2019年10月3日木曜日

日経「Deep Insight」に見える丸谷浩史 政治部長の実力不足

署名入りのコラムを担当させるならば、訴えたいことがあって、書き手としての技術もしっかりした人にしてほしい。3日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~『ポスト安倍』の条件とは」という記事を読むと、丸谷浩史 政治部長がその「条件」を満たしていないのが分かる。
支倉常長像(宮城県石巻市月の浦)※写真と本文は無関係

記事を見ながら問題点を指摘していく。

【日経の記事】

安倍晋三首相の自民党総裁としての任期が10月で2年を切った。先の内閣改造・自民党役員人事で安倍氏は、総裁候補を政府と党の要路に配した。どの役職の、誰が「ポスト安倍」の最短距離にいるのか、永田町と霞が関は喧(かまびす)しい。よく口の端に上るのが、かつて最大派閥の領袖として君臨した田中角栄氏と竹下登氏が「総理総裁」の条件としてつくりあげたモデルである。

田中氏が示した2つの条件は「党三役のうち幹事長を含む2つ、蔵相、通産相、外相のうち2つ」とされる。日本が議院内閣制のモデルとした英国ではウィンストン・チャーチル氏が蔵相、現職のボリス・ジョンソン氏が外相を務めた。国の基本政策に習熟するハードルを越えなければ、指導者たり得ないとの含意だろう。

竹下氏は重要閣僚は何点、党三役は何点……と1回ごとにウエートをつけて点数化し、特に幹事長を重視した党首が首相となる議院内閣制では、選挙や国会対策などの党務全般に通じることが欠かせないとの考え方だ。



◎「田中・竹下モデル」とは?

この記事では「田中・竹下モデル」がキーワードになる。しかし、これがどんな「モデル」なのかよく分からない。

田中モデル」ならば分かる。「党三役のうち幹事長を含む2つ、蔵相、通産相、外相のうち2つ」を経験していることが「総理総裁」の「条件」となるのだろう。しかし「田中・竹下モデル」は「田中角栄氏と竹下登氏が『総理総裁』の条件としてつくりあげたモデル」だ。

竹下氏は重要閣僚は何点、党三役は何点……と1回ごとにウエートをつけて点数化し、特に幹事長を重視した」とは書いているが、これで「田中モデル」と「田中・竹下モデル」にどう違いが出るのか判断が難しい。

さらに言えば「党首が首相となる議院内閣制」という説明も不正確だ。「議院内閣制」とは「内閣が議会に対して責任を負い、その存立が議会の信任に依存する制度」(ブリタニカ国際大百科事典)であり「党首が首相となる」必要はない。

議院内閣制」のドイツではメルケル首相が首相職にとどまったまま党首を辞めている。日本でも同じようなことは起こり得る。丸谷部長も知らないはずはないが…。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

今回、最も注目されたのが幹事長だったのは、この考え方に沿う。田中氏は幹事長として差配した選挙を通じて勢力を拡大し、首相の座をつかんだ。政調会長に留任した岸田文雄氏とその周辺が幹事長就任を期待した背景には、この「田中神話」がある。

「田中・竹下モデル」は経済が高度成長で、中選挙区で派閥が競い、長く東西冷戦が続いた時代だからこそ説得力があった。幹事長として総裁選に向けた兵を養い、蔵相として利益の分配ににらみをきかせる。田中氏と竹下氏が蔵相と幹事長を経験して首相の座を射止めたことが、それを象徴する


◎「高度成長」は終わっているが…

高度成長」は1973年に終わったとされる。「田中氏」はともかく「竹下氏が蔵相と幹事長を経験して首相の座を射止めた」時代は「高度成長」期ではない。丸谷部長は「高度成長」期を誤解している可能性が高い。

さらに記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

本来、小選挙区制では野党第1党の党首が「ポスト安倍」の一番手となる。自民党で「田中・竹下モデル」が復活したのは、野党の低迷と表裏の関係にある。派閥の合従連衡による次期総裁レースが公然と語られるのも、自民党総裁イコール首相が前提になっているからにほかならない。

「田中・竹下モデル」が鳴りを潜めた時期もある。

2001年、3度目の総裁選で勝利した小泉純一郎氏に党三役、外相や蔵相の経験はなかった。田中・竹下モデルでいえば「総理総裁の資格なし」となる。ところが小泉氏は高い支持率を維持し、5年にわたる長期政権を築いた。変人と呼ばれたキャラクターで、党内が「これは小泉氏だけの特異現象」とひとまず納得した事情も大きかった。

だが小泉的なものは一過性ではなく、属人的でもない。執行部・総裁への権限集中と、首相と官房長官を中心とする官邸主導は、もともと派閥の機能を弱める目的だった小選挙区制と、省庁再編が導いた当然の帰結でもある。無派閥で党三役の経験がない菅義偉官房長官が「ポスト安倍」にあがるのは、平成から令和への発表効果だけではない。

今回の改造内閣では外相から防衛相に横滑りした河野太郎氏、竹下派の加藤勝信厚生労働相も「ポスト安倍」に数えられる。加藤氏は厚労相再登板で、厚相経験2度の小泉氏に似る。純一郎氏の次男、38歳で初入閣した小泉進次郎環境相もいる。フランス大統領の現職、エマニュエル・マクロン氏は39歳で就任している。

