2017年5月28日日曜日

増加率なぜ載せない? 日経「陸運4社、人件費270億円増 」

28日の日本経済新聞朝刊1面ワキを飾った「陸運4社、人件費270億円増 ヤマトや日通、今期減益分の9割」という記事は不満が残る内容だった。「人件費270億円増」というものの、増加率を探れる情報がどこにも出ていない。これでは辛い。
常盤橋(北九州市)※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

人手不足が陸運大手の業績を圧迫している。ヤマトホールディングス(HD)など株式を上場している4社は、2018年3月期に外部への運送委託費を含めた人件費が前期より計270億円増える見通しだ。4社の営業利益は前期比19%減の見込みで、人件費の増加が減益額の9割を占める。運送料金の値上げで人件費をどこまで吸収できるかが焦点になる。

最大手のヤマトHDは人件費が163億円増える見通しだ。今期の営業減益額(48億円)の3.4倍に相当する。取り扱い荷物の急増で深刻な人手不足に陥ったため契約社員のドライバーら約1万人を採用し、問題となっていたサービス残業の解消も目指す。これまで個人事業主の協同組合「赤帽」などへの外部委託で対応してきたが、人員増加で外部委託費は48億円減る見通しだ。

日本郵政は子会社の日本郵便で人件費が91億円増える。福山通運は人件費と外部委託費の合計が20億円増える見込みだ。派遣人材を増やす考えだが、賃金も上昇しており負担が重くなる。

日本通運は外部委託費が62億円増加する見通しだ。林田直也取締役は「人手不足を背景に4月以降も外注の単価が上昇している」と話す。

人件費を吸収しようと各社とも価格転嫁を急ぐ。ヤマトHDは小口宅配の基本料金を10月から平均15%値上げし大口顧客約1000社とも値上げの交渉中だ。下期から利益の押し上げを見込んでおり「来期業績は値上げが大きく寄与する」(芝崎健一専務執行役員)とみている。日通も運送契約の更新時期を迎えた顧客を対象に数%の値上げを求める方針だ。

インターネット通販の急増で物流各社は慢性的な人手不足に直面する。厚生労働省によると「自動車運転の職業」の有効求人倍率は3月に2.63倍にまで上昇した。

◇   ◇   ◇

経済記事では数字の比較が重要だ。例えば「A社の経常利益は前期に比べて30億円増えた」と言われても、それだけでは評価が難しい。3億円が33億円になるのと、1000億円が1030億円になるのでは、状況がかなり違ってくる。だから記事では増減率を示す必要がある。もちろん前期の実績値などを入れて増減率が分かるようにしてもいい。
高崎山自然動物園(大分市)※写真と本文は無関係です

しかし、今回の記事にはそれがない。「4社」合計では「人件費が前期より計270億円増える見通し」。個別に見ると「ヤマトHDは人件費が163億円増える見通し」で「日本郵政は子会社の日本郵便で人件費が91億円増える。福山通運は人件費と外部委託費の合計が20億円増える見込み」だ。「日本通運は外部委託費が62億円増加する見通し」らしい。結局、増減率は不明のままだ。

これでは人件費の増加がどの程度か判断が難しい。読者のほとんどは「陸運大手」の人件費の水準を把握していない。せめて4社合計の数字には前期比の増加率を入れてほしかった。

では、なぜ入れなかったのか。おそらく「あえて」だ。そう思えるのは、「人件費の増加が減益額の9割を占める」「(ヤマトの人件費増加額は)今期の営業減益額(48億円)の3.4倍に相当する」などと、利益額との比較で人件費増加の大きさを強調しているからだ。

例えば、4社合計の人件費増加率が20%や30%ならば、記事にその情報を入れたのではないか。実際の増加率がどうかは知らないが、5%未満だと「やっぱり」と感じる。その辺りの水準ならば、「増加率が小さいから、記事にはあえて入れないでおこう」と判断しても不思議ではない。もちろん「増減率のことは全く考えていなかった」という可能性も残るが…。

記事では「運送料金の値上げで人件費をどこまで吸収できるかが焦点になる」などと書いており、「値上げをしないと運送会社の利益が落ち込んでしまう」との印象を受ける。しかし、これは注意して見る必要がある。記者が「陸運大手」の言い分を安易に受け入れている可能性が高いからだ。

人手不足が陸運大手の業績を圧迫している」と言うが、「人件費が前期より計270億円増える」のは人手不足だけが原因ではない。ヤマトの「サービス残業の解消」は、基本的にはズルしていた分がなくなるだけだ。ここは差し引いて考えるべきだ。

さらに言えば、「人員増加」も値上げの理由にはなりにくい。例えばヤマトの場合「取り扱い荷物の急増で深刻な人手不足に陥ったため契約社員のドライバーら約1万人を採用」するらしい。人員が増えるのは仕事が増えているからだ。つまり売り上げも増える。

積極的な出店で人員を大幅に増やしている外食チェーンがあって、「出店拡大による人件費の伸びに対応して値上げに踏み切ります」と宣言されたら納得できるだろうか。

陸運大手」に関しても「従業員1人当たりの人件費が大幅に増えているから値上げします」ならば分かる。記事にも「賃金も上昇しており」といった話が少しは出てくる。だが、「平均15%」とか「数%」の値上げが必要だと思えるデータは見当たらない。

日経の記者が「陸運大手」の利益代弁者になっているのではと疑いたくなる記事だった。


※今回取り上げた記事「陸運4社、人件費270億円増 ヤマトや日通、今期減益分の9割
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170528&ng=DGKKASGD19H7N_X20C17A5MM8000

※記事の評価はD(問題あり)。

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