福岡県立伝習館高校(柳川市) ※写真と本文は無関係です |
「早世」は「早く世を去ること。早死に。若死に。夭折」(デジタル大辞泉)という意味だ。高齢化が進んでいるとはいえ、77歳で亡くなった人に関して「早世を悼む」と言われると、違和感が拭えない。経営者の場合、大目に見ても60代までだろう。第一線を退いてから何年も経っている人が77歳で亡くなった時に「早世」を使うのは理解に苦しむ。
秋草氏に関して秋場副編集長は「先を見通す力を持っていた人だった気がする」とも書いている。しかし、記事を最後まで読んでも、そうは思えなかった。「先を見通す力」に言及した部分を見てみよう。
【日経ビジネスの記事】
1998年、社長に就任。早速、「ソフトやシステムはハードの添付品。それが今や主役になった」と言った。今でこそ当たり前だが、IT(情報技術)の世界でパラダイムシフトが起きていることを、早くに言い当てた。
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朝日新聞の評伝によると「ソフトやシステムは昔はハードの添付品。それが脇役になり、いまや主役になった」と秋草氏は社長就任会見で語ったそうだ。これは現状を分析しているだけだ。先見の明があるわけではない。「ソフトが主役」の代表格とも言える米マイクロソフトは、98年には既に巨大な存在となっていた。秋草氏の分析に、特段の目新しさはなさそうな気がする。
記事の最後で秋場副編集長は以下のように述べている。
【日経ビジネスの記事】
リーマンショックの後、日立製作所やパナソニックなど日本の大手電機メーカーが相次ぎ巨額損失を計上し、大掛かりな構造転換を実施した。ITバブル崩壊後に富士通が手掛けたことと同じである。しかし一方は「快刀乱麻を断った」と高く評価され、21世紀を前に「Everything on the Internet」と喝破した人はヒールになった。「早過ぎる人」が唱える耳慣れない発言を受け止める包容力があれば、この国はもう少し変わるのかもしれない。合掌。
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「Everything on the Internet」と秋草氏が「喝破」した時期を秋場副編集長は「21世紀を前に」としか書いていない。これが「21世紀になる直前」だとしたら「早過ぎる人」とは言えない。そもそもITバブルが「21世紀を前に」崩壊しているのだ。90年代末には「インターネットが世界を大きく変える」と唱える人がたくさんいた。秋草氏がその1人だったとしても「喝破した」というほどの話ではない。
秋草氏が経営者として「先を見通す力」を持っていたとしたら、収益面でも結果を残せたはずだ。しかし「ITバブル崩壊後」に富士通は業績不振に陥ったようだ。だとしたら、経営者として本物の「先を見通す力」が秋草氏にあったのかどうか疑いたくはなる。
「富士通が2期連続で最終赤字を計上するという最も苦しい時期に、インタビューで『(業績悪化は)従業員が働かないから』と発言し、世間からすっかり『ヒール(悪役)』のレッテルを貼られてしまった」ことにも秋場副編集長は理解を示す。「『従業員が…』発言も、『働きが悪ければ業績が良くなるわけないじゃないか』と、当たり前のことを言ったつもりだったのだろう」。
このかばい方には無理がある。業績悪化について「従業員が働かないから」と述べたのであれば、「業績悪化の責任は働きの悪い従業員にある」と解釈すべきだ。一方「働きが悪ければ業績が良くなるわけないじゃない」になると、「従業員の働きが悪いと業績拡大は期待できない」との意味になる。これだと「業績が悪化した」とも、「従業員の働きが現実に悪い」とも言っていない。
秋草氏をかばうのは自由だが、こうした意味の違ってくる言い換えをしてあげるのは感心しない。このやり方を採用すれば、あらゆる問題発言を擁護できる。
秋場副編集長としては、「よく知っている経営者が亡くなったので、思い出話をしたい」だけでは記事として物足りないので、秋草氏を「先見性のある早過ぎた経営者」に仕立て上げようとしたのだろう。だが、それに成功しているとは思えない。
※記事の評価はD(問題あり)。秋場大輔副編集長への評価も暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。秋場副編集長については「『まず日経ビジネスより始めよ』秋場大輔副編集長へ助言」も参照してほしい。
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