2015年11月8日日曜日

間違い続出? 日経ビジネス 田村賢司編集委員の記事(1)

久しぶりに日経ビジネスの記事を取り上げたい。11月9日号に田村賢司主任編集委員が書いていた「スペシャルリポート 戦後70年の日本経済-最終回- 物価下落はなぜ止まらないのか 『失われた20年』、4つの要因 デフレ脱却は民間活力から」という記事は問題が多かった。分析そのものへの疑問は後で述べるとして、まずは記事中の間違いと思える記述に言及したい。日経ビジネスに問い合わせを送ったので、その中身を紹介しよう。問い合わせの長さがこの記事の問題の大きさを表しているとも言える。

英彦山の登山道(福岡県添田町) ※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスへの問い合わせ】

58~61ページの記事についてお尋ねします。

1、60ページに「2001年3月になって金融緩和策に切り替えたが、規模は小さく、2006年3月にはそれも終了してしまった」と書かれていますが、切り替えたのは「量的緩和政策」ではありませんか。記事に付いている表では「日銀、量的緩和政策を実施=01年3月」「日銀、量的緩和政策を終了=06年3月」となっています。記事が正しいとすると、01年3月に引き締め策から緩和策へ転換したと受け取れますが、実際の経緯と一致しません。

2、記事に付けた表で「1999年2月 日銀、ゼロ金利政策実施 日銀が金融緩和に乗り出した」となっています。この書き方だと「それまでは金融緩和に乗り出していなかった」と解釈できますが、実際には1991年7月に公定歩合を引き下げて、金融緩和に乗り出しています。記事の説明は誤りではありませんか。

3、59ページに「日本では旧三洋証券が会社更生法の適用を申請した。その約3週間後に旧山一証券が自主廃業を決め、後を追うように旧北海道拓殖銀行が経営破綻、深刻な金融危機に陥った。翌98年には日本長期信用銀行、日本債券信用銀行が公的管理に入り」と書かれています。三洋証券、山一証券、拓銀には「旧」を付けていますが、長銀と日債銀には「旧」がありません。この理由は何でしょうか。一般的に、会社自体が消滅した山一証券などには「旧」が不要で、名称を変えて現存する長銀や日債銀には「旧」があった方がよいと思えます。

※以下は回答を求めるものではありません。今後の参考にしてください。

4、記事に付けた表で「2014年10月 FRBがQE3を終了へ FRBが金融緩和政策の終了を決めた」と表記されています。これはやや意見の分かれるところですが、一般的には「量的緩和政策の終了=金融緩和政策の終了」とは考えないはずです。量的緩和終了後もゼロ金利政策が継続されるのであれば、「金融緩和は続いている」と見るのが自然です。

5、61ページに「日本企業が保有する現預金は、今年1~3月期には240兆円にも達している」との記述があります。この「240兆円」は3月末の数字でしょう。ならば「3月末で240兆円」と表記した方が適切です。

6、61ページに「設備投資については今年度、前期比で10.9%増やす」との記述があります。「今年度」であれば「前期比」ではなく「前年度比」の方が適切です。

7、59ページに「日本経済にまとわりつくデフレスパイラル」との記述があります。この書き方だと「現在も日本経済はデフレスパイラルの中にいる」と解釈できます。「現在もデフレが続いているかどうか」は議論の対象になるでしょうが、「デフレスパイラルかどうか」に関しては、議論が成立しないはずです。現状を「デフレスパイラル」と見ているエコノミストはまずいないでしょう。

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田村編集委員のデフレ分析については(2)で論じる。上記の問い合わせに対する回答があれば、それも併せて紹介したい。

※(2)へ続く。

2015年11月7日土曜日

「仲介業者に頼らず」に偽りあり 日経「ビジネスTODAY」(2)

