2016年4月9日土曜日

鈴木敏文セブン&アイ会長を語る上で押さえるべき視点

日経ビジネスオンラインの「セブン会長、引退会見で見せたお家騒動の恥部 鈴木敏文氏、大株主伊藤家の“豹変”で退任へ」という8日付の記事に、7日の鈴木氏退任会見の詳細が出ていた。その中に、新聞の一問一答などには出ていなかった興味深い発言があったので取り上げたい。「上手くいけば自分の手柄。失敗すれば部下の責任」という鈴木氏の姿勢は以前から一貫しており、それが同氏の経営者としての見苦しさの根っこにある。今回の会見でも、その特質は顕著に表れていたようだ。
筑後川のサイクリングロード沿いに咲く菜の花
                ※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスオンラインの記事】

鈴木会長:ただ、彼(井阪社長)がCOOとしての役割を果たしたかというと、一生懸命やってくれたんでしょうが、会社全体として見ると物足りなさがあったことは事実です。それは本人にも、周りにも言ってきました。セブンイレブンの社長は、これまで最長で7年間の任期でやってまいりました。彼(井阪社長)も7年経ちましたから、ここで一つご苦労さんということで、(退任するよう)内示を出しました。

内示をしたところ、「分かりました」ということで、(井阪社長は次にセブン&アイ)ホールディングス社長の村田くんのところに行きまして、「会長から(退任と)言われて、分かりました」と意思表示をした。けれどその後、再び私のところに来まして、「一昨日の話は、私は受けられません」と言いました。

私は「なんで?」とびっくりして聞き返しました。すると彼は「私は7年の間にこれこれこういうことをやりました」と。「それは君一人でやったの」と穏やかに聞きましたら、「私が中心でやりました」と言う。私は「そうじゃないだろう」と。セブンイレブンの経営方針はずっと(私が)出してきて、みんなでそれを実行してきました。私が非公式な会議を朝の8時頃から設けて、社長や副社長、商品部長、企画室長を集めて、方針を出してきた。彼はそれに従ってきただけです。



中略)鈴木会長:何を長々と話しているのかと思われるかもしれませんが、私は最高益を続けてきました。セブンイレブンの幹部からは、「あなたはCEOをやりながら、COOの仕事も半分続けてきましたね」とずっと言われてきました。

私は1つの会社だからいいじゃないか、と言ってきたけれども、私がCOOをいつまでも兼務することはあってはなりません。人を育てていかなくちゃならないと常々思っています。ここのところ最高益を続けていますし、またこの3月からの新年度の予算でも、最高益を出せる状態にあります。だから私は逃げではなく、そういう時こそみんなに考えてもらいたいというつもりで引退を決意しました。

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「セブンイレブンがうまくいっているのは自分の功績であって、井阪氏は手足として動いているに過ぎない」と鈴木氏は考えているようだ。しかし、週刊東洋経済3月12日号の「直撃 セブン&アイホールディングス会長 鈴木敏文 ヨーカ堂社長辞任から健康問題まで 戸井君と話したこと 病床で考えたこと」というインタビュー記事では、グループ内のイトーヨーカ堂の経営不振に触れて、会見での発言と矛盾するようなことを言っている。

【東洋経済の記事】

--CEO(最高経営責任者)として会長自身の責任についてはどう考えていますか。

こっちも任命した責任は当然ある。しかし、CEOとして出した方針は間違っていない。

--CEOの進退を議論する話ではないということですか。

そうだよ。その証拠にセブンイレブンはどうか。同じ人間が具体的に「この商品を作れ、この商品を」と言っているのではなく、「こういう方針でやれ」ということを言っている。要するに業態は違っても言っていることは共通なんだよ。特にヨーカ堂の場合には、脱チェーンストアという理論を言ってきたが、脱チェーンストアになっていないのが影響している。

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鈴木氏はヨーカ堂に関して「業績が上向かないのは自分以外の人間の責任」だと訴えている。業績不振の責任がCEOではなくCOOにあるのならば、業績好調の立役者もCEOではなくCOOになりそうなものだが、セブンイレブンに関しては「(自分が)方針を出してきた。彼(井阪氏)はそれに従ってきただけです」となる。セブンイレブンをここまで育て上げた鈴木氏の功績を無視するつもりはないが、現状では「唯我独尊の困った老経営者」と呼ぶしかない。

しかも、発言は矛盾している。会見では「セブンイレブンの幹部からは、『あなたはCEOをやりながら、COOの仕事も半分続けてきましたね』とずっと言われてきました。私は1つの会社だからいいじゃないか、と言ってきたけれども~」と述べている。一方、東洋経済の記事では「その証拠にセブンイレブンはどうか。同じ人間が具体的に『この商品を作れ、この商品を』と言っているのではなく、『こういう方針でやれ』ということを言っている」と、きっちり役割分担をしているような口ぶりだ。

これは週刊ダイヤモンド2月13日号のインタビュー記事でもそうだ。この中で鈴木氏は以下のように発言している。「私はCEO(最高経営責任者)として『こういう方針で進めなさい』と各社に言います。だけど、それを実行するのはCOO(最高執行責任者)である社長です。そこまで私が入り込んでしまうと、私の役割がCEOなのかCOOなのか分からなくなります」。

これは「ヨーカ堂の経営不振は自分のせいではない」との文脈での話だ。そこでは「CEOとCOOは明確に役割分担すべきだし、そうしてきた」と言っているのに、好調のセブンイレブンに関しては「COOも半分自分がやってきた。好調なのは自分の功績だ」と訴える。その場その場で自分を正当化しているだけだろうが、それにしても経営者として見苦しすぎる。

これから東洋経済やダイヤモンドも鈴木氏の問題を大きく扱うはずだ。その時は「上手くいけば自分の手柄。失敗すれば部下の責任」という同氏の持つ経営者としての特質から目をそらさないでほしい。さらに言えば、コンビニでの成功という光の部分に偏らず、総合スーパーでの度重なる改革失敗という影の部分もしっかりと押さえて記事にしてほしい。


※今回は鈴木氏の発言を引用しただけなので、記事への評価は見送る。

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