2015年9月8日火曜日

他の筆者も見習うべき永井洋一NQN編集委員の大胆さ 

8日の日経夕刊マーケット・投資2面に「マネー底流潮流~日本株『三段跳び』の条件」という記事を書いていた永井洋一NQN編集委員は評価できる。全体的に市場が弱気に傾く中で「水面下で日本株の『三段跳び』の条件が整いつつある」「日本株の相対的な優位性は増していると考えてよい」と大胆に自説を展開している。それなりに根拠を示しているし、文章力にも不安は感じない。
デンハーグ(オランダ)の「騎士の館」 ※写真と本文は無関係です

8月25日の同じコラムで「業績を支える円安が崩れれば、悲観ムードが高まる可能性もある」などと、当たり前過ぎる話を堂々と書いていた日経の田村正之編集委員などは、永井編集委員を見習ってほしい。

当該記事は以下のような構成になっている。


【日経の記事】

世界市場を襲った中国発の株価急落「チャイナショック」。日本株も急落したが、こうしたショックに耐える底力は着々と備わってきている。悲観論が台頭するなか、水面下で日本株の「三段跳び」の条件が整いつつある

2012年末を起点とした日本株の上昇局面は3つに分解できる。一段目は日銀の量的・質的緩和や政府の公共投資拡大に支えられた13年末まで。二段目は資産運用と企業統治の一体改革で上昇した15年6月まで。そして現在は三段目に移れるかどうかの正念場だ

世界の投資家心理を大きく揺り動かした中国株の急落だが、そのことが日本株の三段目の上げへの助走になる可能性がある。櫻川昌哉・慶応大学教授は「中国でバブルを起こした過剰資金は、日本の株式市場が信頼を維持し続ければ、日本に流入する可能性もある」と指摘する。

投資マネーの潮流変化の兆しは、自動車株の一部に見て取れる。中国の新車販売台数が前年同期を下回った今年4月から直近までに、独フォルクスワーゲン(VW)の株価は31%下げたのに対し、トヨタ自動車は14%安にとどまった。VWの総販売台数の4割が中国などアジア太平洋なのに対し、トヨタはアジアが2割弱と低いことが大きい。

足元で日本企業の「稼ぐ力」は強くなっている。財務省が1日発表した4~6月期の法人企業統計から算出した大企業全産業の売上高損益分岐点比率は前期比4.5ポイント低下の71.9%となり、1980年以降で最低となった。

この比率は低ければ低いほど、利益が出やすい収益構造であることを示す。その推移をグラフにしてひっくり返せば、稼ぐ力が急上昇したことが分かる。円安、原油安の恩恵は受けたが、企業自らの合理化努力も大きい。

欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は3日、量的緩和策の拡充を排除しない考えを示した。リーマン・ショック以降、世界の市場が波乱に陥ると、日米欧の中央銀行が過剰流動性を供給するという構図は変わらない。米利上げも「大幅な金利上昇は想定できず、資金供給が急減するとは考えにくい」(BNPパリバ証券の中空麻奈氏)。日銀による量的・質的金融緩和も出口が見えず、低金利が日本株を支える構図は変わらない。

日本企業の稼ぐ力が高まり、金融緩和の継続も追い風だ。日本株の相対的な優位性は増していると考えてよい。


強いて注文を付けると「日本株の相対的な優位性は増している」とする根拠が弱い。日本企業の損益分岐点比率が下がっているのは分かるが、海外企業はそれ以上に「稼ぐ力が急上昇」しているかもしれない。損益分岐点比率を海外と比較できたら、もっと説得力が増しただろう。

「そのためにトヨタとVWの比較を入れた」と永井編集委員は言いたくなるかもしれない。ただ、「VWの総販売台数の4割が中国などアジア太平洋なのに対し、トヨタはアジアが2割弱と低いことが大きい」という傾向が、日独企業全体に当てはまるわけではない。常識的に考えれば、ドイツ企業より日本企業の方が中国依存度は高いはずだ。

そもそもVWとトヨタの話は比較対象がそろっていない。VWのアジア太平洋での販売比率が4割ならば、トヨタのアジア太平洋での比率は7割前後になるだろう。VWの「アジア太平洋」には日本も含んでいるのではないか。比較するならば、トヨタも「日本を含むアジア太平洋」の比率で見るべきだ。記事の趣旨からすると、可能ならば中国だけ抜き出して両社を比較するのが望ましい。


※少し注文が長くなったが、記事への高い評価は変わらない。記事をB(優れている)と評価し、永井洋一NQN編集委員への評価も暫定でBとする。

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