水上スキー(福岡県久留米市の筑後川) ※写真と本文は無関係です |
具体的に見ていこう。
【日経の記事】
株主優待を企業が導入するのは、長野県の主婦のように株を長期に持ってくれる株主を増やしたいからだ。そんな企業側の意図をよそに、優待の無料獲得を狙った短期の株取引が流行している。
先週、株式市場は3月期決算企業の株主の権利が確定する最終売買日を迎えた。その1日だけ現物株を買うと同時に信用取引で同じ株に売りを出す「優待クロス取引」が盛り上がる。株価変動リスクを避けながら、優待をタダで手に入れるのを狙う株取引の裏技だ。
都内在住の50歳の男性は「家族サービスのため今年はオリエンタルランドや日本航空など66銘柄で実施した」と明かす。問題は同じ銘柄に大人数が群がると、信用取引の売り注文に必要な貸株が品薄になり、株のレンタル料が高騰する点だ。
アミューズメント施設のアドアーズは提携先の高級リラクセーションサロンの利用券を提供するが、4万4000円相当の利用券を得るための費用が8万4000円に跳ね上がった。株主優待マニアとして有名な棋士の桐谷広人さんが愛用するとテレビ番組で紹介され、人気に火が付いた。
こんな優待バブルはそこかしこで起きている。ファミリーレストランのココスジャパンは、1000円相当の食事券と5%割引カードの獲得費用が1万560円に上昇。中央魚類が提供する3500円相当の水産物セットを得るには2万3400円の費用がかかった。
◎「優待をタダで手に入れる」?
「優待クロス取引」について「株価変動リスクを避けながら、優待をタダで手に入れるのを狙う株取引の裏技」と紹介している。しかし、優待をタダで手に入れられる可能性はゼロだろう。売買手数料がかかる。
ブリュッセル(ベルギー)の聖ミッシェル大聖堂 ※写真と本文は無関係です |
それに、記事で言うように「株のレンタル料が高騰」しているのであれば、うま味は乏しい。「4万4000円相当の利用券を得るための費用が8万4000円に跳ね上がった」場合、ほとんどの投資家はこうした銘柄で「優待クロス取引」をしようとは思わないだろう。仮にいたとしても、市場に大きな悪影響を与えるとも思えない。筆者(川路洋助記者、野口和弘記者)はこうした取引で「優待バブル」が起きると何が問題だと思っているのだろうか。
優待のせいで「株価が下がりにくくなっている」とも記事では指摘しているが、これこそ大した問題はない。
【日経の記事】
人気の優待を出す企業の株価が、企業価値に比べて高止まりしているとの指摘も出ている。例えば日本マクドナルドホールディングスは食事券の優待目的で株を持ち続ける個人が多く、株価が下がりにくくなっている。
米マクドナルドは保有する日本マクドナルド株の一部売却を模索しているが、買い手がなかなか現れない。「実力とかけ離れている今の株価ではとても買えない」。買収を一時検討した外資系ファンドの幹部は明かす。
◎「株価高止まり」は困る?
「優待目的で株を持ち続ける個人が多く、株価が下がりにくくなっている」として、誰が困るのか。株主はもちろん困らない。「安く買いたい」という投資家は多少困るかもしれないが、「高すぎる」と思えば手は出さないのだから少なくとも損はしない。
米マクドナルドが日本マクドナルド株を手放そうとしても買い手が現れないのは「株価が、企業価値に比べて高止まりしている」ためならば、ディスカウントして売却すればいい。市場で売り出すのも手だ。「企業価値」に比べて高く売れるので、米マクドナルドに損はない。買い手は価格に納得して買うのだから、これも問題はない。
優待目的の買いで株価が急騰しているのならばまだ分かるが、「下がりにくくなっている」ぐらいならば、気にする必要はないと思える。
優待で「金券やギフト券の増加」が見られることも大きな問題とは思えない。
【日経の記事】
優待ブームの過熱は、優待品の中身の変質にも表れている。その象徴がクオカードなど金券やギフト券の増加だ。今年は27%を占め、食品を抜いて初の首位となった。
平尾台(北九州市)※写真と本文は無関係です |
「個人を金券で呼び寄せるなど最近は安易に使われすぎだ」。優待ブームの火付け役であるカゴメ。制度の育て親だった同社OBの長井進・三菱UFJ信託銀行顧問は警鐘を鳴らす。行き過ぎた優待ブームは市場のゆがみを生み、それはいずれ企業自身にも跳ね返る。
◎配当は良くて「金券」はダメ?
配当を出すのはよくて「金券やギフト券」は好ましくないという理屈がよく分からない。「株数にきちんと連動していない」と言うのは分かるが、それは連動させれば済む話だ。株数に連動して配られるとの前提で考えると、「配当」と「金券やギフト券」に決定的な差はない。「個人を金券で呼び寄せる」のがダメならば、配当金の高さで個人を呼び寄せるのもダメだろう。
記事では「行き過ぎた優待ブームは市場のゆがみを生み、それはいずれ企業自身にも跳ね返る」と結んでいる。だが、どんなふうに「跳ね返る」のか謎だし、跳ね返りが起きそうな感じもない。
最後に「機関投資家『配当軽視』」という見出しに注文を付けておきたい。記事を最後まで読んでも、機関投資家が「配当軽視」と言っているくだりが出てこない。「配当を重視する機関投資家は不満を強めており、行き過ぎの弊害を指摘する声も増えてきた」「配当と違って機関投資家には不平等な制度とみられている」とは書いている。だが、ここから機関投資家が「配当軽視」と訴えていると解釈するのは、かなり強引だ。
※今回取り上げた記事「株主優待バブル過熱 株価、特典で高止まり/機関投資家『配当軽視』」
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170402&ng=DGKKZO14811370S7A400C1MM8000
※記事の評価はD(問題あり)。川路洋助への評価は暫定でDとする。野口和弘への評価はDを据え置く。
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