2016年4月25日月曜日

週刊エコノミスト 核抑止力巡る桜井宏之氏の珍妙な論理

「この人は本当に軍事の専門家なのかな」と思わせる記事が週刊エコノミスト5月3日・10日号の「新聞に載らない経済&投資」という特集に出ていた。「米大統領選~トランプ発言 在日米軍基地撤退あり得るのか?」という記事を執筆したのは軍事問題研究会代表の桜井宏之氏。「仮に核武装すると、北朝鮮を抑止できるのか」と問題提起した後で抑止力を否定し、「つまり現状では米国に頼らざるを得ないのである」と結論を導き出している。しかし、そこに至る論理展開が珍妙すぎる。

佐田川と菜の花(福岡県朝倉市) ※写真と本文は無関係です
問題のくだりは以下のようになっている。

【エコノミストの記事】

平壌の人口は約250万人で面積は約1000平方キロメートル程度と見られている。これに基づくと1平方キロメートル当たりの人口密度は約2500人となる。それに対して、東京23区の人口密度は約1万9000人で、最も昼間人口密度の高い千代田区に至っては約7万人にもなる。

したがって、両国が東京と平壌にそれぞれ同規模の核攻撃を加えた場合、東京は平壌の7.6倍、千代田区に限定すれば28倍の人的被害を被ることになる。それに対抗して日本が平壌に対して千代田区と同等の人的被害を求めようとするのであれば、北朝鮮の28倍の核戦力を保有する必要が生じる

北朝鮮と同規模の核戦力では日本の敗北は必至であり、日本が北朝鮮の28倍の核戦力を追及し始めれば北東アジアの戦略的安定は溶解し、米国を含め国際社会から排斥の憂き目に遭うことは間違いない。

この矛盾を解決するには、北朝鮮の28倍を超える核戦力を持つ国に依拠するしかない。つまり現状では米国に頼らざるを得ないのである

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上記の記述に関して、疑問点を挙げてみよう。

◎「同等の人的被害」が抑止力の条件?

「『同等の人的被害』を与えられる規模でないと核兵器を持っても抑止力にならない」と桜井氏は考えているようだ。記事では「核抑止論では、抑止が成立する条件の1つとして、挑戦側が攻撃で得られる利益を上回るコストを抑止側が強いる能力を持っていること、としている」と書いている。これはその通りだろう。

北朝鮮が日本国民全員を一気に殺せる核戦力を持っている一方で、日本は平壌を壊滅させるだけの核戦力しか持たないと仮定しよう。この場合、核攻撃によって日本を滅ぼすことは、平壌壊滅のマイナスを上回って余りある利益を北朝鮮にもたらすだろうか。狂った独裁者がそう考える可能性は否定できないが、普通に考えれば「コストに見合った利益が得られない」と判断するはずだ。ということは、立派に抑止力になる。


◎「北朝鮮と同規模の核戦力では日本の敗北は必至」?

北朝鮮と同規模の核戦力では日本の敗北は必至」という説明は明らかに間違っている。「北朝鮮と同じ面積を焦土にできる核戦力を両国が持っていて、それを使い切る」と考えてみよう。日本は北朝鮮の約3倍の広さがあるので壊滅を免れる地域もかなり残るが、北朝鮮は全土が焼け野原となり、戦争継続が困難になる。犠牲者数では日本が上回るだろうが、だからと言って「敗北必至」ではない。

北朝鮮が日本全土を一瞬で焦土にできる核戦力を保持している場合、基本的に「両国とも壊滅」だろう。北朝鮮の28倍の核戦力を持てば日本に勝ち目があるとも思えない。

国際社会から排斥の憂き目に遭う」から核戦力を保持せずに取りあえず米国頼みで行こうとの考え方がおかしいとは言わない。しかし、「核保有が抑止力にならない」とか「抑止力を得たいのならば北朝鮮の28倍を超える核戦力を持つ必要がある」というのは明らかな誤りだ。軍事には疎い方だが、これは断言できる。

立場を変えてみれば、桜井氏も簡単に理解できるはずだ。日本が米国並みの核戦力を持っていて、北朝鮮は日本の大都市を1つか2つ灰にする程度の核戦力しか持っていないとしよう。その場合、「そんな戦力じゃ抑止力にならないよ。いざとなれば、いつでも核兵器をお見舞いしてやるよ」という気持ちに日本側はなれるだろうか。

「米国に守ってもらう今のやり方がベスト」という強い思い込みが先にあって、それを正当化するために後付けで理屈を考えているのだろう。そうでなければ、軍事知識の豊富なはずの筆者がこれほどおかしな論理展開をするとは考えにくい。


※記事の評価はD(問題あり)。桜井宏之氏への評価も暫定でDとする。

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