2016年4月24日日曜日

合格点だが問題あり 週刊ダイヤモンド「お金の賢者と愚者」

週刊ダイヤモンド4月30日・5月7日号の特集「お金の賢者と愚者」は、新社会人などが読む入門書的な記事としては合格点を与えられる。「お任せが売りのファンドラップは手数料の塊」といった形で手数料の高い金融商品に厳しい書き方をしており、好感が持てる。金融業界からの回し者の如くラップ型投信に読者を誘い込もうとする日経の記者には、特に見習ってほしい。

とは言え、問題も散見された。まずは記事の書き方に関する初歩的なミスから指摘したい。「電力自由化~ガス自由化でさらに料金下落 鉄則を知れば絞り込みは簡単」という記事の以下のくだりを読んで、「ジェラ」とは何か瞬時に理解できるかどうか試してほしい。

福岡県立浮羽工業高校(久留米市) ※写真と本文は無関係です
【ダイヤモンドの記事】

その観点で電気料金メニューを出している会社を見ていくと、2~3社に絞ることは意外と簡単だ。

各社が狙う首都圏を例に考えてみよう。首都圏で電力事業を行う企業の中で、LNGを大量に仕入れている企業といえば東京電力。年間2500万トンと国内トップの輸入量だ。次は中部電力で年間約1500万トン。このツートップは、実は燃料調達分野で合弁会社を設立している。単純計算で、約4000万トンの輸入量となるのだ。

ガス業界トップの東京ガスは年間1200万トンの輸入量を誇るが、ジェラとの差は大きい。もちろん東京ガスには、ガス事業を長年担ってきたノウハウがあり、東電・中部にはない強みだ。だが、LNGを上流から大量に仕入れるジェラを有する東電・中部が、現時点では頭一つ抜きんでている

光熱費で賢い選択をしたければ、来年のガス自由化で起こるエネルギー業界の構造変化を押さえておくべきだろう。

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最初に読んだ時は「えっ! ジェラって何?」と思って記事の最初まで遡って探してしまった。最後まで読むと「LNGを上流から大量に仕入れるジェラを有する東電・中部」という記述もあるので、「燃料調達分野での合弁会社」が「ジェラ」だと推定はできる。

ただ、いきなり「ジェラ」はまずい。「実は燃料調達分野でジェラという合弁会社を設立している」などと書いておくべきだ。ついでに言うと「東電・中部」という略し方は違和感がある。普通は「東電・中部電」だろう。

今回の特集で最も気になったのは特集のタイトルである「お金の賢者と愚者」にも関わる「賢者」と「愚者」の分類だ。ダイヤモンドは以下のように色分けしている。

【ダイヤモンドの記事】

ただ、先にも述べたように年収別に結果を並べても、「賢者」と「愚者」の境目は見えにくい。

そこで、人生の満足度を調べるために、「現在、幸せかどうか」について5項目で尋ねた。

具体的には、「仕事」「資産」「家庭」「余暇・休暇」「社会貢献・地域活動」について、それぞれ0から10までの11段階で、現在の満足度を測ったのである。

これによって、フローの収入を中心とした仕事の満足度だけでなく、資産というストックを加味したことになる。私生活でも、家庭や余暇の満足度に加えて、地域社会とのつながりも評価した。

その5項目を加重平均し「総合満足度」を算出した。これが人生の満足度となると考えたからだ。

そこで、総合満足度の中心となる値(中央値、5.2)を境目に、それ以上の人を「賢者」、未満の人を「愚者」と位置付けた

 総合満足度に加えて、世帯年収が1000万円以上かどうかを見て、回答者を四つのタイプに分類した。平均的な姿を示したのが、図1であり、次のようになる。

[金持ち賢者]
【平均世帯年収1305万円、総合満足度6.7】

[庶民賢者]
【平均世帯年収637万円、総合満足度6.4】

[金持ち愚者]
【平均世帯年収1270万円、総合満足度4.0】

[庶民愚者]
【平均世帯年収582万円、総合満足度3.6】

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この分類には大きく2つの問題がある。

◎問題その1)満足度が高いと「賢者」なのか?

仕事」「資産」「家庭」「余暇・休暇」「社会貢献・地域活動」について「満足度が高い人=賢い」「満足度が低い人=愚か」との分類に納得できるだろうか。例えば、親の介護が大変で家庭生活に満足できない人は「愚か」なのか。資産家の親から多額の資産を相続して満足している人は「賢い」のか。仕事や家庭への満足度で「幸福か不幸か」は判断できるだろうが、「賢いか愚かか」を測れるとは思えない。

今回の分類を用いるならば「幸福な金持ち」「不幸な金持ち」「幸福な庶民」「不幸な庶民」とでもすべきだろう。

◎問題その2)「金持ちかどうか」に資産は関係ない?

記事の分類では、「金持ち」か「庶民」かを年収だけで判断している。資産は「賢者か愚者か」の判定に使っているだけだ。常識的に考えれば、金持ちかどうかは収入と資産の両面で判断するはずだ。

最後に1つ、「図解 シェアリング~物入り子育て世代がけん引 『共有』するスマート生活」という記事にツッコミを入れておきたい。

【ダイヤモンドの記事】

物だけでなく場所のシェアも盛んで、仲間でキッチン付きレンタルスペースを借り切り、酒や食事を持ち寄る飲み会が流行している。外食するより格安で済むからだ。

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図では「居酒屋5000円(1回1人当たり)→レンタルスペース2000円程度(1回1人当たり、お酒・食事は持ち込み)」となっている。「お酒・食事は持ち込み」で、さらにスペース代として2000円も取られるならば「格安」とは言い難い。そもそも、単に安く済ませたいならば、誰かの家で飲む方が効果的だ。


※特集全体への評価はC(平均的)。小栗正嗣編集委員、片田江康男、北濱信哉の各記者については暫定でCと格付けする。清水量介副編集長の格付けは暫定D(問題あり)から暫定Cへ引き上げる。柳澤里佳記者は暫定B(優れている)を、岡田 悟記者はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。岡田記者の評価に関しては「週刊ダイヤモンドも誤解? ヤフー・ソニーの『おうちダイレクト』」を参照してほしい。

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