2015年9月17日木曜日

なぜ下落のみ分析? 日経 川崎健次長「スクランブル」の欠陥

やはり川崎健・証券部次長が書いた記事は評価できない。17日の日経朝刊マーケット総合1面の「スクランブル~相場変動に負のループ  米欧年金マネーが増幅」という記事では、冒頭で「過去1カ月の大きな株価の振幅を招いた原因は何か。ようやくそのメカニズムの一端が見えてきた」と書いたにもかかわらず、下落のメカニズムの解説に終始している。日経平均株価は9日には1300円を超える大幅な上げも記録している。「株価の振幅を招いた原因は何か」と問題提起したのならば、下げだけでなく戻りも大きくなるのはなぜかを分析すべきだ。
デンハーグ(オランダ)の平和宮 ※写真と本文は無関係です

記事の途中から最後までを見てみよう。


【日経の記事】

この揺れはいつ収まるのか。それを知るには、そもそも相場が振れた原因を知る必要がある。キーマンの一人に見解を聞いてみた

日本株で最大のシェアを握る野村証券で市場部門を統括する明渡則和執行役員だ。実際に誰が売買したのか最も見えているであろう一人の話だけに説得力がある。

発端は中国の人民元切り下げだ。米利上げ観測とギリシャ問題で世界のマネーが日本に流入していた矢先に中国の実態がそんなに悪いのかという驚きから、日本株へのフローが逆回転し始めた。

そしてCTA(商品投資顧問)などに代表される相場の方向性に順張りで動く投資家が登場する。一段の下落に賭けて先物を売っていった。それに追随せざるを得なかったのが、低金利下で少しでも高い利回りを求めてプットオプション(売る権利)を売っていた主体。プット売りの損失を抑えるために先物でヘッジ売りを膨らませていった。

そして金額ベースで相場下落の最大の要因となった新型のリスク管理を取り入れたファンドや米欧年金といった長期投資家によるロスカット(損切り)が発動する。「リスク・パリティ(均等)」などと呼ぶ運用手法で、株価の変動率が一定の水準を超えると自動的に売りを出す仕組みだ。

こうした海外投資家は東証株価指数(TOPIX)先物を使ってリスク量を機動的に変更する。それを反映するとされるゴールドマン・サックス証券のTOPIX先物手口を見ると、8月21日、25日、26日に同先物を5千枚前後と大量に売り越した。

そして最初の順張り投資家による新たな売りを招き込む……。さてこの負のループはどこで止まるのか

「かつては顧客の売りに証券会社の自己売買が買い向かったが、規制でそのリスクが取れなくなった」。欧州証券の日本株責任者は言う。別の大手証券幹部も「トレーディングで持てるリスク量は金融危機前の約10分の1」と明かす。証券会社の自己売買の存在感低下はグラフに一目瞭然だ

リスク・パリティなど下げに強いとされる手法が広まったのはリーマン・ショックが契機。証券会社の自己売買の身動きが取れなくなったのは過剰にまで厳しくなった金融規制が原因だ。リーマン危機から7年。米国がやっとそこからの出口を探り始める中、我々はなおその影響下にいる。


結局、「なぜ上げも大きくなるのか」には触れずに終わっている。売りの連鎖を招く「負のループ」があって、買い向かう主体が証券会社の自己売買部門も含めて不在であれば、相場は一方的な下落基調となるはずだ。しかし、そうはなっていない。川崎次長の分析は極めて不十分と言わざるを得ない。

記事には他にも問題を感じる。列挙してみよう。


◎「キーマン」のコメントなぜない?

キーマンの一人に見解を聞いてみた。日本株で最大のシェアを握る野村証券で市場部門を統括する明渡則和執行役員だ。実際に誰が売買したのか最も見えているであろう一人の話だけに説得力がある」と大げさに紹介した割に、明渡氏のコメントは一切出てこない。記事で述べている分析のどの部分が同氏の見方なのかも判然としない。

記事を読み進めると「かつては顧客の売りに証券会社の自己売買が買い向かったが、規制でそのリスクが取れなくなった」とのコメントが出てきて、「ようやく明渡氏の登場か」と思わせるが、コメントの主は「欧州証券の日本株責任者」だ。川崎次長は何を考えてこんな構成にしたのか。


◎ゴールドマンは売る一方?

記事では「ゴールドマン・サックス証券のTOPIX先物手口を見ると、8月21日、25日、26日に同先物を5千枚前後と大量に売り越した」と書いている。これは間違いではないが、記事に付いたグラフを見ると、27日以降はかなりの買い越しに転じている。なぜ、こちらの動きは無視するのか。両方を分析してこそ、「大きな株価の振幅を招いた原因」を分析できるはずだ。


◎「リーマン危機を境に」?

記事に付いている「リーマン危機を境に証券会社の自己売買部門のシェアが急低下」というグラフは、タイトルと実際の動きが合っていない。「日経平均先物」と「現物株」のうち、先物はリーマンショックより前の07年に急激に落ち込み、その後は緩やかな低下傾向だ。現物株は09年までほぼ横ばいで10年から13年にかけてシェアを落としている。これで「リーマン危機を境に」と言われても説得力はない。

ついでに言うと「リーマン危機」という表記が気になる。本文でもグラフでも「リーマン・ショック」と「リーマン危機」の両方を使っている。個人的には、「リーマン・ショック」に統一してほしい。そもそも「リーマン危機」ならば、カタカナ表記する場合は「リーマン・クライシス」ではないのか。


※記事の評価はD(問題あり)。川崎健次長の評価もDを維持する。同次長に関しては、「川崎健次長の重き罪 日経『会計問題、身構える市場』」も参照してほしい。

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