2017年5月23日火曜日

日本株だけ特殊? 週刊エコノミスト「今から始める長期投資」

取材相手に都合良く誘導されたのだろうか。週刊エコノミスト5月30日の特集「今から始める長期投資」の中に問題ある解説記事があった。「魅惑のハイリスク・ハイリターン(3)アクティブ投信~日本株は高利回り商品も 成績の定期的な確認が必須」という記事では、世界の株式市場で日本だけアクティブ投信に優位性があるような書き方をしているが、常識的にはあり得そうもない。
小倉井筒屋(北九州市)※写真と本文は無関係です

記事の一部を見てみよう。

【エコノミストの記事】

外国株式は、運用成績でインデックス投信がほとんどのアクティブ投信を上回っている。だが日本株ではTOPIXや日経平均株価を上回るパフォーマンスを維持する投信が多数ある。「長期投資でも、日本株はアクティブ投信が選択肢になる」(イデア・ファンド・コンサルティングの吉井崇裕社長)と考える運用のプロは多い。

◇   ◇   ◇

似たような内容の記事は他にもある。特集の中の「成果の9割を決める資産配分 長期なら積極型、高齢者は安定型」という記事は、吉井氏の監修に基づいて編集部がまとめたもので、ここでも以下のように書いている。

【エコノミストの記事】

長期運用ならば、外国株(先進国、新興国)は特にインデックス投信が向いている。先進国株では、運用成績でインデックス投信に勝るアクティブ投信はほとんどない。先進国株の主要な市場である米国や欧州は、巨大かつ流動性の高い市場で売買が成立しやすく、売り手と買い手で情報格差が生じにくい。こうした効率的な市場で、他者を出し抜くようなアクティブな運用力を発揮するのは難しい。

一方、日本株のインデックス投信では、外国株に比べて長期的に効率よくリターンを稼ぐことが難しいといわれている。インデックス運用による長期投資は、大きな目で見れば市場の成長に合わせて資産を膨らませるということ。日本経済の停滞が続くと考えるのならば、東証株価指数(TOPIX)や日経平均株価に連動するインデックス投信では、株式に期待されるリターンを得ることは難しいということになる。

こうした市場では一工夫必要だ。日本株の投信は、ベンチマーク(基準)とするTOPIXや日経平均を大きく上回る運用成績を続けるアクティブ投信が多数ある。特に、いくつかのアクティブ投信は、外国人投資家の目が届きにくい中小型株市場に投資して目覚ましい実績を上げている。日本株に関しては、中小型のアクティブ投信という選択肢を検討してもよいだろう。


◎日本株だけ極めて特殊?

外国株式は、運用成績でインデックス投信がほとんどのアクティブ投信を上回っている」のに、「日本株ではTOPIXや日経平均株価を上回るパフォーマンスを維持する投信が多数ある」と言う。世界中で日本株だけが特殊らしい。だが、それを裏付ける具体的なデータは特集の中に見当たらない。
三池炭鉱宮原坑(福岡県大牟田市)※写真と本文は無関係です

例えばモーニングスターの2015年9月24日の記事に、日本のアクティブファンドに関して以下のような解説がある。「過去1年、3年、5年、10年の全期間のパフォーマンスで、サクセスレートは20%~30%台にとどまり、短期・長期にかかわらずアクティブファンドは劣勢となっている

この記事では「米国の結果(2014年12月末基準)を見ても、『米国株式・大型ブレンド』のサクセスレートは過去1年、3年、5年、10年がそれぞれ32.7%、35.6%、25.1%、21.6%となっており、日本と同様に、すべての期間でアクティブファンドがパッシブファンドに劣後する傾向が見られた」とも書いている。

日米で数字に多少の違いはあるものの、両国でアクティブ投信は苦戦していると理解すべきだ。もちろんベンチマークを上回る確率が20%や30%であっても「ベンチマークを上回るパフォーマンスを維持する投信が多数ある」とは言える。だが、それは米国株でも同じだ。

モーニングスターのデータを信じるならば、「世界の株式市場の中で日本だけアクティブ投信に賭ける価値がある」とは言い難い。そもそも、日本の株式市場はそれほど小規模でも流動性が低い訳でもない。なのに、新興国株を含むか外国株式では「インデックス投信が向いている」としながら、「日本株はアクティブ投信が選択肢になる」のは解せない。

イデア・ファンド・コンサルティングの吉井崇裕社長」は商売上、「長期投資でも、日本株はアクティブ投信が選択肢になる」と言わざるを得ないのだろう。エコノミストの記者には、その辺りを勘案した上で記事を書いてほしかった。

今回、「魅惑のハイリスク・ハイリターン(3)アクティブ投信~日本株は高利回り商品も 成績の定期的な確認が必要」という記事では「TOPIXを上回る運用成績の代表的なアクティブ投信」として5本を紹介している。だが、「購入時手数料」はそろって3.24%(税込み)で、信託報酬は1.566~2.0196%(同)と高コストだ。こうした商品に優位性があるように読者を誤解させるのは感心しない。

確率的に見れば、過去のリターンの良い投信を選んで投資しても、将来のリターンを高める効果はないとされる。そこを理解していれば、今回のような記事の構成にはならなかったはずだが…。


※記事の評価はD(問題あり)、特集全体の評価はC(平均的)。特集を担当したとみられる記者については、花谷美枝記者への評価を暫定B(優れている)から暫定Cへ引き下げ、暫定でCとしていた荒木宏香記者への評価をCで確定させる。

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