6日の日本経済新聞 朝刊企業総合面に出ていた「ビジネスTODAY~中古マンション、自ら売る 個人間取引、仲介業者に頼らず ヤフーとソニー系がサイト開設」の後半部分について、引き続き問題点を見ていく。記事では「消費者にとっては選択肢の広がる新サービスだが、一気に支持を得られるかは未知数だ」と指摘しており、手放しで新サービスを持ち上げているわけではない。ただ、「未知数」とする理由が説得力に欠ける。
福岡城跡(福岡市中央区)からの眺め ※写真と本文は無関係です

記事では以下のように書いている。

【日経の記事】

加えて、買い主候補もまだ売り出されていない物件に関する購入希望を表明したり、売り出し中の物件の所有者に直接問い合わせたりすることができる。消費者にとっては選択肢の広がる新サービスだが、一気に支持を得られるかは未知数だ。

人生で最大の買い物である不動産に消費者の反応は敏感になる。特にネット上での取引には個人情報の扱い、売買成立後のトラブル対応など懸念材料がつきまとう

例えば、横浜市で発覚したマンション傾斜問題など不測の事態にどう対応するのか。「想定されるトラブルについては関係省庁や機関と日々詰めている」(西山氏)とはいえ、個人間売買では売り主自身が対応の矢面に立つことになる。二の足を踏む消費者が出てくる可能性はある。

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そもそもこのサービスは「ネット上での取引」なのか。物件見学の申し込みまではネットでできるようだが、会社のサイトを見ても、全ての取引がネットで完結するとは確認できなかった。「ネット上での取引」と言えないならば、話の前提が崩れてしまう。

不測の事態にどう対応するのか」とか「個人間売買では売り主自身が対応の矢面に立つことになる」といった話は、このサービスに限ったものではない。「新サービス」について「一気に支持を得られるかは未知数だ」と書くならば、新サービスゆえの不安要素を挙げるべきだろう。

次は「ヤフーの中立性を巡る問題」を検討する。

【日経の記事】

既存のサービスで不動産会社から提供を受けた情報をネット上で発信しているヤフーに対し、業界団体の不動産流通経営協会は「自らが不動産の取引に関わるのは公平性が保たれない」と主張。12月以降、住宅情報の提供をやめる。ヤフーの宮坂学社長は「消費者に中立なサービスにしたい」と話すものの、ヤフーの中立性を巡る問題が今後の火種となりかねない。

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上記のくだりは理解に苦しんだ。業界団体の主張を受けてヤフーが「12月以降、住宅情報の提供をやめる」のであれば、「中立性を巡る問題」は解決したのではないか。なのに「今後の火種となりかねない」と書いてあるので、混乱してしまった。「住宅情報の提供」以外にも中立性を問われる事案があるのかもしれないが、記事では触れていない。これでは、お世辞にもきちんと説明しているとは言えない。

そして、最後の段落に関してもコメントしておこう。

【日経の記事】

不動産の取引に占める中古物件の流通量が8~9割という欧米に比べ、日本はまだ1割強。人口減に伴う空き家の増加なども問題となるなか、ヤフーとソニー不動産が投じた一石は中古不動産市場を見直す契機になることは間違いない

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筆者である星記者と花井記者が「ヤフーとソニー不動産が投じた一石は中古不動産市場を見直す契機になることは間違いない」と感じたいのならば、それは尊重する。しかし、もう一度考えてほしい、このサービスでは本当に「仲介業者に頼らず」売買できるのだろうか。本当に「ネット上での取引」と呼ぶべきものなのか。本当に高い新規性を有するサービスなのか。真摯に検討すれば、自ずと答えは浮かび上がってくるはずだ。


※記事の評価はD(問題あり)。星正道、花井悠希の両記者への評価も暫定でDとする。記事を担当したデスクの責任が重いことも付け加えておく。

2015年11月6日金曜日

「仲介業者に頼らず」に偽りあり 日経「ビジネスTODAY」(1)

