界の株式市場の中で、最低でも日米中欧の中で「日本株は不利な戦いを強いられそうだ」と読者に納得させなければ、この記事は失敗だ。そして結果は言うまでもない。

最後に結論部分も見ておこう。

【日経の記事】

通貨冷戦は第3ラウンドでは終わらないかもしれない。緩和策の陰で、米国でも信用力の低い企業や商業用不動産などに貸し込み過ぎている懸念がある。

調整色を強める世界の株価と裏腹に、ニューヨーク金相場は6年ぶりの高値水準だ。金は不確定な時代への「保険」だが、徐々にその必要性を感じる投資家が増えているシグナルに見える



◎最後は脱線気味に…

最後は「世界の株価」全体に不安感が広がっているという話になってしまった。「日本株は不利な戦いを強いられそう」かどうかをしっかり論じた上ならば、まだ許せる。しかし、そうはなっていない。これでは記事に合格点は与えられない。


※今回取り上げた記事「スクランブル~市場『通貨冷戦』を懸念 米に余力、日本株には不利か
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190806&ng=DGKKZO48239040V00C19A8EN1000


※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明編集委員への評価はDを維持する。藤田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html

改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html

「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/01.html

「カラー取引」の説明不足に見える日経 藤田和明編集委員の限界
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_37.html

東証は「4市場」のみ? 日経 藤田和明編集委員「ニッキィの大疑問」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_28.html

0 件のコメント:

コメントを投稿