台湾有事を扱うほとんどの記事では肝心なシナリオを検討していない。週刊ダイヤモンド8月27日号に載った「台湾有事で日本人の想像を絶する『過酷シナリオ』、気付けば自衛隊が中国軍と対峙し大損害」という記事もそうだ。冒頭部分を見ていこう。
大山ダムの銅像 |
【ダイヤモンドの記事】
緊迫する台湾情勢を巡っては、安全保障の専門家の間では常識でも、国民があまり知らない“不都合な真実”がある。それは、米国が日本の自衛隊に中国の人民解放軍への攻撃を要請することが考えられ、日本がそれに応じた場合、大損害を被る可能性が高いということだ。
ほとんどの日本国民は有事の際の日本の役割は「米軍の後方支援」だと考えているだろう。だが、日本が台湾有事に巻き込まれ、気が付いたら中国と直接戦っていたという事態は十分にあり得るのだ。
◎攻められなくても攻めるのか…を考えないと
中国が台湾への軍事行動に踏み切った場合、武器供与などの支援はするが派兵はしないというウクライナ型の対応を米国はすると見ている。これがメインシナリオだが「米国が日本の自衛隊に中国の人民解放軍への攻撃を要請する」事態も当然に想定すべきだ。
この時に最も対応に苦慮するのが日本への攻撃を受けていない場合だ。「日本への攻撃はしないから中立を守ってほしい。しかし米国と共に軍事介入するならば核攻撃を含めあらゆる反撃を日本本土に仕掛けていく」と中国が警告しているとしよう。
そして米国が「自衛隊に中国の人民解放軍への攻撃を要請」してきた。属国である日本に拒否する選択はあるのか。ここを考える必要がある。
日本は台湾を独立国とは認めていないので、台湾有事は中国の“内戦”とも言える。何の攻撃も受けていない日本がその“内戦”に軍事介入するのか。この場合「日本がまた侵略してきた」という中国の主張に説得力が出てしまう。
この状況で中国と戦って多数の日本人が命を落とすことを国民は許容するだろうか。許容しなくても政府が押し切って米国の子分として中国と戦うべきか。台湾有事で最も判断に迷うのはここだ。しかし、今回の記事でも触れてはいない。
「気が付いたら中国と直接戦っていた」という想定で話を進めているが、問題なのは「攻められていない状況でも米国と共に軍事介入するのか」だ。
記事の言う「過酷シナリオ」も一応は見ておこう。
【ダイヤモンドの記事】
自衛隊の基地はほとんどが中国のミサイルの射程圏内にあり、圏外に退避するのは難しい。自衛隊は中国の攻撃に耐えながら、海兵隊など退避せずに残った軍による“我慢の戦い”を側面支援するしかない。
数週間後、ようやく米軍が来援したとしても、自衛隊が一息つけるわけではない。
というのも、米軍が、自衛隊の戦闘機Fー35や潜水艦を前線に投入するように求めてくる公算が大きいからだ。米軍の戦死者が増え、米国内で「同盟国である日本も一緒に最前線で戦うべきだ」という世論が高まれば、日本が米軍の要請を断るのは簡単ではなくなる。
日米と中国の戦いはエスカレートし、双方が大きな損害を受ける。
◎「中国が先制攻撃」なら迷いはないが…
中国が日本に先制攻撃を仕掛けてきたのならば迷いはない。「大きな損害」を覚悟して戦うのもいいだろう。
問題は先述したような状況の場合だ。日本人の多くが戦争を望まないのに、親分である米国に逆らえずに中国の“内戦”に介入する形で戦争が始まり、日本は侵略者として中国からの反撃を受ける。そして「自衛隊の基地」などが「中国の攻撃」の対象となり、自衛隊員だけでなく多くの民間人にも死傷者が出る。
「なぜ日本は再び中国を侵略するのか」「なぜ台湾を守るために、多くの日本人の命が犠牲なる必要があるのか」
難しすぎる問いなのか、多くの書き手がこの問題から逃げているように見える。
週刊ダイヤモンド編集部では、この問題にぜひ答えを出してほしい。
※今回取り上げた記事「台湾有事で日本人の想像を絶する『過酷シナリオ』、気付けば自衛隊が中国軍と対峙し大損害」
https://diamond.jp/articles/-/307609
記事の評価はC(平均的)
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