6日の日本経済新聞 朝刊企業総合面に出ていた「ビジネスTODAY~中古マンション、自ら売る 個人間取引、仲介業者に頼らず ヤフーとソニー系がサイト開設」は、大したことのない話を大々的に取り上げているとしか思えなかった。見出しには「仲介業者に頼らず」とあるが、記事には「物件の見学や売買条件の調整、決済や物件の引き渡しなど実務はソニー不動産が支援」と書いてある。どう考えてもソニー不動産という仲介業者に頼っている。詳しく報じる価値などない発表だと、筆者である星正道記者と花井悠希記者は気付かなかったのだろうか。
英彦山神宮奉幣殿(福岡県添田町) ※写真と本文は無関係です

記事の詳細を見ていこう。

【日経の記事】

ヤフーとソニー不動産(東京・中央)は5日、個人がインターネットを使ってマンションを売買できるサービスを始めたと発表した。仲介業者と消費者の間にあった物件情報の格差をIT(情報技術)の活用で解消。売り主が自分で決めた売却価格で買い主を探せるようにする。仲介業者頼みの現状に風穴を開け、中古不動産市場の活性化につなげられるか。

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売り主が自分で決めた売却価格で買い主を探せるようにする」と書くと、これまでは自分の決めた売却価格で買い主を探せなかったように感じるが、そんなことはない。これまでも売り主は自分で売却価格を決められたはずだ。もちろん業者の助言を参考にはしただろうが…。


【日経の記事】

「オープンで公平な仕組みを作る」。記者会見したソニー不動産の西山和良社長は新しいサービス「おうちダイレクト」の意義をこう語った。まず東京都心6区のマンションを対象に立ち上げ、順次地域を広げる。

マンションの所有者がサイト上で登録すれば、購入希望者とネット上で情報をやりとりし、売買交渉ができる仕組み。物件の見学や売買条件の調整、決済や物件の引き渡しなど実務はソニー不動産が支援。手数料は売り主を無料とし、買い主から「成約価格の3%+6万円」を受け取る

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売り主からは手数料を取らないとは言え、買い主から「成約価格の3%+6万円」を受け取るのであれば、手数料の名目を何にしようと、実態としては不動産売買の仲介だ。これで「仲介業者頼みの現状に風穴を開け」られるのか。


【日経の記事】

新サービスの要となるのはソニー不動産がソニーと開発した人工知能による「不動産価格推定エンジン」だ。物件の立地や部屋の特徴といった情報を首都圏約5万棟のマンションの取引データに照らし合わせて推定成約価格をはじき出す。専門知識や相場情報に乏しい消費者でも売り出し価格の目安がつく。

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これが「新サービスの要」ならば、このサービスは本当に大したことがない。「仲介業者と消費者の間にあった物件情報の格差をIT(情報技術)の活用で解消」するような代物でもなさそうだ。「人工知能」に頼らなくても、過去の取引情報から判断して業者は値付けの助言ができる。それを、もっともらしい「不動産価格推定エンジン」にやらせるだけだろう。仮にこのエンジンが完璧なものでも、仕組みはあくまで業者任せだ。例えば、「エンジンが割り出した適正価格の10%低い価格を売り主に提案する」とプログラムしておけば、簡単に売り主をだませる。

このサービスの利用者がソニー不動産との情報格差を解消するためには、ソニー不動産が持つ取引情報に社内の人間と同じレベルでアクセスする必要がある。そんなことが可能かどうか、少し考えれば分かるはずだ。

記事の後半部分の問題点は(2)で述べる。

※(2)へ続く。

日経1面「郵政上場」解説記事 瀬能繁編集委員に問う(2)

瀬能繁編集委員が5日の日本経済新聞朝刊1面に書いた「官業脱却、市場が監視」について、引き続き疑問点を挙げていく。記事では「経営陣が求めていないお節介はやめろ」と言いながら「経営陣が求めていないお節介もやるべきだ」と訴えているように見える。つまり矛盾している。瀬能編集委員は具体的には以下のように書いている。
英彦山山頂(福岡県添田町) ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

官業の引力はなお強い。自民党はゆうちょ銀行への預入限度額を増やすよう求める。資産効率化をめざす経営陣が求めない提言は「お節介」に等しい。政治の介入で経営が迷走し時価総額が減れば郵政株の売却益を財源とする復興資金も足りなくなる。このねじれを政治はどうとらえるか。

