2017年4月19日水曜日

東洋経済の特集「東芝が消える日」山田雄一郎デスクに疑問

週刊東洋経済4月22日号の第1特集「東芝が消える日」は力作ではある。全体としての出来も悪くない。ただ、山田雄一郎デスクが書いた「旧村上系ファンドが筆頭株主に」という記事は引っかかる部分が多かった。
浅井の一本桜(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です

具体的に見ていこう。

【東洋経済の記事】

狙いはいったい何なのか。3月23日、旧村上ファンド出身者が運営する投資ファンド、エフィッシモ・キャピタル・マネージメント(以下、エフィッシモ)が、東芝株8.14%を保有する筆頭株主になったことが大量保有報告書で判明。そこからさらに買い増しし、3月末の保有比率は9.84%になっている。

エフィッシモは本誌の取材に対し、「東芝株への投資目的は純投資。中長期的な企業価値の向上に伴う値上がり益や配当を享受することを目的としている」と言う。だが、これを額面どおりに受け取るのは難しい。何しろ東芝は無配会社である。しかも債務超過転落で中長期的な見通しよりも短期的な財務立て直しに汲々(きゅう きゅう)としている

エフィッシモは、高坂卓志代表ら旧村上ファンドの幹部3人がシンガポールに設立した。わかっているだけでも日本株を3000億円分近く保有している(左表)。正確な投資額が不明な東芝、第一生命ホールディングスなどを加えると5000億円前後を日本株に投じている。旧村上ファンドと同様に株主提案をすることもある。

エフィッシモをよく知る投資ファンド関係者は言う。「東芝の債務超過転落は引当金が主体で、巨額のキャッシュアウトを伴うものではない。原発子会社を連結から外し、メモリ子会社を高値で売却した後の東芝はキャッシュリッチな好財務企業になるに違いない。その将来像に比して東芝の株価が割安だから東芝株を買っているのだろう」。


◎「純投資」と受け取れるような…

エフィッシモが東芝の筆頭株主となったのを受けて「東芝株への投資目的は純投資」というエフィッシモのコメントを紹介した後で「額面どおりに受け取るのは難しい」と山田デスクは述べている。
うきは市役所(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

だが、額面通りに受け取れるのではないか。エフィッシモは「中長期的な企業価値の向上に伴う値上がり益や配当を享受することを目的としている」という。これに対し山田デスクは「何しろ東芝は無配会社である。しかも債務超過転落で中長期的な見通しよりも短期的な財務立て直しに汲々としている」と指摘している。

ただ、「中長期的な企業価値の向上」が見込めるとの判断であれば、割安と思える時期に純投資目的で株を買うのは合理的だ。「値上がり益」は見込めるし、復配も期待できる。ずっと無配が続くとは限らないし、「短期的な財務立て直しに汲々としている」企業が「中長期的な企業価値の向上」を実現する可能性も十分にある。

もちろん本音を隠して「投資目的は純投資」と言っているのかもしれない。「額面どおりに受け取るのは難しい」と山田デスクが考えるのならば、どういう目的だと推測できるのかは示してほしかった。

しかし、「エフィッシモをよく知る投資ファンド関係者」のコメントでは「原発子会社を連結から外し、メモリ子会社を高値で売却した後の東芝はキャッシュリッチな好財務企業になるに違いない。その将来像に比して東芝の株価が割安だから東芝株を買っているのだろう」となっている。これでは「投資目的は純投資」というエフィッシモの言い分を額面通りに受け取りたくなってしまう。

そして記事は以下のように続く。

【東洋経済の記事】

東芝株に着目しているのは、エフィッシモだけではない。米キャピタル・リサーチや英ブラックロックといった名門ファンドもすでに東芝株を5%超保有している。

アナリストとして電機業界を30年以上見てきた東京理科大学大学院イノベーション研究科の若林秀樹教授のところには、「国内事業会社から東芝の今後についての問い合わせが多い」という。大量保有の報告義務のない5%未満の範囲では、「東芝株に投資している海外ファンドは、相当な数あるのではないか」(同)。残った事業がバラ売りされた場合に何らかの影響を与えられるよう、今から仕込む戦略とみられる。

とはいえ上場廃止になれば海外ファンドのもくろみは外れる。市場関係者からは「株価が元に戻ってもせいぜい2〜3倍になるだけだ。上場廃止で東芝株が紙くずになる危険性を考えれば割に合わない」という声もある。新たな筆頭株主は東芝に緊張感を与えられるだろうか。



◎「上場廃止で東芝株が紙くずになる」?

上場廃止で東芝株が紙くずになる危険性を考えれば割に合わない」というコメントが気になった。素直に読むと「上場廃止になれば東芝株は無価値になる」と解釈できる。だが、倒産するならともかく、上場廃止だけでは株式としての価値はなくならない。
八女学院中学・高校(福岡県八女市)※写真と本文は無関係です

上場廃止になれば株式売却はしにくくなるが、企業が存続していれば株式としての価値は残る。それに再上場の道もある。コメントとはいえ「上場廃止で東芝株が紙くずになる」という言い回しは不正確で誤解を招きやすい。

ついでに記事の書き方で1つ提案をしたい。


◎カッコ内の「同」について

大量保有の報告義務のない5%未満の範囲では、『東芝株に投資している海外ファンドは、相当な数あるのではないか』(同)」というくだりのような「」の使い方はお薦めしない。

記事で言う「」は「若林秀樹教授」のことだ。その場合、まず「(若林秀樹教授)」とカッコ内で「若林秀樹教授」を使い、その後に「(同)」とするならば分かる。だが、今回のような使い方では読者を迷わせやすい。使い方が間違っているとは言わないが、親切な書き方ではない。

さらに言えば、「(同)」ではなく「(同教授)」としてほしかった。そうすれば、読者が迷う可能性をぐっと小さくできる。細かい工夫だが、プロと呼べるレベルの書き手を目指すのならば、このぐらいの配慮はしてほしい。


※特集全体の評価はC(平均的)。当該記事の評価はD(問題あり)。山田雄一郎デスクへの評価は暫定B(優れている)から暫定Dへ引き下げる。

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