2019年10月21日月曜日

ダイナミックプライシングの始まりは「80年代」と日経は言うが…

需給や繁閑をみて価格を変動させる『ダイナミックプライシング』が小売業に広がってきた」と日本経済新聞が21日の朝刊1面トップで伝えている。これまで「小売業」に「ダイナミックプライシング」は広がっていなかったと日経は見ているのだろう。しかし、そうは思えない。
金華山への定期船(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係

ダイナミックプライシング 小売店 瞬時に価格変更 需給反映し上げ下げ~ノジマ・ビックが導入」という記事の中身を見ながら問題点を指摘したい。

【日経の記事】

需給や繁閑をみて価格を変動させる「ダイナミックプライシング」が小売業に広がってきた。家電量販大手のノジマはこのほど全184店で商品表示をデジタル化した「電子棚札(総合・経済面きょうのことば)」を導入。ビックカメラも2020年度中に全店で対応する。企業は精緻なデータ分析をもとに柔軟に値段を上げ下げし、需要を取り込む狙いだ。消費者にとっては価格面で選択の幅が広がるが、価格が高い時に買う可能性もあり見極めが必要になる。

ダイナミックプライシングは米航空大手が1980年代から本格導入を始めた。ホテルや航空券のように供給量に制限のあるサービス業で売れ残りを防ぐ手段として浸透し、近年では小売業でも米アマゾン・ドット・コムなどネット通販企業が活用している。

デジタル技術の進展に伴い、商品を外部から仕入れて販売する従来型の小売業でも、きめ細かく価格設定できる段階に入ってきた。


◎昔から当たり前にあるような…

この記事には用語解説が付いている。そこでは「ダイナミックプライシング」を「販売状況や季節要因によって変わる需給に合わせ、同じ商品・サービスの値付けを柔軟に上下させること」と定義している。これに従って話を進めていこう。

ダイナミックプライシングは米航空大手が1980年代から本格導入を始めた」と書いてあるので、それ以前にはほとんどなかったと筆者は認識しているようだ。しかし「販売状況や季節要因によって変わる需給に合わせ、同じ商品・サービスの値付けを柔軟に上下させること」は昔から当たり前にあったはずだ。

昭和の八百屋や魚屋でも「販売状況や季節要因」に応じて「値付けを柔軟に上下させ」ていた。今のスーパーで見られる閉店前の値引き販売も一種の「ダイナミックプライシング」だ。衣料品などでも時間を限ったタイムセールは珍しくない。「デジタル技術の進展」を待つまでもなく、「従来型の小売業」でも「値付けを柔軟に上下させ」るやり方は普及している。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

ノジマは18日、プリペイドカードなど一部を除くほぼ全ての商品の値付けを本部からの遠隔操作で変更できるようにした。大型店であれば1万種類を超える商品の値札を電子化。商品の売れ筋や在庫状況、競合店やネット通販の価格などを総合的に分析し、料金に反映させる。

ビックカメラは一部店舗で先行して、ネット通販の商品評価を電子棚札で表示し始めた。購入者の評価を5段階で毎日更新するほか、スマートフォンをかざすと購入者の具体的な口コミも見られるなど、デジタルと店舗の融合を図る。


◎無関係ではないが…

「『電子棚札』の導入=『ダイナミックプライシング』の導入」との前提で記事を書いているが、既に見てきたように直接の関係はない。「電子棚札」がなくても「同じ商品・サービスの値付けを柔軟に上下させること」はできる。「ノジマ・ビックが導入」と言うならば、従来は両社の「値付け」が硬直的だったと示す必要がある。

電子棚札」を導入すれば「ダイナミックプライシング」をやりやすくなるかもしれないが、1つのツールに過ぎない。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

ダイナミックプライシングでは、価格は様々な要因で変動することになる。例えば家電量販店では、1日に10個売れていた商品が2個に減ったり、在庫が積み上がったりすると販売テコ入れへ瞬時に値段を下げることが想定される。逆に気温などのデータを基に地域ごとに売れ筋を予測し、消費者離れが起きない範囲で値上げする可能性もある。



◎大差ないような…

ダイナミックプライシングでは、価格は様々な要因で変動することになる」と書いてあると「ダイナミックプライシングでなければ、価格は様々な要因では変動しない」ような気がするが、大きな違いはない。「柔軟に上下」させる場合でも、たまに「上下」させる場合でも「価格は様々な要因で変動する」。「ダイナミックプライシング」を特別視する理由はない。

デジタル技術の進展」に伴い「従来型の小売業」でも「ダイナミックプライシング」が広がっていると記事で打ち出すならば「ダイナミックプライシング」の定義を変えないと苦しいだろう。

例えば「ダイナミックプライシング需給に合わせ、同じ商品・サービスの値付けを1日に10回以上の頻度で上下させること」と定義すれば「従来型の小売業」にはほとんど見られなかった動きと言えるかもしれない。


※今回取り上げた記事「ダイナミックプライシング 小売店 瞬時に価格変更 受給反映し上げ下げ~ノジマ・ビックが導入
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191021&ng=DGKKZO51211800Q9A021C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

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