2016年4月6日水曜日

そんな「投資理論」本当にある? 日経1面「市場の力学」

6日の日本経済新聞朝刊1面に、聞いたこともない「投資理論の基本」が出ていた。「市場の力学~投資の新潮流(3)スター銘柄 どこへ行った 指数で売買、消える個性」という記事では「投資理論の基本では値上がりが狙える株式の配当利回りは国債の利回りより低くなる」と解説している。しかし、色々と探してみても、そういう「投資理論」は見つけられなかったし、自分なりに考えてみても、日経の言う「投資理論」が正しいとは思えない。

【日経の記事】
福岡県うきは市の流川桜並木 ※写真と本文は無関係です


日銀が1月末にマイナス金利政策の導入を決めてから、急速に資金が流入している金融商品がある。野村アセットマネジメントが運用する「日本株高配当70」。配当利回りが高い70銘柄を組み入れる上場投資信託(ETF)で、純資産の総額は600億円に達した。

「成長への夢より、配当を通じたリターンを追求する時代が訪れようとしている」。証券市場に携わって30年になる日興アセットマネジメントの神山直樹チーフ・ストラテジストはこう話す。

期間10年の国債利回りはマイナスに沈み、株式の配当利回りとの差は2%強とかつてない水準にまで広がっている。

投資理論の基本では値上がりが狙える株式の配当利回りは国債の利回りより低くなる。これほど差がついたのは世界経済の成長が鈍化し、株価が短期間で数倍に値上がりするような企業を見つけにくくなったからだ。

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まず「投資理論の基本」通りにほとんどの期間で「株式の配当利回りは国債の利回りより低くなる」のか検証してみよう。2010年7月12日付の日経の記事によると「戦後の日本では、株価の不安定さと国債の安定した利子収入を背景に、配当利回りが長期金利を上回っていたが、高度経済成長期の1960年前後から逆転するようになった」ようだ。

その後、「90年代後半には配当利回りが長期金利を再び上回るようになった。利回り革命との対比で『逆利回り革命』とも呼ばれた。2008年以降は配当利回りが長期金利をほぼ上回っている」という。つまり、日経の言う「投資理論の基本」は、現実と合致していない時期がかなり長い。「株式の配当利回りとの差は2%強とかつてない水準にまで広がっている」のかもしれないが、配当利回りが国債利回りを上回るのは、それほど珍しくない。

では、株式は「値上がりが狙える」から「株式の配当利回りは国債の利回りより低くなる」との説明は正しいのだろうか。これには2つの疑問が湧く。まず、常識的な「投資理論」では、リスクの高い方の利回りが高くなるのではないか。国債と株式で比べれば、リスクは当然ながら株式の方が高い。だとしたら、配当利回りが国債利回りを上回る方が自然だ。「値上がりが狙える」裏側には「値下がりの恐れがある」という側面もあるのだが、記事ではなぜかその点を無視している。

そもそも、「国債利回りと配当利回りを比較して、あれこれ言ってもほとんど意味がない」と個人的には考えている。特に配当利回りに意味がない。株式の場合、キャピタルゲインとインカムゲインを合算して考える必要がある。それぞれを個別に論じると、判断として問題が生じやすい。

例えば、配当利回りの高い銘柄は魅力的だろうか。A社の株価が100円だとすると、年1円配ならば株主は配当が1円もらえ、配当後に株価は99円になる。B社の株価も100円だが、こちらは年10円配だとしよう。すると株主は10円もらえて、配当後の株価は90円になる。配当利回りはA社株が1%でB社株が10%だ。配当利回りで言えばB社株が圧倒的に上回る。配当以外の条件が同じだと仮定した場合、B社株はA社株より圧倒的に魅力的だろうか。

実際には配当以外の要因でも株価が動くし、増配発表が好感されて株価が大きく上がったりもするので、上記の例のように単純にはならない。それでも、配当は株主にとって「右のポケットに入れておくか左のポケットに入れておくか」ぐらいの意味しかないとは言える。配当利回りのような、片方のポケットだけに着目してあれこれ言う考え方が、正直言ってよく理解できない。

国債と株式の利回りを比べるならば、株式の場合はトータルリターン(配当+値上がり益)で見るべきだろう。その場合、リスクの高い株式に関しては投資家の要求するリターンが当然に国債より高くなる。無配でも値上がり益が多ければ問題ないし、高配当でもそれ以上に値下がりがきつければ投資家の要求には応えられない。やはり、キャピタルゲイン抜きに配当だけを抜き出して論じても意味はない。

結論として、「株式の配当利回りは国債の利回りより低くなる」という「投資理論」は、過去の実績からも理屈の面からも導き出せなかった。「市場の力学」取材班では、本当にこれが「投資理論の基本」だと信じているのだろうか。


※記事の評価はD(問題あり)。

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