記事の中身から見ていこう。
アムステルダム中央駅(オランダ) ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
ヘッジファンド業界で屈指の運用報酬を手にするレイ・ダリオ氏。利上げを見据える米連邦準備理事会(FRB)に対して量的緩和策の必要性を説くが、市場はその運用にも関心を高めている。
同氏が率いるブリッジウォーター・アソシエーツの8月の運用成績は、主力ファンドでマイナスになったと一部メディアが伝えた。注目されたのは、業界に先駆けて導入されたリスク・パリティ(均等)戦略を軸としたファンドだからだ。
この運用戦略は様々な資産に資金を配分し、相場変動の影響を抑える「リスク分散型」の一種。保有する金融資産ごとのリスク量を均等にするのが特徴だ。
仮に株と債券に1億円ずつ投資するとする。価格変動が大きい株の方がリスクも大きく、運用成績は株式相場に左右されやすくなる。リスク量を株と債券で均等にすれば、運用収益の安定が期待できる。保有比率はおのずと株より債券の方が大きくなるわけだ。
運用業界で広範に普及している戦略だが、あるプライベートバンクの営業担当者は「過去数カ月の運用成績は芳しくなかった」と顔を曇らせる。年前半までの安定した投資環境を背景に好調だったこの戦略に、陰りが見え始めていた。
きっかけはFRBの金融政策だ。6~7月から「近づく利上げを前に債券の持ち高を減らし始めた」(クレディ・アグリコルのデービッド・キーブル氏)という。利上げ開始の前後から価格変動率が上がるとの予想が多かった。リスク・パリティ型ファンドはリスク量の増大を見越し、株や債券の持ち高の整理を進めたようだ。
ここに想定外だった中国の人民元切り下げが加わった。動揺した世界市場では商品や通貨、株などが一斉に乱高下し、リスク量が一気に増大した。保有資産の圧縮に動くファンドの売りは変動率をさらに高め、一段の資産売却に追い込まれる負の連鎖に陥った。ヘッジファンド運用を助言するアクシア・ジャパンの鷲尾学社長は「リスク・パリティは債券と株などの資産の相関が崩れる市場に弱い」と言う。
疑問点は主に2つ。まず、リスク・パリティ型ファンドがリスク量の増大を見越して売ったのは「債券」なのか「株や債券」なのか。クレディ・アグリコルのデービッド・キーブル氏のコメントは「債券の持ち高を減らし始めた」となっているのに、その後に「株や債券の持ち高の整理を進めたようだ」と書いている。読んでいて混乱した。
もう1つは「世界市場では商品や通貨、株などが一斉に乱高下し、リスク量が一気に増大した」結果として、なぜ「一段の資産売却に追い込まれる」のかという点だ。仮に株と商品を半分ずつ持つ形のリスク・パリティ型ファンドであれば、株と商品のリスク量が増大したとしても、その増え方が同じならば保有比率を見直す必要はない。故に資産売却に追い込まれることもない。「一斉」の中に債券は含まないといった前提があるのかもしれないが、そうは書いていない。
そもそも、市場が乱高下する前の6~7月に株の持ち高を整理していたとすると、タイミングとしてはかなりいい。少なくとも相対的には良好な運用成績を上げていてもよさそうだ。しかし記事では「(リスク・パリティ型ファンドは)今夏の市場混乱で限界を露呈した」と断言している。実際そうなのだろうが、記事の説明では「なるほど」とは思えなかった。
※記事の評価はD(問題あり)、NQNニューヨークの岩切清司記者への評価も暫定でDとする。この件では日経に問い合わせもしている。回答が届くことを期待したい。
追記)結局、回答はなかった。
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