2019年10月29日火曜日

日経記者に読んでほしい藤田勉・一橋大学特任教授の「親子上場肯定論」

企業経営や株式市場を取材する日本経済新聞の記者に読んでほしい記事が、週刊エコノミスト11月5日号に載っていた。「親子上場は会社の成長を促す 事業創造の支援に期待」というその記事では、一橋大学特任教授の藤田勉氏が「親子上場肯定論」を展開している。親子上場に否定的な記事が目立つ日経の論調を変えろとは言わない。ただ、藤田氏の「親子上場肯定論」に対して有効な反論ができるかどうかは、よく考えてほしい。
由布岳(大分県由布市)※写真と本文は無関係です

記事の一部を見ていこう。

【エコノミストの記事】

ZOZOがZホールディングス(旧ヤフー、以下、ZHD)に買収されることになった。これによって、ソフトバンクグループ(SBG)→ソフトバンク→ZHD→ZOZOと親子上場のチェーンが出来上がった。日本では、トヨタ自動車、NTT、SBG、ソニーなど時価総額上位企業の多くが親子上場しており、2019年9月末で東証上場企業のうち親会社を有する会社は367社、さらに上場親会社は305社ある。

何かと批判の多い親子上場だが、筆者は日本ではベンチャー企業が成長しにくいため、親子上場のインキュベーション(事業創業支援)機能を積極的に評価している。親子上場批判論は数多いので、以下、親子上場肯定論を中心に議論を進める。

日本ほど活発でないが、親子上場は大陸欧州や南米を中心に海外でも広く存在する。海外の証券取引所で、親子上場を禁止している例はない。


◎日経の社説との食い違い

日経は8月4日付の「看過できなくなってきた親子上場の弊害」という社説で「企業も日本特有の親子上場の数を減らす努力をすべきだ」と訴えた上で「欧米では親子上場は極めてまれだ。非中核事業の切り離しで親子上場になっても、数年後に完全売却し解消するのが一般的だ」と説明している。

日本ほど活発でないが、親子上場は大陸欧州や南米を中心に海外でも広く存在する」という藤田氏の解説とは整合しない。日経を信じれば「大陸欧州」でも「親子上場は極めてまれ」なはずだ。どちらが正しいのか判断できるデータは持ち合わせていないが、藤田氏の説明が正しいのならば、日経にとっては「親子上場」を否定する材料の1つが間違っていたことになる。

親子上場のデメリット」に関する藤田氏の見解を見ていこう。


【エコノミストの記事】

一方、親子上場のデメリットとして、(1)子会社が親会社にとって不要な人材の受け皿になる、(2)親会社の意向で不利な条件の商取引を子会社が強いられる、(3)少数株主を軽視した経営判断や資本取引が行われる、などが考えられる。親子上場はガバナンス上問題があるので、中には「禁止すべき」との声がある。

日本のコーポレートガバナンスの議論として、「社外取締役を増やすとガバナンスが良くなる」という見方がある。しかし、日本郵政や関西電力の例を見ても、立派な社外取締役が複数いるからといってガバナンスが良くなるとは限らない。

要は、社外取締役が効果を発揮する場合もあるし、効果を発揮しない場合もある、ということである。

親子上場も同様であり、良い親子上場と悪い親子上場がある。例えば、トヨタは、親子上場、株式持ち合いを駆使しているが、時価総額、利益とも日本最大であり、特段、ガバナンス上の問題があるようには見えない。

つまり、個々の企業次第なのである。基本的に、情報開示が十分であれば投資は自己責任である。親子上場が好ましくないと考える投資家はそれらの企業に投資しないという選択肢がある

結論として、規制を最小にして、市場原理で不適切な親子上場を淘汰(とうた)し、好ましい親子上場が続々と誕生するような制度設計が必要である。

また、親子上場の適切性を見抜くことこそ、プロの投資家に期待されることである。


◎「おっしゃる通り」と思えるが…

藤田氏の主張に基本的には賛成だ。藤田氏のように「親子上場」を前向きには評価しないが、「情報開示が十分であれば」これと言って問題は感じない。

以前から訴えていることだが、「親子上場」に「ガバナンス上の問題」があれば、それは株価のディスカウントという形で反映されるはずだ。それを過小評価だと判断する投資家がいれば買いが入る。

藤田氏が言うように「親子上場が好ましくないと考える投資家はそれらの企業に投資しないという選択肢がある」。「情報開示」をしっかりさせて、後は投資家の判断に任せれば済む。

日経の記者(論説委員を含む)が「親子上場」否定論を展開する時は「なぜ投資家の判断に任せてはダメなのか」への答えを出してほしい。


※今回取り上げた記事「親子上場は会社の成長を促す 事業創造の支援に期待
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20191105/se1/00m/020/010000c


※記事の評価はB(優れている)。藤田勉氏への評価も暫定でBとする。「親子上場」に関しては以下の投稿も参照してほしい。

親子上場ってそんなに問題? 日経「株式公開 緩むルール」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_19.html

KNTの「親子上場」を批判するFACTAに異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/kntfacta.html

「親子上場」否定論に説得力欠く日経「大機小機」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_77.html

ヤフーとアスクルの件で「親子上場の問題点浮き彫り」という日経に異議
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_24.html

ヤフー・アスクルの件を「親子上場」の問題と捉える日経の無理筋
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post.html

「弊害」多いのに「親子上場の禁止」は求めない日経社説の謎
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_5.html

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