2017年2月23日木曜日

ヤメ検は顔が利かない? 週刊ダイヤモンド「司法エリートの没落」

週刊ダイヤモンド2月25日号の特集「弁護士・裁判官・検察官~司法エリートの没落」について、さらに見ていく。ここではまず「Part 3 “巨悪と眠る”検察官~検察に顔が利くって本当? ヤメ検の本当の実力とは」という記事を取り上げる。取材班は「ヤメ検」が「現役の検察官に顔が利く」かどうかに関して「ノー」と結論付けているが、それを否定するような記述がある。
戒壇院(福岡県太宰府市) ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

ヤメ検によく持たれるイメージが、「現役の検察官に顔が利く」ということだろう。もし、あなたが事件の容疑者として逮捕された場合、取り調べや裁判の段階でヤメ検を介して何らかの「手心」を検察から引き出せるのだろうか

今回、複数の検察関係者に取材した限りでは、答えは「ノー」だ

「昔はともかく今は聞かない」「元上司なら庁舎で会うことも拒まないが、捜査がねじ曲がることはあり得ない」「ヤメ検とつながった上司から圧力をかけられたが、当然のように無視した」(いずれも元検事)。現役検事も「うっとうしいだけ」と切り捨てる。

◎「上司から圧力をかけられた」のならば…

気になるのは「ヤメ検とつながった上司から圧力をかけられたが、当然のように無視した」というコメントだ。上司を通じて圧力をかけられるのであれば、「何らかの『手心』を検察から引き出せる」可能性は十分にある。コメントの主は「当然のように無視した」ようだ。ただ、上司からの圧力を誰もが簡単に無視できるとは考えにくい。

ついでに言うと「昔はともかく今は聞かない」というコメントの「聞かない」は「利かない」の誤りだろう。

次に「Column~つぶしたくてもつぶせない 崩壊寸前の法科大学院の今」という記事で引っかかった点に触れておきたい。

【ダイヤモンドの記事】

そんな中、下図のように各方面からの圧力が日増しに強くなり、法科大学院が崩壊しかかっている。その影響をもろに受けているのが、中堅以下の私立大学だ。

この層の学生は、学費の安さやブランドを優先し、東京大学、京都大学などの有名国立大学、もしくは早稲田大学、慶應義塾大学などの上位私立大学と併願する傾向にある。そのため学生が集まりにくく、定員を削減するところもあれば、次頁の表のようにやむなく募集停止に追い込まれるところも続出した。「法科大学院は失敗だった」と多くの業界関係者が口をそろえるゆえんだ。

とはいえ、簡単に法科大学院をつぶせないお家事情もある。開校当初、少しでもブランド力を高めるべく、有名な弁護士や学者を専任教員として招聘した大学もある。彼らは職を守るため法科大学院廃止に反対し、強引に首を切れば悪評が立って大学のブランドが毀損してしまう。

そこで経営陣が「法学部に教員を移そう」と考えても、定数が決まっており、「学部教授会が反対するのは明らか」(前出の法科大学院関係者)である。

その上、母校を失うことになるOB・OGからの反発も容易に想像できる。こうして廃止に反対する圧力がかかり、「大赤字の経営を強いられているが、つぶすにつぶせない」(同)というジレンマに陥っているのだ。

◎「つぶしたくてもつぶせない」?

法科大学院に関して「つぶしたくてもつぶせない」と解説しているが、一方で「次頁の表のようにやむなく募集停止に追い込まれるところも続出した」とも書いている。その「」を見ると全71校中26校が2016年度に「募集停止」となっている。これだけの数の「募集停止」があるのに、「つぶしたくてもつぶせない」と言われても説得力はない。
ブリュッセルの小便小僧
     ※写真と本文は無関係です

もちろん実際に「つぶしたくてもつぶせない」法科大学院もあるのだろう。それらは募集停止校と何が違うのか。そこまで踏み込んで分析してほしかった。

記事に付けた「中堅以下は学生が集まらず赤信号も」という表も疑問が残った。この表では「法科大学院別の補助金配分率と司法試験合格率」を載せている。しかし、両者の関係はかなり弱い。

例えば筑波大学は司法試験合格率7.1%(合格者5人)で補助金配分率95%となり「存続の可能性は高い」グループに入っている。一方、明治大学は合格率12.1%(合格者36人)で配分率は0%。「存続が危ぶまれる」グループだ。注記を見ると配分率には「入学定員充足率」なども影響するらしい。ならば、それらの数字を含めて表を作ってほしかった。この表だけ見ると、合格率が低くても配分率が高い大学がいくつもあるので、どう理解すればいいのか分からなくなる。

タイトルの「中堅以下の大学は学生が集まらず赤信号も」に関しても「中堅以下」の意味が分かりにくい。「大学入試の偏差値で見た中堅以下」ということなのか。その前提で考えると、「難関大だから安泰、中堅以下だから苦しい」という単純な図式にはなっていない。「存続の可能性が高い」には愛知大学、関西大学、「存続を懸けて正念場」には「広島大学、東北大学、「存続が危ぶまれる」には青山学院大学、明治大学が入っている。

大まかには「難関大学ほど安泰」のようだが、そうではない例も目立つ。一般的に言えば、愛知大学や関西大学より青山学院大学や明治大学の方が格上だ。なのに法科大学院に関しては立場が逆転している。この辺りを「中堅以下の大学は学生が集まらず赤信号も」という単純な分析で終わらせているのが残念だ。

※今回取り上げた特集「弁護士・裁判官・検察官~司法エリートの没落
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/19394 

※特集全体の評価はC(平均的)。特集の担当者への評価は以下の通りとする。

片田江康男記者(E=大いに問題あり→D=問題あり)
重石岳史記者(暫定E→暫定D)
土本匡孝記者(暫定D→暫定C)
大根田康介記者(D→C)

※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

裁判官も「没落」? 週刊ダイヤモンド「司法エリートの没落」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_21.html

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