2016年7月2日土曜日

日経 田村正之編集委員が勧める「積み立て投資」に異議

日本経済新聞の田村正之編集委員が2日の朝刊マネー&インベストメント面の「株安 積み立て投資増額  上昇時のリターンに期待」という記事で積み立て投資を取り上げている。日経はやたらと積み立て投資を勧めるが「自分でもやってみよう」という気にはなれない。メリットが乏しいからだ。田村編集委員お薦めの「修正積み立て投資」も例外ではない。

西鉄柳川駅(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です
積み立て投資については「大きな害はないが、メリットも乏しい」と覚えておくのが一番だろう。なぜそう言えるのか、記事に即して説明したい。

【日経の記事】

「相場下落時に怖くて売ってしまう行動を避けるには投資のルール化が有効だ」(コメジス氏)。例えば毎月一定額を買い続ける積み立て投資だ。価格が安いときに多くの数量を買うことで平均買いコストを抑えやすい。

この単純な定額積み立てよりさらに成績が上がりやすい方法がある。安値圏では通常よりも購入額を増やし、反対に高値圏では一部を売却して利益確定する。英国のEU離脱決定で株価が安値圏にある今こそ知っておきたい手法だ

例えば、ある月の株価終値が過去1年間の平均値より(1)10%以上低かったら2万円分を購入する(2)10%以上高かったら2万円分を売却する(3)プラスマイナス10%の範囲内であれば1万円分を購入する――という具合にルールを設定する。

これに基づき長期で修正積み立て投資をしたとして運用成績を試算したのがグラフBの上部だ。先進国全体の株価を示す指数に連動する投信を対象に、1990年から今年6月まで約26年間、投資を続けてきたと仮定している。

例えば株価が高値圏にあった2014年11月~15年5月は多くの月で2万円分を売却。今年は世界景気の減速懸念から株安となった2月と英EU離脱が決まった6月(24日時点で計算)に2万円分を買っている。

26年間、月々購入した金額と売却した金額を通算すると108万円になる。一方、足元の株価水準を反映して現在の資産額を評価すると362万円。株価が長期で右肩上がりだったのと「安値買いの高値売り」の両方の効果により、資産額が投資額に対して3倍強の水準に増えた計算だ。

比較対照として定額積み立てによる効果をグラフBの下に示した。投資額累計が同じ108万円になるよう逆算して月々の積立額を設定した。この場合、資産額は足元で251万円になる。2倍強に増えたとはいえ、同じ投資額に対するリターンとしては修正積み立ての方に分がある。

竹中正治・龍谷大学教授は修正積み立て投資を自らの資産運用の参考にするとともに人にも薦めている。価格が5年平均より30%以上低ければ増額購入し、30%以上高ければ売却するルールを目安にしている。

どれだけ価格が変動したら増額購入や売却をするか、それぞれの金額をいくらにするかというルールは投資対象や余裕資金額に応じて決めたい。リスクは増大するが、「一般に金額の倍率を高めた方が成績は上がりやすい」(竹中氏)。

修正積み立てが定額積み立てに比べて常に有利とは限らない。例えば数年にわたり株価が大幅に上がり続ける相場では、売りを出さない分だけ定額積み立ての方が成績が良くなる。

どちらにせよ積み立て投資は、価格が基調として右肩上がりでないと効果は出にくい。為替取引のように方向感が定まりにくい資産には向かない。世界株式で運用する投信のように、幅広く分散されて長期的に価格上昇が期待できる資産を選ぶのが基本だ。

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どちらにせよ積み立て投資は、価格が基調として右肩上がりでないと効果は出にくい」と田村編集委員は書いている。ゆえに「長期的に価格上昇が期待できる資産を選ぶのが基本」らしい。

ならば、「短期的には下がる場面もあるが、長期的には上昇していく」と見込める対象に投資する前提で考えてみよう。20年後に資金を回収するとして、以下のどちらを選ぶのが得策だと思えるだろうか。

(1)最初から100万円を投じる

(2)20年にわたって毎年5万円を投じる

長期的に上昇すると見込んでいるのであれば、最初から100万円を投じたくならないだろうか。(1)は100万円を20年間にわたって「長期的に上昇する対象」に投じられる。ところが(2)を選ぶと、せっかく有望な投資対象を見つけたのに、10年経った段階でも50万円しか投じていない。これは勿体ない。

田村編集委員が「単純な定額積み立てよりさらに成績が上がりやすい方法」として勧める「修正積み立て投資」も基本的には同じだ。助言を求められたら、やはり「大きな害はないが、メリットは乏しい」と答えたい。強いて言えば、「修正積み立て投資」よりも「単純な定額積み立て」の方が好ましいだろう。

記事で紹介した運用成績の比較では「投信のコストは考慮せず」となっている。これではきちんとした比較はできない。投信の売買にコストが発生する場合、「修正積み立て投資」は「単純な定額積み立て」よりもコストが膨らんでしまう。これは避けたい。手数料が多くかかる分を補って運用成績が上がると期待できる根拠はないはずだ。「単純な定額積み立てよりさらに成績が上がりやすい方法がある」は言い過ぎだろう。

そもそも「長期的に価格上昇が期待できる資産を選ぶのが基本」であれば、途中で機械的に利食いをする必要はない。持ち続ける方が合理的だ。

結局、積み立て投資を正当化できるのは以下のような場合だと思える。

(1)投資したい対象を見つけたが、投じるべきだと判断している金額をすぐには用意できない。少しずつ余裕資金が生まれてくるので、それに合わせて投資金額を増やしたい。

(2)「一番高いところで買ってしまった」といった後悔だけは避けたい。

この2つのどちらにも該当しない人が積み立て投資を考慮する必要はない。(1)の場合も、余裕資金ができたら「定額」にこだわらずに投資を増やして、早めに自分の考える投資金額に到達させる方が合理的だろう。


※記事の評価はC(平均的)。田村正之編集委員の評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。F評価については「ミスへの対応で問われる日経 田村正之編集委員の真価」で理由を述べている。

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