2016年4月2日土曜日

日経ビジネス田村賢司編集委員「地政学リスク」を誤解?

日経ビジネスの田村賢司主任編集委員が書く記事は安定して完成度が低い。4月4日号の「ニュースを突く~原油価格、次の懸念は地政学リスク」を読んで、改めてそう感じた。この記事への疑問は大きく2つに分けられる。まず、イランへの制裁解除は『地政学リスク』に当たるのか。また、地政学リスクの高まりは、原油相場の下落ではなく上昇を招くのではないかとも思える。
千鳥ヶ淵の桜(東京都千代田区) ※写真と本文は無関係です

田村編集委員は記事の冒頭で以下のように問題提起している。

【日経ビジネスの記事】

世界経済を混乱に陥れた原油価格の暴落に歯止めがかかってきた。しかし、長くは続かないかもしれない。中東を巡る大国間の暗闘がイランに増産を促して、市況を再び暴落させかねない

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まずは言葉の問題から。「市況=市場の状況」なので「市況の暴落」は使わない方がいい。「相場を再び暴落させかねない」などとすれば問題はない。

本題に入ろう。田村編集委員はイランの生産動向が原油相場のカギを握っていると考えているようだ。この問題について以下のように書いている。

【日経ビジネスの記事】

危機モードは脱したかのように見えるが、果たしてそうなのか。そこにはもう1つ別の不安がある。中東を覆う地政学リスクという不安だ。

原油価格が60ドルを割った昨年6月以降、最も市場を恐れさせたのは今年1月のサウジアラビアとイランの断交である。サウジ国民の多くはイスラム教のスンニ派に属し、シーア派のイランはもともと、対立関係にある。しかも両国は中東の盟主の座を巡ってつばぜり合いを演じてきた。

(中略)原油市場の先行きには、イランが制裁解除で元の400万バレルまで実際に増産できるのか。また、それがどのくらいの期間で可能なのかが相当影響する。新興国の需要はマーケットが期待するほどには伸びない可能性が高く、そうなれば供給の動向次第で、原油価格は再び暴落しかねないからだ。

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地政学リスク」とは野村証券の用語解説によれば「ある特定の地域が抱える政治的・軍事的な緊張の高まりが、地理的な位置関係により、その特定地域の経済、もしくは世界経済全体の先行きを不透明にするリスクのこと」だ(野村は「地政学的リスク」としている)。

イランの増産が原油相場の暴落を招きかねないとしても、それは「政治的・軍事的な緊張の高まりが経済の先行きを不透明にするリスク」と呼べるだろうか。田村編集委員は以下のように書いている。「核開発疑惑を理由に米国と欧州連合(EU)がイランに対して行ってきた経済制裁について解除することで、昨年7月に合意。イランが世界経済に復帰することが決まった」。だとすれば、制裁解除に伴うイランの原油供給拡大はむしろ「地政学リスクの低下がもたらした」と考えるのが妥当だ。

田村編集委員が記事で取り上げている「サウジアラビアとイランの断交」は地政学リスクの高まりを示す事例と言える。しかし、これが「市場を恐れさせた」のは解せない。「原油相場の下落を市場は嫌がっている」との前提で田村編集委員は記事を書いているはずだ。だとしたら、サウジとイランの対立の高まりは原油価格の下落を防ぐ意味で市場にとって歓迎すべき要因となる。

「中東での地政学リスクの高まり→原油相場の上昇」と理解するのが一般的だが、田村編集委員は逆に捉えているようだ。しかし、サウジとイランが全面戦争に突入した場合、原油相場の下落要因になるとは思えない。

田村編集委員も記事の中でサウジに関して「増産凍結の4カ国合意も、実施するためには、イランの参加を“条件”に付けている。復活しようとしているイランを小突いている状態と言えるだろう」と書いている。つまりサウジはイランの供給増加を抑える役割を果たしている。原油相場の上昇を望む立場からは「サウジとイランの対立が激化してくれた方がありがたい」と言える。そう考えると、「地政学リスクの高まりが原油価格の暴落を招くのでは」という田村編集委員の問題意識は、出発点から間違っていたのだろう。


※記事の評価はD(問題あり)。田村賢司主任編集委員の評価もDを維持する。

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