2017年5月7日日曜日

肝心の情報が欠けた週刊ダイヤモンド特集「がんと生きる」

週刊ダイヤモンド5月13日号の特集「がんと生きる [仕事][家庭][家計][治療]」は全体としては悪くない出来だが、「Part 4~ プレシジョン・メディシンは救世主!? がん治療の最前線」は期待外れの内容だった。がん患者にとって最も関心が高いのは最新治療法の動向だろう。だが、取材班は「治療法の効果」という肝心の情報を伝えていない。
浅井の一本桜(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です

記事の一部を見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

日本のプレシジョン・メディシンがまだ研究の途上段階にある中、複数の大学病院は先駆けて複数の遺伝子を解析できる検査を自由診療で提供。従来の治療が効かない患者が殺到している

「もう、あなたに効く薬はありません」──。京都大学病院のがん薬物治療科教授である武藤学の元には、他の病院でそう宣告された患者が全国から集まってくる。

彼らの目当ては、「がんクリニカルシーケンス検査」。クリニカルシーケンスとは、患者ごとに異なるドライバー遺伝子異常(がんの原因となる遺伝子異常)を検出し、効果が期待できる分子標的薬による治療へと結び付けるための検査である。

分子標的薬はミサイルのごとく特定の遺伝子を狙って攻撃する薬で、“プレシジョン・メディシンの申し子”ともいえる抗がん剤。逆に言えば、ターゲットとなる遺伝子異常がなければ、薬の効果が期待できない。さまざまな分子標的薬が登場しているが、その効果を発揮させるためには患者ごとのドライバー遺伝子異常の検出が不可欠なのである。

中略)下図は、京大病院で行われているオンコプライム検査の流れと成果である。まず患者から採取されたがん組織を米国の検査会社に送付し解析。次に、戻ってきたレポートに記されているドライバー遺伝子異常に対応する分子標的薬があるか、国内の専門会社が調べて追記し京大病院に提出する。それを基に院内で治療法を検討し、患者に伝える、という流れだ。

検査が開始された2015年4月から16年2月までに検査を受けた人の半数以上が60歳以下と比較的若い。そして気になる検査結果だが「検査を受けた人の約7割が、何らかの薬の情報を得られた」(武藤)という。

しかしながら、全ての人がこの検査から治療へとたどり着くわけではない。理由はさまざまだが、そもそもこの検査を受けるほぼ全員が、従来の治療が効かない患者。たとえ薬の情報が分かっても、自分のがんには保険が利かないケースがほとんどなのだ。その薬の臨床研究にタイミングよく参加できればいいが、そうでなければ治療は保険外の自由診療。検査とは別に高額な医療費が掛かる。


◎大きな効果があった患者はいる?

プレシジョン・メディシン」について「救世主!?」「従来の治療が効かない患者が殺到している」などと期待を持たせておいて、この治療の効果に関しては情報がない。
矢部川(福岡県八女市)※写真と本文は無関係です

記事に付けた図によると、2015年4月~16年10月に「京大病院で行われているオンコプライム検査」を受けた88人のうち、「検査で見つかった治療法を実際に受けた」のは「19人」にとどまったという。それはそれでいい。記事でも「全ての人がこの検査から治療へとたどり着くわけではない」と書いている。問題は「19人」が「検査で見つかった治療法」で助かったかどうかだ。

一部の患者でもいいので高い治療効果が出たとなれば朗報だ。一方、治療法だけ見つかっても効果は出なければ意味がない。今回の特集では「プレシジョン・メディシン」について6ページにわたって延々と綴っているものの、肝心の情報は出てこない。

「プレシジョン・メディシンで治療法が見つかれば、高い治療効果が期待できるのか」には、きちんと答えを出してほしかった。そこは全く情報がないと言うのならば、その点を記事中で明示すべきだ。


※今回取り上げた特集「がんと生きる [仕事][家庭][家計][治療]
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/20100

※特集全体の評価はC(平均的)。担当者の評価は以下の通りとする。

臼井真粧美副編集長(暫定E→暫定C)
柳澤里佳記者(暫定B→暫定C)
野村聖子記者(暫定D→暫定C)

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