2017年5月2日火曜日

日経「金投資 広がる選択肢」松沢巌記者が与える誤解

4月29日の日本経済新聞朝刊マネー&インベストメント面に載った「金投資 広がる選択肢  有事に強く、ETF拡大」 という記事は、不正確な説明が目に付いた。この面は投資初心者を想定して作っているはずなので、筆者の松沢巌記者には読者に誤解を与えないような書き方を心掛けてほしかった。
巨瀬川と鯉のぼり(福岡県うきは市)
   ※写真と本文は無関係です

具体的に問題のある部分を見ていこう。

【日経の記事】

世界的な金の広報調査機関であるワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、16年の金の投資需要は重量換算で前年比7割増の1561トンで、ETFは532トンと投資全体の34%を占めた。「米国の利上げやトランプ大統領の当選、日本のマイナス金利や英国の欧州連合(EU)離脱決定などが投資需要を押し上げた」(WGC)



◎「利上げ」は強材料?

利上げ」は原則として金価格の弱材料だ。しかし記事では、金の「投資需要を押し上げた」要因の1つに「米国の利上げ」を挙げている。需要押し上げ要因には「日本のマイナス金利」も入っているので、さらに分かりにくい。利上げ局面で金価格がする場合もあるが、だからと言って上記のような説明で済ませるのは感心しない。

次の説明はさらに問題が多い。

【日経の記事】

金ETFと並び個人投資家になじみの深いのが純金積立だ。指定した金額で毎月地金を購入する投資手法で、国内では田中貴金属工業グループと三菱マテリアルの2社が市場シェアの9割を占める。

三菱マテリアルの純金積立では、毎月の投資額を最低3000円から1000円単位で設定できる。価格変動リスクを抑えるため、金が安い日に多く、高い日は少なく買うといった手法をとる。購入額に応じ、1000円あたり25~30円の手数料がかかる。



◎「価格変動リスク」を抑えられる? ~その1

金が安い日に多く、高い日は少なく買うといった手法」を取れば「価格変動リスク」を抑えられるような書き方をしているが、これは誤りだ。「指定した金額で毎月地金を購入する投資手法」はいわゆるドルコスト平均法のことだろう。どういうタイミングで買ったとしても、将来の「価格変動リスク」は同じように負う。

久留米工業大学(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です
少し考えれば分かるはずだ。例えば、今後半年で金相場が半分に下がった場合、現在保有している金の価値の目減りをドルコスト平均法の採用で抑えられるだろうか。半年後に振り返って「ドルコスト平均法のおかげで価値の目減りは2割で済んだ」などとはならないはずだ。

価格変動リスク」に関しては松沢記者に決定的な誤解がありそうな気もする。それは以下の記述からもうかがえる。

【日経の記事】

価格変動リスクを抑え、少ない元手でより大きな金額の取引ができる市場も登場した。東京商品取引所が15年5月に開設した「金限日取引」(ゴールドスポット)だ。従来の金先物取引に比べ取引単位(1キロ)を100グラムに小口化。取引時に必要な委託証拠金も1万円弱と、先物取引の10分の1程度で済む。

この市場での取引価格は現在1グラム4500円台。1万円程度のお金で45万円ほどの金を売買でき、価格が上昇した時に得られる利益も相対的に大きくなる。

金限日取引の残高は4月下旬時点で12万6千枚(枚は最低取引単位=100グラム)と、原油先物市場の約14万枚に次ぐ東商取第2位の市場規模に成長した。

通常の先物取引と違い、決済期限がない。投資家は自分の判断で投資期間を選ぶことができる。差金決済が原則だが、委託業者によっては金地金(現物)の受け渡しもできる。



◎「価格変動リスク」を抑えられる? ~その2

『金限日取引』(ゴールドスポット)」だと「価格変動リスクを抑え」られると記事では解説している。これは信じがたい。しかも、なぜ「価格変動リスクを抑え」られるのか教えてはくれない。

従来の金先物取引に比べ取引単位(1キロ)を100グラムに小口化」しても価格変動リスクは変わらない。「通常の先物取引と違い、決済期限がない」ことも価格変動リスクとは無関係だ。どういう根拠で「価格変動リスクを抑え~」と書いたのか推測さえ難しい。



※今回取り上げた記事「金投資 広がる選択肢  有事に強く、ETF拡大
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170429&ng=DGKKZO15813990X20C17A4PPE000

※記事の評価はD(問題あり)。松沢巌記者への評価も暫定でDとする。

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