2017年2月22日水曜日

日経1面連載「砂上の安心網」取材班へのメッセージ

日本経済新聞朝刊1面で連載していた「砂上の安心網~ゆがむ分配」が第6回で終わった。第3回以降は悪くない出来で、良い意味で予想を裏切られた。ただ、22日の特集面に載った「医療費査定件数 5.4倍の格差 地域差是正で808億円カット」という記事は頂けない。第1回の記事と内容が重なり過ぎているし、問題点をそのまま引き継いでいる。
福岡県立精神医療センター太宰府病院(太宰府市)
           ※写真と本文は無関係です

特集面の記事には「渡辺康仁、武類祥子、銀木晃、前村聡、佐藤賢、清水崇史、高佐知宏、中島裕介、上杉素直、高田倫志、高畑公彦、辻征弥、小嶋誠治、井上孝之、川瀬智浄、菊地貴之、大酒丈典、岸田幸子、奥田宏二、大島有美子、寺井浩介、渡部加奈子が担当しました」と出ていた。彼ら、彼女らに以下のようなメッセージを送っている。

【取材班に送ったメール】

「砂上の安心網」取材班の皆さんへ

2月22日の朝刊特集面「砂上の安心網特集」の「医療費査定件数 5.4倍の格差 地域差是正で808億円カット」という記事に関して、意見を述べさせていただきます。

まず、この記事は2月16日付の朝刊1面に載った「医療費格差是正に背く『番人』 審査ルール乱立」という記事の焼き直しではありませんか。この記事でも「全ての都道府県で大阪府並みの査定をすれば、808億円の医療費が削減できる可能性があることが分かった」などと書いています。何のために、同じような内容を1週間の間に2回も載せているのでしょうか。

22日の1面の記事では「この連載の取材は昨年夏に始まった」と記しています。だとすれば、記事に書き切れなかった話がたくさんあるはずです。なのに、同じような話を繰り返すのは解せません。せっかく紙面を確保できたのですから、もっと意義のある使い方をしてはどうでしょうか。

また、22日の特集記事の主張にも疑問が残ります。記事の最後の段落で皆さんは以下のように書いています。
ブリュッセルのグラン・プラスに建つ市庁舎
      ※写真と本文は無関係です


「支払基金は15年度で計367億円の医療費を査定している。チェックの甘い支部への請求分を、厳しい支部がチェックすると査定額は増える。最も厳しい大阪府並みに引き上げたとして試算すると3.2倍の1175億円に跳ね上がり、なお808億円を削減できる可能性がある。支部間の審査ルールやチェック体制の見直しが急務だ」

そもそも「チェックが最も厳しいのが大阪府」との前提は正しいのでしょうか。「最も厳しいのが大阪府」となっているのは「差し戻し率」「不適切な請求と判断した金額の割合」で大阪府がトップだからでしょう。しかし、これだけだと何とも言えません。

例えば、大阪府には「真の不適切請求」が5%あるとしましょう。そして2.7%を差し戻しています。一方、秋田県には「真の不適切請求」が0.5%しかないとします。そのすべてを差し戻しているので差し戻し率は0.5%になると仮定します。この場合、「チェックが厳しい」のは大阪府ですか、秋田県ですか。

上記の前提では、「チェックが厳しい」のは秋田県の方です。あくまで仮定の話なので、現実には「チェックが最も厳しいのは大阪府」となる可能性も残ります。ただ、記事で示したデータだけでは何とも言えません。常識的に考えれば、「真の不適切請求」がどの程度あるのかを把握するのは困難でしょう。故に「最もチェックが厳しいのはどの都道府県か」を断定するのは非常に難しいと思えます。

「最も厳しい大阪府並みに引き上げたとして試算すると3.2倍の1175億円に跳ね上がり、なお808億円を削減できる可能性がある」と皆さんは示していますが、そもそもどの都道府県にも2.7%以上の「真の不適切請求」はあるのですか。そこが分からないのに「808億円を削減できる可能性がある」と訴えても、あまり意味はありません。

例えば「真の不適切請求」が0.5%しかない県で2.7%を差し戻すのは、好ましい状況ですか。「どの都道府県にも2.7%以上の『真の不適切請求』はある」と確信しているのであれば、その根拠を示すべきです。

あれこれ注文ばかり付けてきましたが、今回の1面連載は3回目以降に関して言えば完成度が高かったと思います。皆さんの問題意識が紙面を通じて伝わってきましたし、記事の構成にも大きな問題は感じませんでした。日経の1面企画と言えば、中堅以下の記者は事例集めに奔走し、後は担当デスクが事例を強引につないで説得力の欠ける記事に仕上げるのが定番でした。皆さんはそういう悪しき伝統から距離を置いて連載を作り上げてきたはずです。それは評価に値すると思います。

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※今回取り上げた記事「砂上の安心網特集~医療費査定件数 5.4倍の格差 地域差是正で808億円カット
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170222&ng=DGKKZO13183680R20C17A2M10800

※上記の記事への評価はD(問題あり)、特集全体への評価はC(平均的)とする。渡辺康仁氏が筆頭デスクだと推定し、同氏の評価を暫定でCとする。

※今回の連載に関しては、以下の投稿も参照してほしい。

「格差是正が必要」に無理あり 日経「砂上の安心網」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_16.html

医療費で「番人」責めて意味ある? 日経「砂上の安心網」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_17.html


※昨年12月連載の「砂上の安心網」については以下の投稿も参照してほしい。

「2030年に限界」の根拠乏しい日経1面「砂上の安心網」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/2030.html

第2回で早くも「2030年」を放棄した日経「砂上の安心網」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/2030_20.html

「介護保険には頼れない」? 日経「砂上の安心網」の騙し
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_21.html

日経朝刊1面連載「砂上の安心網(4)」に見えた固定観念
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_62.html

どこが「北欧流と重なる」? 日経1面「砂上の安心網(5)」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_42.html

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