2016年4月10日日曜日

「実質実効レート」の記事で日経 田村正之編集委員に問う

日本経済新聞の田村正之編集委員が9日の朝刊マネー&インベストメント面に「円の真の『実力』を知る~実質実効レート 長期上昇を示唆」という記事を書いていた。今回のテーマは「実質実効為替レート」。これが「長期的に為替相場を占ううえで参考になる」と田村編集委員は解説している。違うとは言わない。ただ、記事の説明には納得できなかった。疑問点は3つある。

合所ダムと浮羽大橋(福岡県うきは市)
        ※写真と本文は無関係です
◎疑問その1~なぜ「1973年以降」?

【日経の記事】

グラフAは1973年以降を対象に算出した円の実質実効レート(円の対ドル相場も併記)。上下に変動しながらも、「一方向に放置されることはなく、数年単位で平均的な水準に戻る傾向がある」(龍谷大学の竹中正治教授)。

物価の影響も考慮した円の総合的な価値で考えると、行き過ぎた円高も円安もこれまで、おおむね解消されてきた。ここで注目すべきは、ここ数年に限って見ると、同指数が平均値を大幅に下回ってきたこと。理論上はかなり過剰な円安が続いてきたのだ。

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実質実効レートが1973年以降の平均値からどのぐらい乖離しているのかを見て、田村編集委員は円安や円高の「行き過ぎ度」を判断している。しかし、なぜ「1973年以降」なのか、記事には何の説明もない。

例えば、過去10年の平均値を基に考えると、「かなり過剰な円安」とは言えなくなりそうだ。なぜ「1973年以降」なのかの説明がない以上、ご都合主義的に期間を設定したと解釈されても仕方がない。「変動相場制に移行したのが1973年だから」といった理由があるならば、それを読者に示すべきだ。


◎疑問その2~ドルに投資するなら「実効」は不要では?

【日経の記事】

(実質実効レートの平均値との)かい離幅は足元で縮まったが、それでもまだ円安方向の水準。市場関係者の多くが円高余地が残ると予想する根拠の1つだ。この考え方は外貨投資にも応用できる(図B)。

例えば73年以降、指数が平均値より15%以上高い水準(円高方向)にあった月にドル買いをしたとする。結果的にその後、相場は円安・ドル高に反転し、3年後には平均11%の為替差益を得られた

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ドルに投資するならば、「実質」はともかく、「ドルやユーロ、英ポンド、人民元などの主要通貨に対する値動きを、各国・地域との貿易量などを基に加重平均して」実効レートにする意義は乏しい。ドル円相場を実質ベースで考えれば済む話だ。実効レートの場合、ドル円の実質レートが動いていなくても、ユーロやポンドとの関係で円高や円安に振れてしまう。

「『実効』の部分は邪魔だが、特定の通貨との実質レートを算出するのは手間なので、他の通貨の影響が混じってはくる面はあるものの日銀の出している実質実効レートを参考にしよう」と言うのならば理解できる。しかし、そうは書いていない。


◎疑問その3~これはどういう意味?

【日経の記事】

もちろん実質実効レートも絶対的ではない。久留米大学の塚崎公義教授は「日本企業の海外生産の進展など、物価以外で円安につながる環境変化が織り込まれていない」と指摘する。長期的に為替を考える判断材料の一つと考えたい。

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これは記事の最終段落だ。こちらの理解力不足を責めるべきかもしれないが、何度読んでも何を言いたいのか分からなかった。「日本企業の海外生産の進展」が円安につながる材料だとしよう。しかし、それは実質実効レートには織り込まれていないらしい。実質実効レートは実際の為替相場を基に算出されているので、為替相場には「日本企業の海外生産の進展」という円安要因が織り込まれていないことになる。

しかし、「日本企業の海外生産の進展」は最近始まった動きではない。何十年も続いているような動きをいまだに織り込んでいないとすると「それは本当に円安要因なのか」との疑問が湧く。そもそも、あらゆる材料を織り込んでいく為替市場が「日本企業の海外生産の進展」という誰でも知っているような話を織り込んでいないとも考えにくい。

「将来の環境変化を実質実効レートが正確に織り込んでいるわけではない」との趣旨かなとも考えてみた。しかし、それは物価に関しても同じだ。結局、ここは何が言いたいのか解読できなかった。


※記事の評価はD(問題あり)。田村正之編集委員への評価もDを据え置く。ただ、田村編集委員がマネー&インベストメント面に記事を書くときに頼りにしているイボットソン・アソシエイツ・ジャパンが今回は出てこなかった。これは評価できる。記事を書く上で、特定の企業に頼りすぎるのは好ましくないので…。

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