過疎地が求める郵便局網の維持は切実な願いだが、法律でユニバーサルサービス(全国展開)義務を課す仕組みが正しいかは別問題だ。日本郵政自身が「(全国津々浦々の郵便局網は)大きな組織の基礎であり、国民の支持がある」(西室泰三社長)と考えている。民の工夫を生かす仕組みにしなければ草の根の改革も芽生えないだろう。

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預入限度額の引き上げに関して「経営陣が求めない提言は『お節介』に等しい」と断じ、「政治の介入で経営が迷走し時価総額が減れば郵政株の売却益を財源とする復興資金も足りなくなる」と訴えている。預入限度額の引き上げは規制緩和なので日本郵政にメリットがありそうな気もするが、取りあえず「経営陣が求めないお節介は控えるべき」との立場を受け入れてみよう。

すると「ユニバーサルサービス義務」の話と辻褄が合わなくなる。「日本郵政自身が『(全国津々浦々の郵便局網は)大きな組織の基礎であり、国民の支持がある』(西室泰三社長)と考えている」のならば、経営陣はユニバーサルサービス義務の見直しを求めてはいないのだろう。であれば、見直しは明らかな「お節介」であり、控えるべきとの結論になるはずだ。

しかし、実際は逆になっている。「過疎地が求める郵便局網の維持は切実な願いだが、法律でユニバーサルサービス(全国展開)義務を課す仕組みが正しいかは別問題だ」と瀬能編集委員は主張する。そして「民の工夫を生かす仕組みにしなければ草の根の改革も芽生えないだろう」と見直しの必要性を強調する。「経営陣が求めない提言はお節介に等しい」と言っていたのは、何だったのだろうか。「政治の介入で経営が迷走」すると困るのであれば、ユニバーサルサービス義務に関しても、経営陣が求めてこない限り政治が手を突っ込むべきではない。

そもそも「資産効率化をめざす経営陣が求めない提言は『お節介』に等しい」からと言って、預入限度額の引き上げという規制緩和を否定するのが、よく分からない。規制に守られている業界の主要企業が資産効率化を進めていた場合、「規制緩和は必要ありません」と経営陣が言えば規制緩和は控えるべきなのか。経営陣が求めていてもいなくても、市場全体あるいは社会全体にとってプラスになると思えれば、規制は緩和すべきだろう。

結局、瀬能編集委員には論理的に記事を構成する能力が欠けている。理屈に合わない記事を世に送り出しているのは、今回が初めてではない。社内でもかなりの数の人間がそのことに気付いているはずだ。なのに、編集局の幹部はなぜ瀬能編集委員に記事を書かせてしまうのだろうか。


※記事の評価はD(問題あり)。瀬能繁編集委員への評価もDを維持する。この評価については「ほとんど何も分析しない記事」を参照してほしい。

2015年11月5日木曜日

日経1面「郵政上場」解説記事 瀬能繁編集委員に問う(1)

郵政上場、次は成長力」という5日の日本経済新聞1面トップの記事に付けた解説記事「官業脱却、市場が監視」は首を傾げたくなる内容が目立った。筆者が瀬能繁編集委員なので当然なのかもしれないが…。まず引っかかったのが、民営化後に「設備投資も止まった」という日本郵政幹部のコメントだ。これはどうも怪しい。日経に問い合わせを送ったので、その内容を紹介しておく。「瀬能編集委員にも届けてほしい」とお願いしてあるが、筆者からの回答はないだろう。
英彦山の銅鳥居(福岡県添田町) ※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

記事中で瀬能繁編集委員は「株式会社として2007年に発足した日本郵政は『民営』ながら『国有』というねじれを残した。政争の具になった結果、経営の緊張感も失われ『設備投資も止まった』(日本郵政幹部)」と説明しています。しかし、日本郵政の公表している資料によると、民営・分社化後も2013年度まで年間1600億円程度の設備投資を継続していたようです。14年度以降は投資額を膨らませています。つまり「設備投資は止まっていなかった」のです。

