2019年10月6日日曜日

「未公開市場の膨張」はそんなに問題? 日経1面「チャートは語る」

6日の日本経済新聞朝刊1面トップの「チャートは語る~『上場で成長』今は昔 未公開株にマネー 揺らぐ市場機能」という記事は悪い出来ではない。ただ「揺らぐ市場機能」に関する説明は説得力に欠けた。その部分を見ていく。
渡月橋(宮城県松島町)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

特定のプロしかいない未公開市場の膨張は、資源配分をゆがめかねない。一人ひとりの目利き力は優れても「株主が少なく過剰評価になりやすい」(Hijojoパートナーズ)。カネ余りのなかで資金の出し手よりも創業者の立場が強まり、経営は野放図になりがちだ。企業が生む富も特定の人間に集中しかねず、「個人が良い投資機会を得られない」(米証券取引委員会=SECのクレイトン委員長)と問題視する声がある。

音楽配信スポティファイ・テクノロジーのように上場時に新株を発行せず、株主に売却機会を与えるために上場する例も出てきた。公開市場が一部投資家の利益確定の場に成り下がれば、資本主義は揺らぎかねない


◎「過剰評価」になり得る?

まず「一人ひとりの目利き力は優れても『株主が少なく過剰評価になりやすい』(Hijojoパートナーズ)」という説明が謎だ。完璧な「目利き力」を持つ少数の投資家が上場前のA社の株主になるとしよう。この場合「過剰評価になりやすい」だろうか。

十分な「目利き力」を持つ投資家は適正価格を正確に把握できるので「過剰評価」は起きようがない。「株主が少なく過剰評価になりやすい」のならば「一人ひとりの目利き」は大したことがないと見るべきだ。

カネ余りのなかで資金の出し手よりも創業者の立場が強まり、経営は野放図になりがちだ」との解説にも同意できない。ここでは上場する場合と比べて「経営は野放図になりがち」かどうかを考えてみたい。

未公開市場」での資金調達で「創業者」の出資比率は20%に下がり、残りを4社の大株主が20%分ずつ保有するとしよう。上場した場合、大株主4社の出資比率はそろって1%に減り、残りは個人投資家などが幅広く持つとしよう。「創業者」の出資比率はやはり20%だ。

この場合、「未公開市場」での資金調達を選んだ方が株主からの圧力は強くなる可能性が高い。3社が合意すれば「創業者」を解任できる。同じことを上場後にやろうとすれば、多くの株主の同意が必要になる。

創業者の立場」が強いままで「経営」が「野放図」になる状況もあり得るが、「未公開市場」での資金調達だと「経営は野放図になりがち」だと言い切れるのかは疑問だ。

音楽配信スポティファイ・テクノロジーのように上場時に新株を発行せず、株主に売却機会を与えるために上場する例も出てきた。公開市場が一部投資家の利益確定の場に成り下がれば、資本主義は揺らぎかねない」との結論部分も納得できない。

公開市場」で資金調達するのが本来の姿だと筆者の山下晃記者は考えているのだろう。だが、増資は「未公開市場」で済ませて「公開市場」では発行済みの株式を売買するだけになったとしても、それで企業の増資のニーズに対応できるのならば問題はないはずだ。

資本主義は揺らぎかねない」とまで心配しているが、そもそも「公開市場が一部投資家の利益確定の場に成り下が」るとの懸念が理解できない。「一部投資家の利益確定の場」になるのは悪いことではない。

上場時に「まだまだ割安だ」と思う投資家は買いを入れてくるし、そうでなければ株価が下がり「一部投資家の利益確定」も難しくなる。それだけの話だ。

過剰評価」が誰の目にも明らかになれば「公開市場」での上場自体が難しくなる。そうした事態は既に起きている。今回の記事でも「シェアオフィス『ウィーワーク』を運営する米ウィーカンパニーは9月末、上場申請を撤回した。年初に470億ドル(約5兆円)と評価された企業価値は、初期の資金調達時の485倍だった。これ以上の伸びは見込めないと、ウィー株の需要は乏しかった」と書いていたではないか。

資本主義」がきちんと機能しているから「ウィーカンパニー」は「上場申請を撤回した」のではないか。「資本主義は揺らぎかねない」と心配すべき状況にあるとは思えないが…。


※今回取り上げた記事「チャートは語る~『上場で成長』今は昔 未公開株にマネー 揺らぐ市場機能
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191006&ng=DGKKZO50575800T01C19A0MM8000


※記事の評価はC(平均的)。山下晃記者への評価はD(問題あり)からCへ引き上げる。山下記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

説明が不可解 日経「米ファンド、サムスンに会社分割提案」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_7.html

ご都合主義的な説明目立つ日経1面「ヘッジファンドの黄昏」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post.html

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