阿蘇山(熊本県阿蘇市) ※写真と本文は無関係です |
改めて断言しよう。「お金のデザインを好意的に取り上げるメディアを信頼するな」。なぜそう言えるのか。記事の後半部分を見た上で説明したい。
【日経の記事】
一方で、新たな世代の投資家も増えつつある。2000年以降に成人になり、ネットを駆使する「ミレニアル投資家」。
「資産運用の経験は」「投資した資産が値下がりしたらどうしますか」――。5つの質問に答えれば、人工知能(AI)が最適の分散投資手法を提供する。「ロボアドバイザー」と呼ぶ資産運用の助言サービスだ。
昨年このサービスを始めた独立系運用会社、お金のデザイン(東京・港)では利用者の8割強が20~40歳代。東京都の会社員、伊藤周作さん(34)は「簡単な操作で世界中の株式や債券などに分散投資できる」と投資へのハードルは低い様子だ。
今は投資と無関係という人も、投資と向かい合う日が来ることはありうる。貯蓄だけでは老後もままならないうえ、高齢化で若年層への資産移転も増える。野村資本市場研究所は「控えめに見積もっても年50兆円の資産が相続されていく」と試算する。新たな層が多様な手法で成功体験をつかめれば、個人の行動原理も変わるかもしれない。
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「お金のデザイン」を通じて資産運用すると、年1%(投資額3000万円以上は0.5%)の手数料を取られる。ETFを組み合わせるだけの投資に1%もの手数料を払う投資家は基本的に「カモ」だ。1%の中にETFの売買手数料は含まれるが、2年目以降は多少リバランスする程度で大した売買はない。
アントワープ(ベルギー)近郊のショッピングセンター ※写真と本文は無関係です |
一方、投資家はETFの信託報酬を差し引かれたところから、さらにお金のデザインに1%を差し出すことになる。少し投資の知識があれば、手を出す気にはならないはずだ。
「人工知能(AI)が最適の分散投資手法を提供する」ところに価値があるのではと思う人もいるだろう。「最適」と言い切っている記事の書き方に問題があるが、これはあくまで「最適」と向こうが提示してくれるだけだ。本当に「最適」なのかは分からない。そもそも、何を以って「最適」とするかが難しい。1つの最適解があって、それを賢いAIが教えてくれるわけではない。「1つの意見」を与えてくれるだけだ。
1000万円を投じれば手数料は年10万円にもなる。正しいかどうかも分からない意見を1つくれて、多少のリバランスをしてくれるだけの会社に年10万円を差し出す価値があるだろうか。
記事の最後には「関口慶太、押切智義、野口和弘、井川遼、森田淳嗣が担当しました」と出てくる。彼らは、投資に関する知識が足りないか業界の回し者かのどちらか(あるいは両方)だ。でなければ「お金のデザイン」をこれだけ持ち上げられないはずだ。
ついでに他の問題点もいくつか指摘しておこう。
◎なぜ「20~40歳代」?
「2000年以降に成人になり、ネットを駆使する『ミレニアル投資家』」について書いているのに、「お金のデザイン(東京・港)では利用者の8割強が20~40歳代」と「40歳代」まで含めて数字を出している。ここは「ミレニアル投資家」に相当する「20~30歳代」で数字を見せるべきだ。
◎「貯蓄だけでは老後もままならない」?
「貯蓄だけでは老後もままならないうえ、高齢化で若年層への資産移転も増える」という説明は、厳しく言えば間違っている。
まず「貯蓄だけでは老後もままならない」とは言い切れない。貯蓄だけで十分な場合もある。例えば、年収2000万円の人が年間1000万円を貯蓄に回して投資はしない生活を30年続けた場合、「貯蓄だけでは老後もままならない」と言えるだろうか。平均的な年収の人でも、「貯蓄だけでは老後もままならない」かどうかは生活スタイルなどに左右される。やはり一括りにはできない。
「高齢化で若年層への資産移転も増える」との説明も怪しい。親世代の資産額は同じだとして、親が平均して50歳で死ぬ社会と、80歳で死ぬ社会では、どちらが「若年層への資産移転(この場合、相続のみを考える)」が多くなるだろうか。普通に考えれば前者だ。
親が50歳で死ねば、子供は「若年層」のうちに相続する可能性が高い。だが、80歳まで生きられると、相続するときにほとんどの子供は「若年層」ではなくなってしまう。つまり記事の説明とは逆に「高齢化で若年層への資産移転は減る」。
※連載全体の評価はD(問題あり)。担当者の評価は以下の通りとする。
関口慶太(暫定D→D)
押切智義(暫定D)
野口和弘(Dを維持)
井川遼(暫定D→D)
森田淳嗣(暫定D)
※今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。
なぜか「投資商品を売る側」から論じる日経「市場の力学」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_24.html
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