民営化後に「設備投資の伸びが抑制された」「設備投資が十分にはできなかった」といったことはあるでしょう。しかし、それらを指して「設備投資が止まった」とは考えないはずです。常識的に判断すれば「設備投資が止まった=設備投資が凍結された」となります。投資額がごくわずかであれば「止まった」と表現しても許容範囲内かもしれません。しかし年間1000億円を超える設備投資があったのであれば、「止まった」と説明するのは、無理があります。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。

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日本郵政ぐらいの規模になると、設備更新だけでもかなりの額になるだろうから設備投資が止まることは基本的にないはずだ。「日本郵政幹部のコメントだから間違っていても許される」というものでもない。会社の公表資料を少し調べれば「止まっていない」のは、すぐに分かるはずだ。もちろん「ごく短い期間は設備投資が凍結された」といった可能性は残る。仮にそうなら、そこはきちんと説明しないと読者に誤解を与えてしまう。

記事には他にも問題を感じた。それらは(2)で述べる。

※(2)へ続く。

日経 中西豊紀記者「ウォール街ラウンドアップ」の低い完成度

4日の日本経済新聞 夕刊マーケット・投資1面に載った「ウォール街ラウンドアップ~米アルミに吹く2つの風」の完成度は、がっかりするほど低かった。筆者であるニューヨーク支局の中西豊紀記者には、書き手としての技術の低さを感じる。記事を見ながら、問題点を順に指摘してみたい。

大濠公園(福岡市中央区) ※写真と本文は無関係です
◎アルミは「業種」?

【日経の記事】

3日のダウ工業株30種平均は続伸し、1万8000ドルの大台が視野に入ってきた。10月の米新車販売台数が前年同月比で13.6%増えたとの発表を受け、米自動車市場の堅調さが相場を支える材料の一つとなった。ところが自動車とつながりが深いにもかかわらず株価が一向に上向かない業種がある。アルミだ

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最初の段落で「株価が一向に上向かない業種がある。アルミだ」と書いているが、「アルミ」という業種はあるのだろうか。業種の分類方法にも色々あるとはいえ、一般的には「非鉄」か「素材」だろう。個人的には「アルミ業界」はあっても「アルミ」という業種はない気がする。


◎「10月に年内に閉鎖」?

【日経の記事】

中堅のセンチュリー・アルミニウムも10月にサウスカロライナ州にある製錬所を年内に閉鎖し、600人近くを削減する可能性があると発表している。そうなれば米国に残るアルミ製錬所は4つになる。

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10月にサウスカロライナ州にある製錬所を年内に閉鎖」という部分が非常に読みにくい。「10月に~発表している」と言いたいのだろう。しかし、稚拙な書き方ゆえに読者へ余計なストレスを与えてしまっている。「米国に残るアルミ製錬所は4つになる」に関しても、センチュリー・アルミニウムの話なのか、業界全体の話なのか明示した方が親切だ。文脈から判断すると後者のようなので、その前提で改善例を示しておく。

【改善例】

中堅のセンチュリー・アルミニウムも「サウスカロライナ州にある製錬所を年内に閉鎖し、600人近くを削減する可能性がある」と10月に発表している。そうなれば米国のアルミ製錬所は業界全体で4つになる。



◎「65%」だけでは何とも…

【日経の記事】

苦境を救うと期待されるのが航空機などの新分野だ。鉄の3分の1程度の重さのアルミは軽量化に役立つ。ボーイングは小型旅客機の「737」でアルミ材を採用。フォード・モーターも主力ピックアップトラック「F150」の骨格にアルミ合金を全面採用した。

成果は出てきた。「737」は1~9月期の出荷が前年同期比で6機多い126機と好調だ。フォードも10月に販売したピックアップトラックの65%がF150という

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フォードも10月に販売したピックアップトラックの65%がF150という」と言われても、それだけでは「成果が出てきた」かどうか何とも言えない。例えば、8月は「75%」で9月は「70%」だったらどうか。あるいは比率は「65%」でも、販売台数が前年同月比10%減だったらどうか。過去との比較もせずに「65%」という数字だけ持ち出されると、「実は大したことないのでは?」と疑いたくなる。


