2017年2月7日火曜日

これで「バブル」? 週刊エコノミスト「電池バブルがキター」

週刊エコノミスト2月14日号の特集「電池バブルがキター!」は悪くない出来だ。ツッコミどころは多くない。特集を担当した種市房子記者の能力は基本的に高いのだろう。ただ、満足できる内容だったかと言うと、物足りなさが残る。気になった点をいくつか挙げてみたい。
成田山公園(千葉県成田市) ※写真と本文は無関係です

まず「バブル」に見えない。特集の最初の記事に付いている「リチウム電池が急拡大 世界の車が電動化する」という見出しが示すように、「これから電池の需要が大きく伸びますよ」とは訴えている。ただ、経済記事で「バブル」と言うのであれば、「本来あるべき水準からかけ離れて需要が上向いている危険な状態」を描いてほしい。特集を読む限り、電池の需要拡大は「世界の車が電動化する」流れに沿ったもので、「バブル」としての危険な要素は感じられなかった。

さらに言えば、「バブル」と呼ぶには勢いがやや弱い。種市記者が書いた「リチウム電池が急拡大 世界の車が電動化する」という記事では、「電池バブル」を印象付けるために冒頭で日立化成を取り上げている。その書き出しを見てみたい。

【エコノミストの記事】

電池関連企業の業績が好調だ。日立化成は1月25日、2017年3月期連結の最終利益予想を395億円(前年同期比2.6%増)に上方修正した。従来予想は前年比9.1%減の350億円だったが、足元の好業績を反映して一転、増益となった。売り上げ増の中で目を引くのが、同社が世界トップシェアを誇るリチウムイオン電池用の負極材の伸びだ。足元の売上高は、前年同期比27%増だった。上方修正を好感して同社の株価は続伸し、発表から2日後の1月27日の終値は、1年前の1.9倍の3275円を付けた。

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電池バブルがキター!」と威勢よく走り出してみたものの、最初の事例は盛り上がりに欠ける。上方修正は「350億円」から「395億円」で大した金額ではない。しかも、上方修正しても前の期と比べるとわずか2.6%の増益。それまでは減益予想だったらしい。「この会社は本当に電池バブルの恩恵を十分に受けてるの?」と首をひねりたくなる。「リチウムイオン電池用の負極材」は「前年同期比27%増」とまずまずだが、全体の業績からは「バブル」を感じられない。

株価も同様だ。バブルであれば「業績予想の上方修正を受けて2日間で株価が50%も上がった」ぐらいの話が欲しい。しかし、「上方修正を好感して同社の株価は続伸」と書いているのに、なぜか上げ幅には触れていない。代わりに「1年前の1.9倍」となっている。これは怪しい。

調べてみると、業績修正後の2日間での上昇率は5%ほど。「これではインパクトに欠ける」と考えて「1年前」との比較で上昇率を大きく見せたのだろう。

業績に関しても、調べてみた。記事で言う「27%増」は、2016年10~12月期の売上高のようだ。ただし、「リチウムイオン電池用の負極材」を含む「無機材料」が日立化成の売上高に占める比率は5%に満たない。これでは、負極材の売り上げがかなり伸びても、全体の業績に与える影響は限定的だ。

結局、小さな話を大きく見せないと記事を作れなかったのだろう。だとしたら、「電池バブルがキター!」を素直に受け入れる気にはなれない。

ついでに細かい指摘をすると、「2017年3月期連結の最終利益」について、最初は「前年同期比」で説明し、次は「前年比」になっている。どちらも間違いではないが、統一した方が良い。

足元の売上高は、前年同期比27%増」という書き方も感心しない。「27%増」というかなり具体的な数字を出しているのに、その時期をなぜ隠すのか。16年10~12月期の数字ならば、そう書いた方がいい。文字数が大きく増えるわけでもない。


※特集全体の評価はC(平均的)。種市房子記者への評価はB(優れている)を据え置くが、弱含みではある。種市記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

事前報道に懐疑的な週刊エコノミスト種市房子記者に期待
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_12.html

不足のない特集 週刊エコノミスト「固定資産税を取り戻せ」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_6.html

一読の価値あり 週刊エコノミスト「ヤバイ投信 保険 外債」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_20.html

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