2017年2月16日木曜日

「格差是正が必要」に無理あり 日経「砂上の安心網」

またしても苦しそうな1面連載が日本経済新聞の朝刊で始まった。16日の「砂上の安心網~ゆがむ分配(1)医療費審査ルール『乱立』 格差是正に背く『番人』」という記事では、「病院などが請求した医療費が不適切だとして差し戻された割合」の都道府県別の格差を解消すべきだと訴えている。しかし、この主張には無理がある。
日本経済大学(福岡県太宰府市) ※写真と本文は無関係です

記事の前半部分を見てみよう。

【日経の記事】

「この格差はおかしくないか」。厚生労働省の検討会の委員から取材班に情報が寄せられた。指定された場所を訪ねると、机の上に都道府県別の数値が並んだ紙が用意されていた。秋田県などの0.5%から大阪府の2.7%まで。企業で働く数千万人にかかわるデータがそこにあった。

データが告げているのは、病院などが請求した医療費が不適切だとして差し戻された割合。過剰な検査や投薬があぶり出され、その多くで医療保険から支払われる金額が減らされる。

数%だからとこの地域格差を過小評価するわけにはいかない。データをもとにした取材班の試算で、全ての都道府県で大阪府並みの査定をすれば、808億円の医療費が削減できる可能性があることが分かった

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全ての都道府県で大阪府並みの査定をすれば、808億円の医療費が削減できる可能性があることが分かった」と言うが、全ての都道府県で「大阪府並みの査定」をして格差を無くすのは望ましいのか。
ゲント(ベルギー)のフランドル王立劇場
     ※写真と本文は無関係です

仮に、「本当に差し戻されるべき不適切な医療費請求」の比率が秋田県には0.5%しかなく、大阪府には2.7%あるとしよう。その場合、正しく審査すると差し戻しの割合はどうなるか。秋田県でも2.7%を差し戻すべきなのか。そうなると、適切な医療費請求まで差し戻すしかない。

真に不適切な医療費の請求がどの都道府県でも2.7%以上あるのならば「全ての都道府県で大阪府並みの査定をすれば、808億円の医療費が削減できる可能性がある」という試算にも意味がある。だが、真に不適切な請求の比率に都道府県で差があるのならば、差し戻しの比率にも差が生じるのは当然だ。

記事の後半では、地域によって審査ルールにばらつきがあることを問題視している。だが、ルールを統一したからと言って、真に不適切な医療費の請求比率が全都道府県で2.7%以上になるとは限らない。

取材班に情報を寄せてくれた「厚生労働省の検討会の委員」がどんな人物か知らないが、「この格差はおかしくないか」と言われると、あまり疑わずに受け入れて記事にしてしまうようだ。ちょっと頼りないし、怖い気もする。


※この記事には後半部分にも気になる点があった。それについては別の投稿で触れる。昨年12月にも「砂上の安心網」というタイトルで連載をしていた。これについては以下の投稿を参照してほしい。

「2030年に限界」の根拠乏しい日経1面「砂上の安心網」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/2030.html

第2回で早くも「2030年」を放棄した日経「砂上の安心網」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/2030_20.html

「介護保険には頼れない」? 日経「砂上の安心網」の騙し
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_21.html

日経朝刊1面連載「砂上の安心網(4)」に見えた固定観念
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_62.html

どこが「北欧流と重なる」? 日経1面「砂上の安心網(5)」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_42.html

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