2016年10月8日土曜日

「投信の手数料開示を促す」?日経「手数料にメス」に疑問

8日の日本経済新聞朝刊経済面に載った「手数料にメス 『対価』の実態(下) ~動く海外当局、悩める金融庁 ルール強化か 自主規制か」という記事に気になる記述があった。投資信託について「無理のある売り方が家計の金融資産の52%を現預金にとどまらせている一因と金融庁はみており第一歩として手数料の開示を強く促している」と説明している。これを読む限り「投信の手数料は開示されていない」と思えるが、実際には目論見書などで確認できる。
大分県立中津南高校(中津市) ※写真と本文は無関係です

日経への問い合わせ内容は以下の通り。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 玉木淳様 亀井勝司様 斉藤雄太様 渡辺淳様

10月8日の朝刊経済面に載った「手数料にメス 『対価』の実態(下)」という記事についてお尋ねします。記事には以下の記述があります。

「日米市場の成長性の差も投信の規模に影響していそうだ。それ以上に無理のある売り方が家計の金融資産の52%を現預金にとどまらせている一因と金融庁はみており第一歩として手数料の開示を強く促している」

この前の段落でも投信の手数料について述べており、金融庁が「第一歩として手数料の開示を強く促している」のは投信の手数料としか解釈できません。しかし、投信の販売手数料や信託報酬は投資家に開示されているのではありませんか。9月28日の日経朝刊の記事でも「手数料に開示義務があり透明化が進んできたのが投資信託だ」と書いています。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。日経では、読者からの間違い指摘の無視や、記事中のミスの握りつぶしが後を絶ちません。既に「伝統」と言える域に達しています。「クオリティ・ジャーナリズムを追求する」との表向きの方針とは完全に逆行しています。日本を代表する経済メディアとして、責任ある行動を心がけてください。

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第一歩として手数料の開示を強く促している」と書くまでの流れをもう少し長めに振り返ってみよう。

【日経の記事】

投信の規模に日本の手数料が割高になる一つの答えがある。投信の本数は約8000本の米国に対し、日本は5843本。ただ1本当たりの規模は160億円の日本と2300億円の米国とで大差がついている。

ロングセラー投信が多い米国と異なり、日本では短期間で売れ筋が入れ替わるため1本あたりの運用規模が小さい。スケールメリットが働かず、信託報酬を含めた管理費用が割高になる悪循環を招いている。

「手数料稼ぎのため頻繁に投信を乗り換えさせてきた金融機関の姿勢を映している」。投信が小粒な理由を金融庁はこうみる。銀行の投信販売額は09年度から14年度までの5年間で2倍強伸びたが投信残高は横ばい。商品を解約させて別の商品に乗り換えさせる動きが多く残高は増えづらい。

日米市場の成長性の差も投信の規模に影響していそうだ。それ以上に無理のある売り方が家計の金融資産の52%を現預金にとどまらせている一因と金融庁はみており第一歩として手数料の開示を強く促している

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筆者らに弁明させれば「『第一歩として手数料の開示を強く促している』のは投信ではなく『貯蓄性保険』についてだ」と言うだろう。記事の最初の方では「貯蓄性保険の手数料」の開示問題に触れている。ただ、その後に投信の話へ転じ、延々と投信の問題点を述べた後で「第一歩として手数料の開示を強く促している」と書けば、「手数料の開示を強く促している」のは投信に対してとしか受け取れない。

ついでに記事の書き方について指導してみたい。

【日経の記事】

海外ではオーストラリア政府が生保販売に伴い販売業者が受け取る手数料を下げる方針を掲げ、米国も販売会社に「顧客の利益のためだけに働く」という大原則を来春にも義務付ける。

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オーストラリア政府が掲げ」という主語・述語の間に「販売業者が受け取る」という主語・述語の関係が入ってきているので読みにくい。改善例を示しておく。

【改善例】

海外では、生保販売に伴い販売業者が受け取る手数料の引き下げ方針をオーストラリア政府が掲げるほか、米国も来春にも販売会社に「顧客の利益のためだけに働く」という大原則を義務付ける。

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※今回の記事の評価はD(問題あり)だが、3回の連載全体の評価はC(平均的)とする。玉木淳記者、亀井勝司記者、斉藤雄太記者への評価も暫定でCとする。暫定でDとしていた渡辺淳記者への評価は据え置く。

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