◎いきなり「川下事業」と言われても…

【日経の記事】

だが、こうした明るいニュースも投資家の評価には結びついていない。ボーイングやフォードと取引するアルコアの株価は1月を基準とすると約40%下落した。同期間にS&P500種株価指数は2%強の上昇だ。アルコアが10月8日に発表した7~9月期決算は、純利益が前年同期比7割減の4400万ドル(約53億円)と振るわない。

不振の理由には川下事業特有の利幅の薄さもある。特に航空機や車のように製品の寿命が5~10年に及ぶ分野では、長期の取引が約束されるかわりに価格は低く留め置かれる。

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日経の過去の記事によると、アルコアには「ボーキサイト採掘やアルミ生産を手がける川上事業と、航空機向け部材などを含む川下の加工品事業」があるらしい。しかし、アルコアがそういう分け方をしているとは、ほとんどの読者は知らないだろう。なのに注釈なしに「川下事業」と書かれても困る。「自分が分かっていることは読者も分かっているはず」との思い込みは排してほしい。

ついでにもう1つ。「株価は1月を基準とすると約40%下落した」という書き方は薦めない。これだと年始と比べているのか1月末と比べているのか、あるいは1月の月間平均と比べているのか、よく分からない。


◎「追い風に翻弄される」?

【日経の記事】

自動車など伝統的な製造業が一国の経済で重視されるのは取引の裾野が広いからだ。だが、アルミは業績も株価も自動車や航空機の恩恵を十分に受けているとは言いがたい。むしろ中国発の逆風が米国内の追い風に勝っている感がある。米企業に吹き付ける2つの風。翻弄されるのはアルミだけではないだろう

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逆風」に「翻弄される」のは分かる。しかし、中西記者は「米国内の追い風」にも「翻弄される」と書いている。あり得ないとは言わないが、例えとしてはしっくり来ない。


※こうやって見てくると、この記事はやはり問題が多い。記事の評価はD(問題あり)で、中西豊紀記者の評価も暫定でDとする。中西記者には「このままではダメだ」という強い危機感を持ってほしい。

2015年11月4日水曜日

「Why」に触れない日経ベタ記事「デリバティブ売買高31%減」

読者をなめているとしか思えないベタ記事が3日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に出ていた。問題の「デリバティブ売買高31%減 10月、大阪取引所」という記事は以下のような内容だ。

ビューホテル平成(福岡県朝倉市)から見た筑後平野
                ※写真と本文は無関係です
【日経の記事(全文)】

大阪取引所が2日発表した10月のデリバティブ(金融派生商品)売買高は前年同月比31%減の2612万枚だった。中国経済の減速懸念で膨らんだ株安リスク回避目的の売買が一段落し、9月に比べると29%減少した。主力のミニ日経平均先物は前年同月比29%減の1879万枚だった

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10月の売買高は「前年同月比31%減」とかなり大きく落ち込んでいる。見出しにも「31%減」を使っている。しかし、前年同月比に関しては「Why」に全く触れていない。「中国経済の減速懸念で膨らんだ株安リスク回避目的の売買が一段落し、9月に比べると29%減少した」と前月比で減った理由を書いているだけだ。これは怠慢が過ぎる。さらに「主力のミニ日経平均先物は前年同月比29%減の1879万枚だった」と前年同月との比較を持ってくるが、ここにも「Why」はない。

前年同月比の減少の背景を説明できないなら、前月比の数字だけを見せればいい。前年同月との比較を前に押し出すならば、ベタ記事とはいえ、減少の理由を述べるしかない。こんな記事を紙面化してしまうのは、記者もデスクも基礎的な技術が身に付いていないからだ。そこに早く気付いてほしい。

※記事の評価はE(大いに問題あり)。