2017年5月25日木曜日

日経「タイ 株価伸び悩み」に見える小野由香子記者の説明不足

24日の日本経済新聞夕刊マーケット・投資2面に載った「アジアラウンドアップ~タイ 軍政3年、株価伸び悩み」という記事には、筆者である小野由香子記者の力量不足を感じた。タイでの「株価伸び悩み」が主要テーマなのに、その要因をまともに説明できていない。記事を見ながら問題点を指摘していく。
福岡県うきは市の白壁通り※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

タイの株式相場が伸び悩んでいる。2014年の軍事クーデターから丸3年が過ぎたが、経済はいまだ本格回復にはいたらず、足元の買い材料は乏しい。むしろ軍の病院で爆発があるなど軍政下の治安維持にほころびが出てきており、市場はさらに様子見姿勢を強めそうだ。

主要株価指数であるタイ総合指数の年間上昇率は16年に20%に迫り、東南アジアで断トツだった。だが、今年に入ると1550を挟んでの一進一退を続ける。23日時点では昨年末終値を1.4%上回るにとどまり、振るわない。

不振の一端は国内個人投資家の売り越しだ。個人投資家はタイ市場の取引額約5割を占める最大のプレーヤー。クーデター後の3年間、軍政を嫌気して外国人投資家が一気に減った中で市場を支えてきた。

タイ総合指数はクーデター前(14年5月21日)に比べて1割強上昇した。特に最初の1年は、大規模反政府デモなどが収まり街中に平穏が戻ったことから、多くの個人投資家は軍政下での経済回復に期待を寄せた。2年目に入ると原油などの国際商品価格が下落し、軍政への過度な期待が修正され落ち込んだが、公共投資が動き始めたことで3年目には再び持ち直した

だが、実際の経済回復は遅れている。輸出頼みの経済構造の改革は進んでおらず、足元で好調なのは観光業のみ。16年の国内総生産(GDP)成長率は3.2%と「タイ経済の巡航速度」と言われている5%には及ばない。


◎「伸び悩み」の要因は?

見出しは「タイ 軍政3年、株価伸び悩み」で、書き出しでは「タイの株式相場が伸び悩んでいる」と記している。伸び悩んでいるのは2017年に入ってからだ。その場合、記事では「今年に入って株価が伸び悩んでいる理由」を説明する必要がある。だが、記事には明確な理由が出てこない。
高崎山自然動物園(大分市)※写真と本文は無関係

不振の一端は国内個人投資家の売り越しだ」というのは理由と言えば理由だ。しかし、しかしこれはラーメン店の売り上げが劇的に伸びた理由を「男性客が大幅に増えたから」と言っているようなものだ。「なぜ男性客が増えたのか」が分からなければ、まともな説明とは言えない。

記事には「国内個人投資家の売り越し」がなぜ起きたのか説明はない。「タイ総合指数の年間上昇率は16年に20%に迫り、東南アジアで断トツだった」のは「公共投資が動き始めたこと」が理由のようなので、今年になってこの辺りに何か変化があったのかもしれない。だが、推測の域を出ない。

最初の段落では「軍事クーデターから丸3年が過ぎたが、経済はいまだ本格回復にはいたらず、足元の買い材料は乏しい」とも書いているが、これも17年になっての「株価伸び悩み」の理由にはなっていない。

さらに言えば、「国内個人投資家」がいつ「売り越し」に転じ、どの程度の「売り越し」なのかも不明だ。17年に入っての「株価伸び悩み」を解説する記事がこれでは辛い。

ついでに記事の終盤に関してもいくつか注文を付けておきたい。

【日経の記事】

投資家が好む銘柄も偏っている。この3年間、主要企業で躍進が目立ったのが国内の主要6空港を運営するタイ空港会社(AOT)。株価は実質的に2.2倍となり、好調な観光業への期待を映し出す。国外展開を拡大する素材大手サイアム・セメントなど「グローバル銘柄」も上昇した。逆に通信や消費財といった「国内銘柄」は下落した。


◎1社に偏る?

投資家が好む銘柄も偏っている」との解説も、どう理解すべきか迷った。AOT1社に人気が偏っていると考えればいいのだろうか。それとも「AOT+グローバル銘柄」に偏っているという話か。1社だけに3年間も人気が集中しているとは考えづらい。一方、「AOT+グローバル銘柄」だと、あまり偏っている感じがない。偏っているかどうかはもちろん「グローバル銘柄」の数にもよるが、その辺りも説明がないので記事からは判断が難しい。

そもそも「株価伸び悩み」に関しては今年に入ってからの話なのだから、「投資家が好む銘柄」についても期間をそろえた方が好ましい。

そして記事の結論部分も苦しい。

【日経の記事】

軍政3年となった22日、首都バンコクにある軍の病院で負傷者20人以上が出る爆発があった。警察は爆弾によるものと断定。反軍政勢力による犯行との見方も出ている。この直前には小規模な爆発が官庁街であり、言論統制や政治活動の禁止など強権で治安を保とうとしている軍政の限界が露呈し始めた。鬱積していた不満が少しずつ表面化する中、市場でもその兆しが見えている


◎爆発事件と株価は関係あり?

最初の段落で「(爆発事件を受けて)市場はさらに様子見姿勢を強めそうだ」と書き、記事の最後では「軍政の限界が露呈し始めた。鬱積していた不満が少しずつ表面化する中、市場でもその兆しが見えている」とも解説している。だが、記事に付けたグラフを見る限り、直近では株価が上昇している。

軍政への不満が株価の上値を押さえそうだと結論付けるならば、市場関係者の見方を入れるなど、もう少し具体的な根拠が欲しい。今回の記事では取って付けたような結論になっている。


※今回取り上げた記事「アジアラウンドアップ~タイ 軍政3年、株価伸び悩み
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170524&ng=DGKKZO16779910U7A520C1ENK000


※記事の評価はD(問題あり)。バンコク支局の小野由香子記者への評価も暫定でDとする。

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