2017年5月22日月曜日

FACTA「半島有事 難民Xデー」の記事が非現実的すぎる大西康之氏

ジャーナリストの大西康之氏がFACTA6月号に「半島有事『難民Xデー』に奔走する男」という苦しい記事を書いていた。「北朝鮮から200万人が日本海側に流れ着いたらどうするのか。難民支援のプロが唱える『最良の解決策』」と言うものの、その内容があまりに非現実的で、とても「最良の解決策」とは思えない。
関埼灯台(大分市)※写真と本文は無関係です

記事中で「人道支援NPO、ピースウィンズ・ジャパン代表の大西健丞(49)」が提唱する「解決策」の中身を見ていこう。

【FACTAの記事】

大西は20年を超える難民支援の経験から「災害時の緊急対応のカギはNGOと企業や病院、自治体などとのセクターを超えた連携にある」と考えている。この考えを実現するため2000年には「ジャパン・プラットフォーム」を立ち上げた。

半島有事の際にもNGO、政府、企業が緊密に連携し、北朝鮮国内で難民を保護する体制を作るのが、最も現実的な解だと大西は考えている。大西が安や朴と話し合った構想は次のようなものだ。

ポイントは日本から仮設住宅、食料、医薬品といった支援物資をいかに早く大量に運ぶかだ。難民が北朝鮮から溢れ出す前に、北朝鮮に難民キャンプを作ってしまうのである。そのためには民間企業と政府の協力が必要だ。

まず日本航空、全日本空輸、大韓航空、アシアナ航空といった日韓の航空会社から協力を取り付け、空いている機体をかき集める。日本の地方自治体(特に北朝鮮からの難民流入の可能性が高い日本海側の自治体)の協力を得て、地方空港の周囲に仮設住宅の資材や食料をストックしておく。

東日本大震災ではプレハブの仮設住宅が5万戸以上建てられた。復興が進むにつれて仮設住宅を出る人が増えており、用済みになった仮設住宅のストックは数万戸単位であるはずだ。何年も暮らすと考えれば快適ではないが、ブルーシートのテントよりははるかに機能が高いはずだ。日本の地方空港と韓国の空港の間を日韓の民間機が行き来して資材や物資をピストン輸送し、NGOは医師やボランティアを集めて即席の難民キャンプに送り込む。そのキャンプをPKOが警護すれば、当座の安全は確保できる

「一番怖いのは無計画に大量の難民が溢れ出すこと。受け入れ側も難しい対応を迫られるし、逃げ出す過程で多くの命が失われます。日韓のNGO、政府、民間企業があらかじめ備えておけば、こうした最悪の事態は避けられる」と、大西は言う。


◎あまりに非現実的な「最良の解決策」

これを読んで「最良の解決策」だと思えただろうか。まず、「半島有事」が具体的にどういうものか謎だ。「日本の地方空港と韓国の空港の間を日韓の民間機が行き来して資材や物資をピストン輸送」するのだから、韓国は安全だと想定しているだろう。だが、「半島有事」なのに韓国は安全とする前提には無理がある。
夜明駅(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

さらに「北朝鮮に難民キャンプを作ってしまう」というのが苦しい。「半島有事」の時に現在の北朝鮮政府は崩壊しているとの前提だろうか。存続している場合、「日韓で協力して北朝鮮に難民キャンプを作ります。そのキャンプはPKOで警護します」と申し出て、北朝鮮政府が「では、よろしくお願いします」と言ってくるとは考えにくい。

その場合、勝手に北朝鮮領内に入り込んで難民キャンプを作り、北朝鮮軍が攻めてこないようにPKOで守るのか。そうなると一種の侵略行為だ。

そもそも、北朝鮮から大量の難民があふれ出てくるのは、北朝鮮に留まれば命が危うい状況に多くの人が直面するからだろう。内戦が激化した場合などが考えられる。そんな時に「北朝鮮に難民キャンプを作ってしまう」という対策が可能だと本気で考えているとしたら怖い。

筆者の大西康之氏は大西健丞氏の案にすっかり感心したようで、「日韓が力を合わせて北朝鮮の中に安全なキャンプができれば、人々は無理に国境を越えて難民になろうとは思わない。避難民を北朝鮮内にとどめることが、日本側から見た難民問題の最良の解決策になるというわけだ」と結論付けている。

本当にそう信じられるのならば、ある意味で羨ましい。だが、記事の書き手には向いていない。まともな記事を書く気があるのならば、取材相手の言うことをもう少し疑った方がいい。

もちろん、これは筆者が大西健丞氏の案を正確に伝えている前提での話だ。実際に難民支援を手掛けている人が、これほど非現実的な「解決策」を打ち出すのかとの疑問は残る。なので、筆者が「解決策」を正しく伝えていない可能性も考慮すべきだろう。


※今回取り上げた記事「半島有事『難民Xデー』に奔走する男
https://facta.co.jp/article/201706025.html


※記事の評価はD(問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。同氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

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