2017年5月25日木曜日

三井化学は「市況頼み」脱却?日経1面「最高益4.0に挑む」

日本経済新聞朝刊1面でツッコミどころの多い連載が始まった。「最高益4.0に挑む(上)減収下でも稼ぐ 損益分岐点、40年で最低」という25日の記事を見ながら、具体的に問題点を指摘していく。
ヒシャゴ浦(大分市)※写真と本文は無関係です

まず、連載のタイトルが引っかかる。

【日経の記事】 

日本の上場企業の足腰が強くなっている。2017年3月期は売上高が減ったが、円高を克服し、純利益は2年ぶりに過去最高となった。企業は低成長下で稼ぐ力を磨き、高みを目指す「最高益4.0」に挑む


◎「最高益4.0」は達成済みでは?

取材班では「企業業績のヤマを、高成長でバブルが極まった1980年代末を起点とすると、00年前後のIT(情報技術)ブームが2度目、世界的な好景気に沸いた00年代半ばが3度目、そして今回が4度目となる」と見て、「『最高益4.0』に挑む」とのタイトルにしたようだ。

だが、記事の冒頭で記しているように「2017年3月期は売上高が減ったが、円高を克服し、純利益は2年ぶりに過去最高となった」はずだ。ならば「最高益4.0」は既に達成されており、ここから「挑む」必要はなさそうに見える。

さらに、最初に出てくる三井化学の事例が苦しい。いくつもツッコミを入れたくなる。

【日経の記事】

10年ぶりに最高益を達成した三井化学。M&A(合併・買収)や新事業に頼ったわけではなく、売上高を10%落としながらも純利益を3倍に増やした。中国の過剰生産などで3年連続の赤字となったのは3年前。身を縮め、筋肉質になってこぎ着けた好決算だ

主力の千葉の工場は今や7割の稼働率でも利益が出る。やみくもに輸出を増やさず顧客の近くで生産する「地産地消」も掲げた。そこに市況上昇の追い風が吹いた。淡輪敏社長は「以前のように輸出比率が高ければもっと利益が出たが、市況頼みの経営には戻らない」と話す。主力工場は近く4年ぶりの定期修繕に入り2カ月半停止する。体質が改善し、フル稼働状態も続くだけに関係者は定修さえ惜しいと思うほどだ。


◎「市況頼み」から脱却?

市況頼みの経営には戻らない」との社長コメントを紹介しているが、記事を読む限り「市況頼み」の体質は残っているようだ。減収だった前期に「10年ぶりに最高益を達成した」のは「市況上昇の追い風が吹いた」からではないのか。だとすれば、市況悪化は減益要因になるはずだ。
北九州モノレール(北九州市)※写真と本文は無関係です

輸出を増やさず顧客の近くで生産する『地産地消』」などをいくら推進しても、市況に左右される商品を販売している限り、業績は「市況頼み」になってしまう。そこを理解していれば、社長コメントを記事のような形では使わなかったはずだ。


◎三井化学の具体策は?

身を縮め、筋肉質になってこぎ着けた好決算だ」と書いているものの、三井化学がどういう具体策を取ったのか見えてこない。「中国の過剰生産などで3年連続の赤字となったのは3年前」と書いてあるので、中国での生産規模を縮小したのかとも思うが、その辺りの記述はない。一方で「地産地消」を掲げたとも書いているので、むしろ海外への生産シフトを進めてきたとも考えられる。ただ、これも説明がない。

国内についても「主力の千葉の工場は今や7割の稼働率でも利益が出る」と書いているが、「今や7割」が以前はどうだったのか、どうやって「筋肉質」にしたのかなど具体的な話は教えてくれない。これだけ説明が足りない中で「身を縮め、筋肉質になってこぎ着けた好決算」と言われても困る。


◎避けてほしい「市況上昇」

そこに市況上昇の追い風が吹いた」というくだりで「市況上昇」という表現を用いているのは感心しない。「市況」とは「市場の状況」という意味なので、「市況上昇」は不自然な使い方だ。最近はかなり“市民権”を得てきているが、日経の1面で使うのは避けてほしい。


※今回取り上げた記事「最高益4.0に挑む(上)減収下でも稼ぐ 損益分岐点、40年で最低

http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170525&ng=DGKKZO16820700V20C17A5MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。

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