変わらずに重要性が増したものもある。小渕恵三氏は1997年、官房長官の退任から8年ぶりとなる入閣にあたって「冷戦が終わった今こそ外交の時代」と外相を熱望した。念願をかなえた翌98年には首相となった。

今回、外相に就いた茂木敏充氏は経済財政担当相として日米貿易交渉を最終合意に導いた。70年代には田中角栄氏が繊維交渉を、90年代は橋本龍太郎氏が自動車交渉をそれぞれ決着させた。日米同盟が外交・安全保障政策の基軸である日本にとって、米国との経済摩擦を軟着陸させる重要性は、いまも昔も変わらない。


◎「田中・竹下モデル」が復活してる?

自民党で『田中・竹下モデル』が復活した」と丸谷部長は言い切る。しかし、そうは思えない。ここでは「田中・竹下モデル=党三役のうち幹事長を含む2つ、さらに財務相、経済産業相、外相のうち2つを経験していることを条件に自民党総裁が生まれるモデル」との前提で考えてみよう。
宮城縣護國神社(仙台市)※写真と本文は無関係です

今の「自民党」でこの「条件」を満たす人が「総裁」候補として注目を浴び、「条件」を満たさない人が脱落しつつあるのならば「復活」と言える。記事では、顔写真付きで6人の「総裁」候補をこれまでの役職と共に紹介している。しかし「田中・竹下モデル」の「条件」を満たす人が1人もいない。

田中・竹下モデル」の「条件」に最も近い人が有力で、そうでない人が脱落しつつあるとの可能性も考えたが、記事にはそうした説明もない。6人の中で「条件」に最も近いのは「外相に就いた茂木敏充氏」だが、丸谷部長は「茂木敏充氏」が最有力とは書いていない。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

安倍氏は幹事長と官房長官だけを経験して首相となった。この2つのポストでいえば、当時無役だった小渕氏の還暦祝いの席で、竹下氏が「私は官房長官をやってから幹事長になった。小渕君もそうだ。私が首相になったのは63歳で、小渕君にはあと3年ある」と励ましたことがある。安倍氏は「田中・竹下モデル」が条件とする党と内閣の要職を経験していたともいえる。



◎「当時」の使い方が…

安倍氏は幹事長と官房長官だけを経験して首相となった。この2つのポストでいえば、当時無役だった小渕氏の還暦祝いの席で~」と書くと「当時=安倍氏の首相就任時」と理解したくなる。しかし、その時に「小渕氏」は生存していない。

この手の不親切かつ不正確な書き方ができるところに丸谷部長の書き手としての技量不足を感じる。

記事の結論部分を見ていこう。

【日経の記事】

1期目は短命に終わり、2度目の総裁選も議員票では石原伸晃氏に、地方票では石破茂氏に後れをとり、決選投票で逆転した。そして吉田茂元首相以来の再登板を果たし、11月には桂太郎を抜いて憲政史上、最長の政権担当者となる。「田中・竹下モデル」からはほど遠い勝利が、超長期政権につながっている。

安倍氏の強みは、この両面性にある。父・晋太郎氏の秘書を務め、最後の中選挙区選挙で初当選し、小選挙区時代にキャリアを重ねた。ネット世論にも敏感で、デジタルツールで積極的に発信する。保守派の顔で、リベラルな政策も実行する。古い派閥政治と、官邸主導、新しいデジタル政治の双方を知る「ハイブリッド型」だ。

安倍氏自身に4選や任期延長の雰囲気はうかがえず、恐らくもう一度、最後の人事を手がけるだろう。次期総裁は派閥連携の「田中・竹下モデル」型か新しいタイプか。「ポスト安倍」は自民党だけでなく日本政治の今後をも占う



◎訴えたいことがないのなら…

結局「『ポスト安倍』の条件とは」に答えを出さず「どうなるんでしょうね」的な締め方をしている。

『田中・竹下モデル』型か新しいタイプか」については「田中・竹下モデル」でないのは明確だ。「田中・竹下モデル」の「条件」を満たす人物がそもそもいない。

丸谷部長も書いてるうちに気付いたのかもしれない。最後になって「党三役のうち幹事長を含む2つ、蔵相、通産相、外相のうち2つ」といった「条件」から離れて「派閥連携の『田中・竹下モデル』型」と説明を変えている。だったら「田中・竹下モデル」は「派閥連携」に関する「条件」でないと苦しい。

Deep Insight」を任されたので、色々と頭を捻ってを紙面を埋めたのだとは思う。だが、訴えたいことがないのは致命的だ。説明も上手くない。「Deep Insight」は他の書き手に任せて丸谷部長は管理職としての役割に専念する。それが最良の選択ではないか。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『ポスト安倍』の条件とは
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191003&ng=DGKKZO50506520S9A001C1TCT000


※記事の評価はD(問題あり)。丸谷浩史政治部長への評価はDで確定とする。丸谷部長に関しては以下の投稿も参照してほしい。
 
丸谷浩史政治部長の解説に難あり 日経「日本の針路決まる3年」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_88.html

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