2016年7月28日木曜日

信越化学株を「安全・確実」と日経 川崎健次長は言うが…

日本経済新聞の川崎健証券部次長が書く記事はやはり苦しい。28日の朝刊マーケット総合1面に載った「スクランブル~軽くなった大型株」もそう思わせる内容だった。「一時16%高まで急騰した信越化学工業株」について「誰もが『安全・確実』と認める材料が出た銘柄」と川崎次長は解説している。しかし「2016年4~6月期決算が大方の予想を超えるサプライズ決算だった」ことが「誰もが『安全・確実』と認める材料」とは考えにくい。
太宰府天満宮の参道(福岡県太宰府市)
          ※写真と本文は無関係です

記事の一部を見てみよう。

【日経の記事】

「信越化ですか? 日銀や政府がどう動くか分からない中で、ますます裏付けがある銘柄を求めるようになっていますね」。大きな「窓」を開けて上昇したチャートを見ながら、野村証券のある幹部は、投資家の胸の内をこう説明してみせた。安全で確実な材料が出た銘柄が一斉に買われるのにはこうした背景がある。

信越化が買われたのは、前日発表の2016年4~6月期決算が大方の予想を超えるサプライズ決算だったからだ。連結営業利益は市場予想の平均(516億円)を超える前年同期比17%増の600億円。SMBC日興証券の竹内忍アナリストは「急激な円高進行という厳しい環境の中で、コストコントロールがうまくいっている」と評価する。

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安全で確実な材料が出た銘柄」とは何だろうか。ここでは「その材料が出た直後に買えば確実に利益が得られる(損失を出す可能性は極めて小さい)銘柄」と仮定してみる。「それに当たるのが信越化だ」と川崎次長は教えてくれるが、どうも怪しい。

業績面での明確なポジティブサプライズは「安全で確実な材料」と言えるだろうか。情報を公表前には得られない(インサイダー取引はできない)前提で考えれば、「安全」でも「確実」でもない。サプライズを受けて、株価の適正水準に関する市場コンセンサスが1株1000円から1100円に上昇したとしよう。すると取引が成立する価格は1100円になってしまう。その後の株価上昇の確率に関して、他の銘柄より有利と考える根拠はない。

しかし川崎次長は違う考えのようだ。記事の後半では以下のように説明している。

【日経の記事】

日本株を手掛ける世界のヘッジファンドの多くが、今年に入り運用に苦戦しているのは広く知られている事実だ。例えば総額約8兆円を運用する英マン・グループ。26日、ロング(買い持ち)オンリー戦略をとる傘下のGLGの日本株ファンドが、1~6月にマイナス26.6%と記録的な損失を出したことを公表した。

GLGの同ファンドは代表的な日本株ヘッジファンドの一つだが、急激な成績悪化で投資家からの解約が加速しているという。「大型株で運用する日本株ファンドはどこも似たり寄ったり。短期売買で今年前半の成績不振を取り戻そうとするファンドが増えている」(欧州系証券)という。

顧客の解約を恐れるヘッジファンドは当然、許容できる運用リスクも限られる。だからこそ、誰もが「安全・確実」と認める材料が出た銘柄に資金を一極集中させているのだろう

ただ、こうした目先の利益に目を奪われた投資家の群集行動が、往々にして株価をオーバーシュートさせてしまうのも市場の真実だ。リスクを取ろうとしない短期マネーの一極集中が生み出す大型株の乱舞――。そんな光景がいつの間にか日常化しつつあるこの市場から、一番大切な「価格発見機能」が失われていかなければいいのだが

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許容できる運用リスクも限られる」ヘッジファンドは「誰もが『安全・確実』と認める材料が出た銘柄に資金を一極集中させている」らしい。記事の書き方だと「業績面での明るい材料が出た信越化を買えば、少ないリスクで安全確実にリターンを得られる」との印象を読者は抱いてしまう。しかし、誰もが認めるポジティブサブライズがあった銘柄はその前より高い価格でしか買えなくなってしまうので、投資対象として有利なわけではない。

信越化への投資を「リスクを取ろうとしない短期マネーの一極集中」と見るのもおかしい。信越化へ投資すれば、必然的にリスクを取ってしまう。投資先を分散させていたヘッジファンドが信越化に資金を「一極集中」させるとしたら、分散によるリスク低減を放棄している分、以前よりも多くのリスクを取っている可能性が高い。

大型株の値動きが軽いからと言って「一番大切な『価格発見機能』が失われていかなければいいのだが」と憂慮するのも、よく分からなかった。新たに出た材料に敏感に反応しているのであれば「市場の価格発見機能は健在」と考えてよいのではないか。明確なポジティブサプライズがあったのに取引が低調で株価も全く動かないのであれば「価格発見機能」が働いているのか心配になるが…。


※記事の評価はD(問題あり)。川崎健次長への評価もDを据え置く。川崎次長に関しては「『明らかな誤り』とも言える日経 川崎健次長の下手な説明」「なぜ下落のみ分析? 日経 川崎健次長『スクランブル』の欠陥」「川崎健次長の重き罪 日経『会計問題、身構える市場』」も参照してほしい。

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