2018年6月10日日曜日

日経「あすへの話題」で決め付けが過ぎる玉村豊男氏

9日の日本経済新聞夕刊に載った「あすへの話題~ベーシックインカム」というコラムから判断すると、筆者であるエッセイストの玉村豊男氏は決め付け過ぎの傾向があるようだ。「ベーシックインカム」 も誤解しているきらいがある。コラムを見ながら、問題点を順に指摘したい。
宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

地方に旅行して、列車の窓から農村の風景を眺めると、この土地の人はどうやって暮らしているのだろう、と以前はよく心配になったものだ

なにもなさそうな田園地帯に、生計を成り立たせる仕事はあるのだろうか

会社がありそうな大きな町まで、通勤したら何時間かかるだろう。

それにしては家も立派だし、ガレージにはクルマもある……。

東京生まれの東京育ちには、田舎の人がどうやって暮らしているのか、想像することができなかった



◎「農村」ならば…

「『農村』と言うぐらいだから、農業で生計を立てているのかな」とは思わなかったのか。「なにもなさそうな田園地帯」であっても「列車の窓から」は「田園」が見えたはずだ。玉村氏は「日本に農業従事者はいない」とでも教えられていたのか。どうも話が嘘くさい。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

都会ではすべてをカネに換算するから、持ち金が一銭もなくなれば即ホームレスの世界である。が、田舎にはホームレスが存在しない。まだ都会に住んでいた35年前の私は、そんなことさえ知らなかった。



◎決め付けが…

都会ではすべてをカネに換算するから、持ち金が一銭もなくなれば即ホームレスの世界である」という一文にいくつも決め付けが入り込んでいる。

まず「都会ではすべてをカネに換算する」のか。例えば、都会では友人から「悩みごとの相談に乗ってほしい」と頼まれた時に「構わないけど1時間3000円もらうよ」などと答えるのか。それとも「1時間も話を聞いてあげたから、時給に換算すると3000円の損失かな」などと考えるのか。そういう人がいないとは言わないが、少なくとも全員ではないだろう。

持ち金が一銭もなくなれば即ホームレスの世界」も決め付けが過ぎる。「持ち金が一銭も」ないとしても、持ち家や実家に住んでいれば「ホームレス」とはなりそうもない。賃貸でも、すぐに部屋を追い出されるわけではないので、強制退去となるまでに家賃などを工面すれば済む。強制退去となった場合でも、「ウチでしばらく一緒に暮らせば」と言ってくれる友人がいるかもしれない。「都会」は玉村氏が言うほど単純な世界ではないはずだ。

田舎にはホームレスが存在しない」も決め付け過ぎだ。都会に比べれば数は圧倒的に少ないとは思う。だが、「存在しない」可能性は非常に低い。厚生労働省の実態調査(2017年)を見ても、ホームレスの17.5%は東京23区・政令指定都市・中核市を除く「その他」の227市町村に分布している。

おかしな話はさらに続く。

【日経の記事】

50歳近くなって会社を辞め、ワインぶどうを栽培して将来はワイナリーを建てたいといって移住する人が私の周囲には多いが、無一文の彼らを支えるのは農業である。



◎「無一文」なの?

玉村氏の周囲の事情は分からないので断定的には言えないが、「50歳近くなって会社を辞め、ワインぶどうを栽培して将来はワイナリーを建てたいといって移住する人」の中に、そんなに何人も「無一文」の人がいるのか。「無一文の彼らを支えるのは農業である」と言っても、始めてすぐに収入が得られるとも考えにくい。「無一文」で最初の1カ月はどうやって生活するのだろう。
雲仙地獄(長崎県雲仙市)※写真と本文は無関係です

最後に「ベーシックインカム」の話だ。

【日経の記事】

本業のブドウは収穫まで数年かかるけれども、それまでの間、ブロッコリを栽培して生計の足しにする者が少なくない。

ブドウ栽培に好適な日当たりがよく寒暖の差が大きい高原では、上質のブロッコリができて、そこそこ高く売れる。初夏から秋まで頑張れば200万円程度の収入になるそうで、地元では会社員の副業や定年退職後の仕事として人気がある。

農業は食べものをつくる仕事である。コメや野菜の大半は自分たちでつくり、たがいに助け合いながら生きる農村の暮らし。200万円のベーシックインカムがあれば、生活に余裕が出るのも当然だろう。



◎働いて得る「ベーシックインカム」?

ベーシックインカム」とは「就労や資産の有無にかかわらず、すべての個人に対して生活に最低限必要な所得を無条件に給付するという社会政策の構想」(知恵蔵)を指す。

ブロッコリを栽培」して「初夏から秋まで頑張れば200万円程度の収入になる」としても、それは単に働いて収入を得ているだけだ。「ベーシックインカム」でも何でもない。

玉村氏は「給料や年金とは別に得られ、生活を下支えしてくれる収入」といった意味で「ベーシックインカム」を使っていると推測できる。ここでは厳密な意味で「ベーシックインカム」を使う必要はないが、「働かなくても誰でももらえる」という要素はないと苦しい。

また、農業収入が「200万円程度」あったとしても経費などもかかるので、200万円をそのまま生活資金に使える訳ではない。その意味でも「ベーシックインカム」とは性格が異なる。


※今回取り上げた記事「あすへの話題~ベーシックインカム
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180609&ng=DGKKZO31581170Z00C18A6MM0000


※記事の評価はD(問題あり)。玉村豊男氏への評価は暫定でDとする。

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