2019年10月21日月曜日

校條浩氏の「WeWork」解説が奇妙な週刊ダイヤモンド「シリコンバレーの流儀」

校條浩氏について詳しい訳ではないが、週刊ダイヤモンド10月26日号の「シリコンバレーの流儀~WeWorkの失敗を笑うな」という記事を読む限り、信用すべき書き手とは思えない。「『WeWork』(運営会社名はThe We Company)の米ナスダック市場への上場延期」に関する記述で引っかかった部分を見ていこう。
瑞鳳殿(仙台市)※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

実はWeWorkの570億ドルという破格の企業価値は、SBGが設定したものだった。この「高過ぎる評価額」での資本注入が上場や、他の投資家には株式売却などの「エグジット戦略」を難しくし、結果的にWeWorkのような失態を演出してしまうことがあるのだ。

米国のベンチャーキャピタル(VC)業界ではSVFの評判はすこぶる悪い。WeWorkに投資していたSVF以外の投資家にとっては、SVFの「高過ぎる評価額」によって持ち株が割高になってしまい、他の投資家などへの売却が難しくなり、上場を待つしかなくなる。

かといって放っておくこともできない。WeWorkは赤字が続くため、投資や融資で支援し続けなければ大損してしまうのだ。そのため、さらに資本注入を強いられることになる。WeWorkの場合は、JPモルガンが追加出資や融資をさせられる状況になった


◎安値で売る自由はあるのでは?

よく分からないのは「SVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)の『高過ぎる評価額』によって持ち株が割高になってしまい、他の投資家などへの売却が難しくなり、上場を待つしかなくなる」という説明だ。

高過ぎる評価額」と同じか、それを上回る株価での「売却」しか事実上できないとの前提を感じるが、常識的に考えればいくらで売ろうが株主の自由だ。

仮にA社が1株100ドルで「WeWork」に出資し、現在の適正評価額が200ドルだとしよう。「SVF」が1000ドルと無茶な評価をして出資したとしても、A社はそこに縛られる必要はない。200ドルで売却すれば利益を得て「WeWork」との縁を切れる。早く逃げたいと思えば、100ドルを下回る株価で損切りする手もある。

そこで「SVF」の「高過ぎる評価額」が障害になるとは思えない。むしろ「SVFが1000ドルと評価している株を安く買えますよ」とアピールできるのではないか。

別の何らかの理由で「他の投資家などへの売却が難しくなり、上場を待つしかなくなる」可能性はあるが、記事では「SVFの『高過ぎる評価額』によって持ち株が割高」になったこと以外に「上場を待つしかなくなる」理由は見当たらない。

さらに続きを見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

これは「ストックホルム症候群」の心理だといえる。ストックホルム症候群とは、誘拐事件や監禁事件などの犯罪被害者が生存戦略として犯人との間に心理的なつながりを築くことをいう。事件に巻き込まれて人質となり死ぬかもしれないと覚悟すると、被害者は犯人の小さな親切に対して感謝の念が生じ、犯人に対して協力的になるという。これは、自己防衛本能からくる精神状態と理解されている。

WeWorkの場合、SVFが高値で大型の出資をしてきたことにより、今までの投資家が「監禁」状態になったのだ。既存株主は「自己防衛」のために「誘拐」した人物(=大株主であるSVF)に協力(=追加資金注入)して、監禁状態から抜け出る(=上場)しかない。



◎ソフトバンクに「感謝」してる?

これは『ストックホルム症候群』の心理だといえる」と校條氏は言うが、同意できない。「事件に巻き込まれて人質となり死ぬかもしれないと覚悟すると、被害者は犯人の小さな親切に対して感謝の念が生じ、犯人に対して協力的になる」状況と「WeWork」の件はそんなに似ているのか。

WeWork」が破綻しても「JPモルガン」がその影響で潰れる可能性は小さそうな気もするが、これに関しては「死ぬかもしれない」状況だと受け入れよう。問題は「犯人の小さな親切に対して感謝の念が生じ、犯人に対して協力的」になっているかどうかだ。

記事を読む限り「JPモルガン」が「SVF」に「感謝の念」を抱いていると取れる記述はない。「SVF」による「小さな親切」も見当たらない。

「SVFのせいでとんでもないことになった。ふざけるなと言いたいが、今は仲間割れするより協力して『WeWork』を助けた方が得策かな」と考えて「JPモルガン」は「追加出資や融資」に応じたのかもしれない。であれば「ストックホルム症候群」とは言えない。

やはりこの記事は問題ありだ。校條氏は信頼に値する書き手ではない--。とりあえず、そう思っておいてよいだろう。


※今回取り上げた記事「シリコンバレーの流儀~WeWorkの失敗を笑うな
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/27842


※記事の評価はD(問題あり)。校條浩氏への評価も暫定でDとする。

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