流川桜並木(福岡県うきは市) ※写真と本文は無関係です |
【日経BP社への問い合わせ】
日経ビジネス編集部 寺岡篤志様 編集長 東昌樹様
4月10日号の「企業研究~日本製紙 新素材で紙頼み脱却」という記事についてお尋ねします。この中でCNF(セルロースナノファイバー)を「炭素繊維に続く日本発の新素材として注目が集まる」と紹介しています。問題としたいのは、炭素繊維が「日本発の新素材」かどうかです。
炭素繊維の大手である東レのホームページには「19世紀末にトーマス・エジソンとジョセフ・スワンが木綿や竹を焼いて作った炭素繊維を用いて電球を発明したことをご存知でしょうか?これが、炭素繊維のはじめです」との記述があります。次に「1957年頃」に「米・バーネビー・チェニィ社、ナショナル・カーボン社が炭素繊維を試作しています」と出てきます。「PAN系高性能炭素繊維」に関しては「日本発」かもしれませんが、炭素繊維自体は「米国発」だと思えます。
炭素繊維を「日本発」とする記事の説明は誤りだと判断してよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表するビジネス誌として責任ある行動を心掛けてください。
ついでで恐縮ですが、言葉の使い方についても指摘させていただきます。当該記事には何度も「製紙メーカー」という表現が出てきます。「製紙」と「メーカー」の両方に「作る」という意味が入っていてダブり感があります。記事中で一部使っている「製紙会社」の方が適切な表記でしょう。
◇ ◇ ◇
東レのホームページでは「大阪工業技術試験所 進藤昭男博士が炭素繊維を発表。これがPAN系高性能炭素繊維の始まりです(1961年)」と出てくる。日経ビジネスの寺岡記者はこれを炭素繊維の歴史の始まりと誤解したのだろう。そう考えると、記事の「炭素繊維は発明から半世紀が経過」との記述とも辻褄が合う。しかし、東レの説明が正しいのであれば、炭素繊維は「発明から1世紀以上が経過」していることになる。
記事に関してもう1つ注文を付けておきたい。
記事ではCNFについて「樹脂と混ぜて固めれば、鉄の5倍の強度、5分の1の重さの高性能プラスチックになる。強度は炭素繊維に一歩劣るが、リサイクル性では勝るといい、軽量化が進む自動車分野での採用がとりわけ期待されている」と説明している。なので最初は「自動車向けでは炭素繊維と競合するのかな」と思ってしまった。
しかし、読み進めると話が違ってくる。
【日経ビジネスの記事】
本命の自動車向けCNFは富士市の拠点で開発する。京大が開発した、樹脂と混合しながらパルプ繊維を解きほぐす製法を採用。原材料費を10分の1に引き下げられる可能性があるという。まずは射出成型品での採用を目指し、多様な自動車部品向けにCNFの可能性を探っていく。
耳納連山と桜(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です |
経産省によると、炭素繊維の主流である「PAN系」の1Kg当たりの製造コストは3000円。射出成型品として使われるガラス繊維は200~300円だ。対抗するためには、CNFも500円以下に引き下げることが求められている。
◇ ◇ ◇
ここで、CNFをどう理解すればいいのか迷いが出てきた。
CNFの競合素材は炭素繊維ではなくガラス繊維なのか。だとすると強度、軽さなどはどちらが上なのか。記事には説明がない。
記事の「強度は炭素繊維に一歩劣るが、リサイクル性では勝る」というCNFに関する説明に触れると、炭素繊維と同レベルか若干下回る程度の価格設定ができそうな気もする。だが、製造コストを「CNFも500円以下に引き下げることが求められている」のだとすれば、炭素繊維と比べ物にならないほど性能面で劣るようにも思える。これも、記事を最後まで読んでも事情が分からない。
さらに言えば「原材料費を10分の1に引き下げられる可能性があるという」とのくだりが分かりにくい。「CNFを採用した自動車メーカーの原材料費」について述べているようにも思えるし、「日本製紙にとっての原材料費」とも取れる。
自動車メーカーの「原材料費」だとすると、どの素材と置き換えた場合に「原材料費を10分の1に引き下げられる」のか謎だ。仮にガラス繊維だとすると、コスト面での優位性はなさそうなので、原材料費を引き下げる道が見えてこない。
この辺りは記事の肝とも言える部分なので、もう少し丁寧に解説してほしかった。
※結局、問い合わせへに対する回答はなかった。記事の評価はD(問題あり)。寺岡篤志記者への評価も暫定でDとする。
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